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小田和正の全国ツアー“本日 小田日和”、日本武道館をレポート。

小田和正 | 2014.11.06

 武道館に足を踏み入れると、まず舞台セットが目に飛び込んできた。アリーナには普段よりふたまわり大きなステージが組んであり、バンドの背後にも椅子が並べられ、その“スペシャルシート”(通称:オンステージシート)にラッキーなオーディエンスたちが座っている。スタンド席もステージが見えるギリギリまで観客が入っていて、そうした席のために小田が歩く“花道”が設けられている。印象をひとことで言えば、“開放感”。これから始まる小田和正とオーディエンスのオープンなコミュニケーションに最適なセッティングになっているのだ。

 開演時間が来て、まずは最新アルバム『小田日和』の制作風景が巨大スクリーンに映し出される。「この曲がキモ!」と小田が言う「愛になる」の、小田自身の歌入れや、コーラスで参加した根本要(スターダストレビュー)や佐藤竹善(シングライクトーキング)、JUJUの姿も見える貴重なスタジオ風景を、ユーモアを交えて紹介してくれた。

 オーディエンスの心の準備がすっかりできたところで、ベース、ドラム、ギター、キーボード、4名のストリングスと小田がステージに入って来て、今スクリーンで流れていた「そんなことより 幸せになろう」からライブが始まった。キモというだけあって、雄大で優しいこの曲がオーディエンスの手拍子を誘い、早くも一体感が生まれる。と、間髪入れずに2曲目「キラキラ」で、小田はアリーナの客席に降りていく。客席通路を歩きながら歌い、オーディエンスにマイクを突き出して歌うように促す。ライブが始まってまだ5分くらいしか経っていないのに、“究極のコミュニケーション”が眼前で繰り広げられたのだった。単刀直入、小田はサクッと観客の心の中に入って行った。

 序盤から飛ばす小田。『小田日和』の制作にあたって「最後から二番目のアルバムを作る気持ちで」と語っていたそうだが、小田に“晩年”という言葉は似合わない。もしかすると、最後から2番目だからこそ「自分の歌を求めてくれる人のために」という思いが強かったのかもしれない。そんなことを感じさせる、ライブの滑り出しだった。小田の気迫と、ベースの有賀啓雄の美しいボーカル・ハーモニーが相まって、「やさしい風が吹いたら」が最初のピークになった。

 「この街」など、ニューアルバムからの曲を中心にライブは進む。ダイナミックに盛り上がる曲から一転、小田がアコギを持って歌った「その日が来るまで」は、ストリングスやドラムのシンバルなどとの繊細なアンサンブルを聴かせたのが見事だった。

 ここで、いったん小田とメンバーが去って、再びスクリーンにツアー風景が映し出される。各地の本番前、あるいは移動日にご当地を歩き回り、そこで出会った人たちと積極的に触れ合う小田。ファンはもちろん狂喜するのだが、小田をまったく知らない小学生は、雰囲気で握手を求めたりするものの、別れるとすぐに「今の誰?」と容赦なく言ってのける。それを見て会場は笑いに包まれるのだが、いつの間にか“小田の求めるもの”に気付いていく。“ただの人”小田和正が、歌っている。“ただの人”は、自分の歌を求めてくれる人たちのエネルギーで武道館に 立っているということを。

 愉快なフィルムが終わると、ライブは「愛になる」から再開。アリーナ中央に置かれたグランドピアノで小田がイントロを弾き始めると、前半とは明らかに空気が変わった。ややかすれ気味だった小田の声が、ハイトーンで伸びるようになり、サウンド全体の透明度が上がる。昨日も武道館で歌った小田だが、後半でコンディションがよくなるとは驚いた。やはり彼は“ただの人”ではない。歌のパワーが、どんどん大きくなっていく。オーディエンスの歌うパートは、ストリングスをはじめバンドのメンバーも一緒に歌う。ステージと客席の境界線が、だんだんなくなっていく。4つ打ちのドラムがスタートし、大きなミラーボールが回り始める。大ヒット曲「ラブ・ストーリーは突然に」のイントロで、小田もバンドもオーディエンスも、本当に一つになった。

 アンコールで小田は、「みんなが思っている何十倍も感謝しております。また逢える日を楽しみに」と言った。最後の1曲には、今の日本社会に対する小田の思いが込められていた。この夜、しばしの時間、日ごろの悩みから解放されたオーディエンスが、明日は現実に帰っていく。小田が信じる“音楽の力”は、人との関わりの中で成り立っている。そのことを小田自身が確かめる時間でも あったのだなと思わせる武道館ライブだった。

【取材・文:平山雄一】
【撮影:菊地英二】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル 小田和正

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リリース情報

小田日和

小田日和

2014年07月02日

アリオラジャパン

1. そんなことより 幸せになろう
2. この街
3. やさしい風が吹いたら
4. 二人
5. 今のこと
6. 愛になる
7. 彼方
8. その日が来るまで
9. mata-ne
10. やさしい夜

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お知らせ

■ライブ情報

KAZUMASA ODA TOUR 2014~2015
2015/01/29(木)広島県 広島グリーンアリーナ
2015/01/30(金)広島県 広島グリーンアリーナ
2015/02/10(火)福井県 サンドーム福井
2015/02/11(水・祝)福井県 サンドーム福井
2015/02/17(火)愛知県 日本ガイシホール
2015/02/18(水)愛知県 日本ガイシホール
2015/02/28(土)鹿児島県 鹿児島アリーナ
2015/03/01(日)鹿児島県 鹿児島アリーナ
2015/03/11(水)大阪府 大阪城ホール
2015/03/12(木)大阪府 大阪城ホール
2015/03/17(火)神奈川県 横浜アリーナ
2015/03/18(水)神奈川県 横浜アリーナ

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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