2020年8月におこなわれる予定だった東名阪ワンマンライブ『Bloody Mary』は、新型コロナウイルスの影響で中止に。それ以降、あっとくんにとって約1年ぶりのライブとなったのが、最新1stミニアルバム『Aces』（エーシーズ）の初回限定盤Aがリリースされた1月31日のワンマンライブ『Aces』。この日は、新型コロナウイルス感染症対策徹底のもと、有観客ライブ／ツイキャス配信ライブとして届けられた。

ライブ配信サービス・ツイキャスを活動拠点とするライバーのあっとくんは、2017年から徐々にYouTubeへ歌動画を投稿。YouTubeオフィシャルチャンネルの登録者数が119万人を超える6人組エンタメユニット「すとぷり」のリーダー・ななもり。のプロデュースにより、2019年8月2日、1stシングル「CrazyCrash/ラマ」でCDデビュー。同年12月には2ndシングル「マッドディペンデンス」の表題曲で初めて作詞に挑戦、その後も共作で作詞を手がけている。この日、披露された『Aces』収録の新曲2曲、オリジナル曲、カバー曲を通して伝わってきたのは、音楽を通して自身を追求していきたいという揺るがない心持ち。

紗幕越しに黒の貴族風ロングコートに身を包んだあっとくんを一言で例えるなら、孤高の存在。初の自身作詞曲「マッドディペンデンス」から火蓋を切ったあっとくんは、ラップが挑発的な「ブラッディーメアリー」、立体的な吐息が漏れ出す「KING」で掛け声を叫びながら、一気に会場の熱を高めていく。

2回目の衣装チェンジからブレザー姿でステージに現れたあっとくんは、その後もエネルギッシュな曲を圧倒的な歌声で届ける。＜あぁ...もう...「好きだよ」＞の声に注目が集まる｢ラマ｣から、ななもり。が作詞を手がけた＜ねぇ　おいで＞から始まる｢CrazyCrash｣、波のように切ない歌声が浮遊する「君の中で溺れたい」まで。続く「瞬間パラドクス」へ踏み込んだ途端、一瞬で晴れ渡ったのは、リズミカルなメロディ。特別可愛らしさを演じているわけではなくても、いつもの調子で歌うだけで、楽曲全体がさらに可愛らしい色へと染まっていく。

あっとくんは、魅惑的な歌声で魅了していくその一方で、茶目っ気のある一面も覗かせた。ライブの開演から終演まで、ステージは紗幕で覆われていたことから、衣装替えを完了してステージに上がるたび、客席へ「やっほー！（衣装）見える？　かっこいいだろ？」と声を投げたり、後半のMCでは、iPadで見るツイキャスの配信画面上のコメントに、カメラ目線で応えたり。

あっとくんの迫るボーカルと残忍酷薄なサウンドが渾然一体となった「悪い人」を経て続いたのは、有象無象の輩を圧倒的勝利の立ち位置から眺める｢aNSWER｣。自身も作詞を手がけた同曲には、誰にも負けないエースの強靭な生き様がみなぎっている。特に感情がこもった様子の＜「あ　そーですか　それなら遊んでろよ　好きなだけ」＞からは、どくどくとあっとくんの本音が流れ出してきたようでもあった。

本編ラストに歌われたのは、2月17日にリリース予定の『Aces』初回限定盤 Bに収録の新曲「東京深夜シンドローム」。夜の都会のアニメーションをバックにした同曲は、これまでのあっとくんのオリジナル曲の中では、最も大人な魅力に包まれたシックなナンバーではないだろうか。

｢歌が特段上手いわけでも特別なパフォーマンスができるわけでもないのに、TSUTAYA O-EASTさんでライブができたのは、本当に君たちのおかげ。こんな気難しい俺についてきてくれる君たちと、これからも一緒にいろんな景色を見ていきたいと思ってる。日頃からしっかり君たちに愛情を伝えられるように頑張るから、これからも僕と一緒にいてください！｣

手拍子のアンコールに応え、白シャツに着替えて改めてステージへ現れたあっとくんがそう思いを伝えると、初回限定盤 Aに収録の、ギターロックチューンが炸裂する新曲｢Aces｣でラストを迎えた。

誰よりも先に、誰とも被らない自分だけの色で、独自の世界観をこの先もずっと作り上げていくあっとくん。歌声に燃える闘争心が込められたこの日のライブは、あっとくんがさらなる高みへ飛躍するほんの序の口に過ぎない。

【取材・文：小町碧音】
【撮影：古溪一道】