レビュー

ゲスの極み乙女。 | 2014.10.22

連載 第42週
ゲスの極み乙女。
『魅力がすごいよ』


天才集団“ゲスの極み乙女。”は、日本固有の
突然変異ミュージック


 待ちに待ったフルアルバムのタイトルを見て、「ん?!」と思った。普通は「とても魅力的だ」と表現するところを、わざと稚拙な言い回しにしている。なぜこのタイトルを付けたのかと不思議に思いながら聴いてみると、1曲目の「ラスカ」で、♪「魅力がすごいよ」垂れ流しのメディア♪と歌っていた。

 そうか、これは“ゲスの極み乙女。”を取り巻く状況を歌っているのだな。ボキャブラリーの不足している音楽メディアは、今日も無反省に“最高! 感動! このバンド、魅力がすごいよ!”と売れているモノを褒めちぎる。音や言葉の一つ一つを命を削って作っているアーティストにとって、それがどれだけ迷惑で腹立たしいことなのか、想像すらしない業界への皮肉が『魅力がすごいよ』というアルバムタイトルに集約されているのだと分かった。

 さらに、この歌の最後で♪言えない嘘は真実にして 届けメロディ♪と歌っているのは、それでも覚悟を決めてメジャーに打って出た“ゲスの極み乙女。”の、打倒メジャー宣言と僕は受け取った。

 続く2曲目 「デジタルモグラ」でも、皮肉の矛先は鈍らない。社会に蔓延するSNSは、至極便利だが、その一方で個人の欲望情報を垂れ流して、頼んでもいない広告が画面に引っ付いてくる。最新機能と引き換えに、金の亡者に監視され ていることに気付かないユーザーに向かって、この歌は鋭く警告する。たった2曲聴いただけで、“ゲスの極み乙女。”がしっかりした観察眼と社会性を備えているのが分かった。

 加えてこのバンドが面白いのは、そうした尖ったメッセージを伝えるのにふさわしい“音楽の器”を兼ね備えていることだ。多量の情報を伝達するためにヒップホップの手法を用い、複雑な状況を表現するためにプログレロックを取り入れる。しかも“ゲスの極み乙女。”のヒップホップは、黒人の匂いを感じさせず、プログレにはクラシック音楽に対するコンプレックスがほとんどない。これはもしかすると日本だから生まれた突然変異ミュージックかもしれない。また、それを聴いて「美しい」「楽しい」と感じさせる力量には心底驚かされた。

 ファーストアルバムとは思えない完成度を持つ『魅力がすごいよ』は、今続々と登場している新世代バンドの中でも、抜きん出た作品だ。痛烈な音と言葉をもって、このバンドがどんな世界を音楽シーンに切り拓くのか、息を詰めて見届けたくなる。彼らがリスナーの心に刻みつけるのは、ヒビではなく、大胆な断面だ。

【文:平山雄一】

tag一覧 アルバム 男性ボーカル ゲスの極み乙女。

リリース情報

魅力がすごいよ(初回限定魅力的なプライス盤 )

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魅力がすごいよ(初回限定魅力的なプライス盤 )

発売日: 2014年10月29日

価格: ¥ 2,130(本体)+税

レーベル: ワーナーミュージック・ジャパン

収録曲

01.ラスカ
02.デジタルモグラ
03.crying march
04.星降る夜に花束を
05.列車クラシックさん
06.猟奇的なキスを私にして
07.サリーマリー
08.ruins
09.アソビ
10.光を忘れた
11.bye-bye 999

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