約2年3ヶ月ぶりに紡がれた10枚目のアルバム。そこにaikoは『時のシルエット』という素敵なタイトルをつけた。

「アルバム全体を眺めたときに、今の自分自身の気持ちがより強く言葉に、曲になっていることに気づいたんです。それは毎日を過ごしていく中でどんどん変わっていく自分のシルエットのようでもあるなぁと思ったので、今回は『時のシルエット』というタイトルにしました。この先も、その時々のシルエットをちゃんと刻んでいきたいなっていう想いも込めて――」

自らの中に芽生えた様々な感情に真っ直ぐ対峙し、それをうそ偽りなく歌詞やメロディへと落とし込む。これまでもaikoはそうやって楽曲を生み出してきた。だが、自身も感じているように、本作で描き出された想いの強さは明らかに過去を凌駕している。それは彼女が音楽に対して、引いては生きることに対しても一人の人間としてより真剣になっていることの証なのだろう。

「こうやってアルバムが出せることも、ライブが続けられていることも、本当にありがたいし、すごいことだと思うんです。そこに対して自分はちゃんと立ち向かうことができるんだろうかって考えるとドキドキして、不安にもなってしまうけど、だからこそより必死になって曲を書く姿勢になれたんですよね。さらに去年の震災という大きな出来事を通して普通に生きていくということがどれだけすごいことなのかっていうこともわかったので、日々を真剣に過ごすようにもなりました。結果、そうなってみないと書けないこともあるんだなっていうフレーズが今回はたくさん出てきたような気がしますね」

『向かいあわせ』『恋のスーパーボール』『ホーム』『ずっと』といったヒットシングルに加え、8編もの新曲を収録した本作。柔らかな三連のリズムでオープニングを飾る『Aka』。伊藤園 カテキンジャスミン茶 CMソングとなっている艶っぽいグルーヴィナンバー『くちびる』。「ピアノとストリングスがすごくかっこよくて好きです！」というアップチューン『白い道』。跳ねたメロディと彩り豊かなコーラスが心地いい『冷たい嘘』。ライブの映像が一瞬で浮かぶパワーロックチューン『運命』。「いつか絶対みんなの心の中の雨も止む、いつかきっと心の中に青空が見える――そんな思いを込めて書きました」という『雨は止む』。小学生の頃を思い出して書いたというピュアな片想いソング『ドレミ』。そして、2011年の元旦にのみ放送されたaikoのCMで使用されていた曲であり、せつないストーリーでアルバム全体の余韻を演出するラストナンバー『自転車』。楽しいトライを随所に詰め込んだ多彩な楽曲群からは、新たなaikoのシルエットを無数に確認できるはずだ。

「10枚目のアルバムやけど、またこうやっていろんな曲ができて良かったなって思います。36歳の今だからこそ書けたんだなって思えた曲もたくさんありますし、鍵盤をたくさん使ったり、コーラスをたくさん入れたり、ガラッと変わる感じではないけど、少しずつ新しいことができた気もします。あいかわらず１対１でみんなに聴いて欲しいアルバムです。これを聴くことで、みんなが自分の気持ちをいい意味で振り返ってくれたら嬉しいです」

7月13日からは全31公演のツアー「Love Like Pop vol.15」もスタートする。そこでもまたaikoは、自身の中から溢れ出す様々な感情をすべてのファンに向けて鮮やかに解き放つことになるのだろう。

「今回はありがたいことに公演数がすごく多いので楽しみですね。風邪を一度も引くことなく、会場に来てくれたひとりひとりのみんなと思い出をたくさん作って、自分自身が成長できるツアーにしたいと思います！」

【文：もりひでゆき】