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The Birthday「COME TOGETHER TOUR 2014」最終日、渋谷公会堂をレポート

The Birthday | 2014.10.21

 アルバム『COME TOGETHER』を掲げたツアーは、夏を挟んで前編・後編に分かれた2本立て。その後編の最終日で、The Birthdayは初めて渋谷公会堂に登場した。“オールスタンディングの王者”と言ってもいいロックバンドの注目のホールライブは、非常に完成度が高く、このバンドの新たなキャリアを輝かしく刻んだのだった。

 『COME TOGETHER』はギタリスト・フジイケンジが加入して3作目となるアルバムで、バンドに起こった変化が最初の完成を迎えたことを告げていた。フジイはグルーヴィーなロックギターを得意とする一方で、“歌モノ”へのアプローチに唯一無二のテイストを持っている。そんな彼の特性がThe Birthdayの音楽に幅を与え、バンド自体のスケール・アップに果たした貢献には計り知れないものがある。殊に1曲目の「くそったれの世界」と、ラストの「COME TOGETHER」は素晴らしく、「くそったれの世界」はThe Birthdayならではの世界讃歌であり、「COME TOGETHER」はThe Birthdayらしいロック讃歌で、見事に対をなしてアルバムを支えていた。今回、長いツアーのファイナルに渋公を選んだのは、そうした変化の成果を“ホール”で問うためであり、同時にメンバーの自負と自信を表わしていた。

 いつもは“最前列争い”であわただしい入場風景になるが、座席指定があるために、この日はThe Birthdayにしては珍しく、ゆったりとした開演前になった。

 開演を告げるのは、ホールであってもいつもと変わらず、The Crestsの「Sixteen Candles」だ。出だしの歌詞の♪Happy Birthday~♪が、そんなバンドの変化を祝福しているように聞こえてくる。ステージの真上に吊られた豪華なシャンデリアが照らし出されると、大歓声が上がった。この天井の高さが、ホールの良さを象徴している。そう、今日は少し離れた距離からThe Birthdayを楽しむ日なのだ。

 オープニングは『COME TOGETHER』から、「LOVE GOD HAND」だ。 ビシッと締まった低音が気持ちいい。普通の渋公ライブの倍近く積んだスピーカーが、抜群のサウンドを響かせる。ホールでやるといっても、さすがThe Birthdayだ。音に何の不満もない。特にドラムス・クハラカズユキのスネアの音は抜けが良く、“ロックの殿堂・渋谷公会堂”でこれまで僕が観たライブの中でも飛び抜けていいサウンドだった。そんな音のせいもあって、♪愛の手を♪と4人がユニゾンで叫ぶサビは、ホールでありながらオールスタンディングに負けない臨場感をもってオーディエンスに訴えることに成功していた。

 「アイノメイロアイノネイロ」では、チバユウスケの弾くギター・リフが終始、グルーヴを牽引する。続く「星の首飾り」は、カラフルなメロディにも関わらず、ストイックな印象を聴き手に与える。そう、これこそが『COME TOGETHER』でThe Birthdayが獲得した世界なのだ。言葉とメロディをしっかり伝える“歌モノ”と、グルーヴ命のスリリングなロック・チューンを自在に往復する術を、The Birthdayは手に入れた。その最初の成果が、この2曲だった。次の「SAKURA」も歌がよく届く。ヒライハルキの指弾きのベースが、轟音の中からメロディが浮かび出るのをしっかりアシストする。

 「渋公でロックンロールって、 この前のブライアン・セッツァー以来だ」とチバが言うと、クハラが「ここは元々、ドリフがやるとこ」とボケる。二人の口調は、とても嬉しそうだ。武道館を除けば、これまで徹底的にスタンディングにこだわってきたThe Birthdayが、その持ち味を失うことなく領域を広げようとしている。メンバーのそんな実感が伝わってくるMCだった。

 「LEMON」では、心臓が飛び出しそうなまでにイキイキしたシャッフルのリズムに乗って、メンバーそれぞれがソロを取る。チバのマウスハープ(ブルース・ハーモニカ)は、先日リリースされたプライベーツのニューアルバムにゲスト参加したプレイも凄かったが、この日もご機嫌だ。じりじり焙るように盛り上げて、渋公はもはや一触即発の状態になった。

 「久しぶりのヤツ、やります」とチバが言って始まった「プレスファクトリー」は、The Birthdayの5枚目のシングル。この曲あたりからライブは佳境に入っていく。そうしてラスト3曲に、大きな感動が待っていた。

 メランコリックな「星に願いを」のチバとフジイの2人の演奏になる箇所の、バックに星球が輝く。続くアルバムタイトル曲「COME TOGETHER」は、明るいコード・ストロークで始まるミディアム・ロックで、オーディエンスとの一体感が高まる。アルバムのラストを飾った2曲を演奏した後、本編最後に歌ったのはアルバムの1曲目「くそったれの世界」だった。この最初と最後が逆転したセットリストが見せてくれたのは、このバンドの決意と愛だった。

 最初に書いたように「COME TOGETHER」は自分たちが信じるロックを通して世界とつながろうという決意表明であり、「くそったれの世界」はスクエアな社会をはみ出した者同士のロックンロールという愛の形の歌なのだ。その両極を効果的に伝えるために、アルバムの曲順をひっくり返しにしたのではないか。それはライブの達人、The Birthdayにしかできないセットリストのマジックだった。

 実際、「COME TOGETHER」でThe Birthdayに心を開いたオーディエンスの中には、「くそったれの世界」をバンドと一緒に歌いながら涙を流す人が大勢いた。

 オールスタンディングの“箱”ができる前、渋公は多くの伝説的なバンドのライブが行なわれた会場だ。その渋公にこの夜、新しい伝説が生まれたのだ。その伝説を“オールスタンディングの王者”が作ったのは、決して偶然ではない。渋公は来年、オリンピックに向けて一度解体され、数年後に新装オープンする。The Birthdayはそれを知っていて、この会場を選んだのかもしれない。解体前年に刻まれたこの歴史的なライブの最後、ダブル・アンコールで歌われたのは「さよなら最終兵器」だった。一度ピリオドを打つ渋公へのハナムケとして、なんともウイットに富んだ選曲ではないか。

 すべてが終わった渋公に、星球とシャンデリアが灯され、スタンダードの「星に願いを」が流れる。帰路に着くオーディエンスの表情は、狭いライブハウスとはまた違う満足感にあふれていたのだった。

【取材・文:平山雄一】

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リリース情報

COME TOGETHER (初回限定盤) [CD+DVD]

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2014年05月28日

ユニバーサル・シグマ

1. くそったれの世界(COME TOGETHER MIX)
2. アイノメイロアイノネイロ
3. SAKURA
4. 星の首飾り
5. LOVE GOD HAND
6. KIMAGURE KING
7. LEMON
8. KNIFE
9. PIERROT
10. 情熱のブルーズ
11. 星に願いを
12. COME TOGETHER

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お知らせ

■ライブ情報

京都大学西部講堂ライブ
2014/11/01(土)京都大学西部講堂

LEEGENT CO.,LTD Presents「TOKYO NIGHT SHOW 6th」
2014/11/02(日)赤坂BLITZ

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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