レビュー
クリープハイプ | 2014.11.06
クリープハイプ 「百八円の恋」
クリープハイプと居れば痛いだけなのに、それでも一緒に居たいのだ
クリープハイプは、これまでもひとつの言葉を連呼する歌をしばしば発表してきた。「百八円の恋」もその例に洩れず、♪痛い♪を連呼する。しかしそれが途中から♪居たい♪に化けてしまう。音は同じなのに、意味はまったく違う。そしてそ れがこの歌のいちばん大事な要素になっているのだから、これまでで最高の“連呼ソング”と断言したい。
さらにこの歌が面白いのは、何重にも意味と構造がリンクしている点だ。ラジオのようなザラついた音の歌い出しの歌詞は、映画で使われることを踏まえた内容になっている。鋭い音に変化する部分は、きっとそれに合った映像になっているのだろう。
1回目のサビでは♪痛い♪と♪居たい♪を同じように歌い、2回目のサビでは♪痛い♪を痛々しく歌い、♪居たい♪は懇願するように歌い分ける。最後のサビはまた同じタッチに戻る。
タイトルも、 映画が『百円の恋』なのに対して、「百八円の恋」と変え、歌詞でその仕掛けのネタばらしをしている。
そして、これらのたくさんの仕掛けが嫌味でないのは、この歌が尾崎世界観の脳裏に瞬間的に降りてきたと思えるからだ。考え過ぎないで、さっと書き上げた勢いが、この歌の到達力を後押ししている。
おそらく尾崎は今、何に出会っても歌にしてしまう自信にあふれているのだろう。それらがすべて痛みと怒りの歌になってしまうのは、尾崎というアーティストのアティテュードが歌に直結してい るからだ。音楽シーンにおいて、こんなことは滅多にない。バンドが守りを固めずに、むき出しのまま突っ走る姿を間近で目撃することができる機会は、本当にまれなのだ。残酷な言い方をすれば、クリープハイプはこのままではズタズタに傷ついてしまうかもしれない。それでも尾崎は歌いたいのだ。伝えたいのだ。
君と居れば痛いだけなのに、それでも一緒に居たいのだ。君とは、そう、クリープハイプのこと。ファンはきっとこの歌のまんまの気持ちなんだろうな。
【文:平山雄一】