「もっと代えができないバンド、代えができない人間になりたい」と金井政人（ボーカル&ギター）は語っていた。その言葉通り、BIGMAMAのニュー・アルバム『君想う、故に我在り』は、まさにオンリーワンの音を獲得した傑作に仕上がった。歌詞とサウンドにさらなる磨きをかけ、一つの完成形に辿り着いたバンド・サウンドを鳴らしている。
　そんなBIGMAMAを代表し、ボーカル&ギター、そしてソングライティングを手がける金井にニューアルバムの話を中心に色々と聞いてみた。

EMTG：今日電車に乗っていたら、目の前の女性が『40代を後悔しない50のリスト』という本を読んでて。そんな人にこそ、今作を聴いて欲しい！と思いました。

金井：ははははは。「40代、50代の方に聴いて欲しいんだよね」、みたいなことを言ってくれるのは真理なんですよね。ライヴハウスに来てくれる人は第一で、そこは当たり前なんですけど、今回はもう日本中の人に「好きだ!!」と言ってもらいたいアルバムで。その本を読んでいた奥様ですか（笑）？　その人にも当てはまるだろうし、自分たちも客観的に聴いて、そう思いました。去年、Zepp Tokyoが埋まって・・・何千人を前にしてステージに立って以降、僕は何となくの理由でステージに立てなくなったんですよ。要するに、”僕らは何のために音楽をやっているのか…”を考えるようになって。そんな中、「あなたにとって、一番大切なものは何ですか？」と聞かれたときに、お金、食料、自身、何でもいいけど、僕が選んだのは“君”だったんです。自分の嬉しい気持ちと君の嬉しい気持ちがあって、僕は君の嬉しいをリアルに感じて。それを一行で表すと、表題の『君想う、故に我在り』という言葉が出てきたんです。

EMTG：今作は年代を問わず響く素晴らしい作品だと思う。で、僕なりの表現で言うと、今回は泣いて泣いて涙が枯れ果てた後に、前をキリッと向いた状態でポンと生み出されたような作品だなって。

金井：・・・まあ、泣いてばかりの人生ですからね。

EMTG：ははははは、無理に合わせなくてもいいけど。

金井：いえいえ、去年だけでもすごく泣いたし。僕は自分の人生を常にバッドエンド、バッドヒストリーだと思ってて。でも幸福を知らないと、きちんと不幸を味わえないし、その逆もあるじゃないですか。そのダイナミズムをどれだけ気持ちよく繰り返していけるか、かなって。僕なりの底辺と僕なりの頂点の落差をいかに表現できるか、かなと思っていて。このアルバムにはそのダイナミズムがあると思うんです。すごくネガティヴな人間はどこから始まるかというと、”自分がどういう風に死ねば後悔しないかな?”って、逆算して考えるんです。自分なりに後悔しない毎日の描き方、コツみたいなものを・・・さっきの本のタイトルじゃないけど、僕なりに12個にわけて、幸福な死に至る前に自分が気を付けておくことを書きました。

EMTG：そんなメッセージが含まれていたんですか…。

金井：前作と今作で思うことがあるとすれば、前作は傷口を切り裂いてワーッ！と叫んでる感じだけど、今回はジッと見つめて、”どうなんだろう?”と考えてる感じなんですよ。より日常を描こうと思ったことも大きいし、ある程度の生活感や空気感も共有したかったんですよね。同じ言葉を反復してる歌詞もあるし、今回は自然体で自己投影できましたね。

EMTG：余分な力が抜けたからこそ、客観的な表現もできるようになったと。前作と比べて、歌詞や演奏もシンプルになった気もしますが。

金井：それは意識していたことですね。研ぎ澄ませる方向でやりたいなと思って。結果的に本当に言いたいことは一行二行で、すべてはそのためにあるんですよね。それもよりわかってきたので。

EMTG：そういう意味では、コアな部分をわかりやすく出し切った集大成のような一枚ですね。

金井：バンドの振れ幅を確かめる意味でも一度完結したと思います。表現し切りましたね。いままではレコーディングし終えたときに、都度、「ちょっと休もうか」と言っていたけど。今作を作り終えた後は、メンバーに初めて「よし、次に行こう！」と言ったんです。この作品ができたことで、僕らは日本中に届けるだけの体力や挑戦権を得たと思っていて。これからは人を選ばずに全員が感動する曲を書きたい。このアルバムは、<自分たちにもっと期待していいんだぞ!!>、ということも教えてくれたんです。だから、終わったと同時に始まった感じもあって。

EMTG：「♪揺るぎない意志で始まりを告げよう♪」「ex-extra」）の歌詞でも、そう言ってますもんね。

金井：そうですね。今は自分にどんな困難が起きようと、アーティストとして表現に変えていこうと思ってます。もっと価値のある人間になりたいし。やっぱり、自分が書いた曲や、そこに乗せたメッセージには逆らえなくなるんですよね。普段からウソがあると、矛盾しちゃう。「Jeffrey　Campbellのスケートシューズで」で<誕生日を大切にしてね>と歌うと、周りの人の誕生日を無視できなくなるんですよ。

EMTG：そうなりますよね（笑）。

金井：でもそれでいいと思うんです。普段から価値のある人間にしていかないと、後ろめたいし、恥ずかしいし、何千人何万人に対して失礼な気持ちが湧いてくるから。今回は自分の傷口と向き合っている部分もあるけど、こうなりたいと思う自分を曲にしているところもあるんです。このアルバムは多分、今の自分よりも少し先にいるんですよね。

EMTG：今後バンドがどうなっていくのか、非常に楽しみです。

金井：すぐにひっくり返ると思ってないけど、全部ひっくり返してやろうと思ってます。今はほんとにこのアルバムが一番いいと思ってますから。僕自身が言わないと、何も始まらないですからね(笑)。他のアーティストさんの音源も素晴らしいと思うけど・・・どんなアーティストが同じ発売日に店頭に並んでも、このアルバムの方がかっこいいし、日本中が聴くべきアルバムだと自分では思ってますから。

EMTG：それぐらいの自信作だゾ、と。そして、今作と同時発売で初のミュージック・ビデオDVD『母子手帳2006-2012』も発売されますね。

金井：『母子手帳』と付けてるぐらいなので、僕らの成長の記録だと思って、生暖かく見守っていただきたいですね(笑)。

EMTG：久しぶりに「cpx」(初期のナンバー)を観ましたが、いろんな意味でヤバいね（笑）。

金井：ヤバいですよね。ここに辿り着くまでにこんなストーリーがあったんだと思って、観て欲しいですね。こんなバンドいないと思うんですよ。すごく一点突破でバンドが始まって、新しいアルバムでこういう音楽を奏でてって……ここまで露骨なバンドはいないと思う。音楽的にゴロゴロ転がりながら、ちゃんと人がついてきてくれたから。そういう意味では自分たちのストーリーを誇りに思うし、面白おかしく思ってます。だから、今後もその成長を見守る感じで、よろしくお願いします（笑）。

【取材・文：荒金良介】