米津玄師、帰りの会・続編ツアー!「このために音楽をやってきた」
米津玄師 | 2014.12.25
衝撃的なデビュー以来、一切ライブを行なわなかった米津玄師が、初めてワンマンライブを行なったのが、今年6月の代官山ユニット。それは、わずか550人しか見ることのできない超レアなものだった。そして、その続編となる今回の東阪福ツアー「帰りの会・続編」。会場は3ヵ所に増えたものの、これもまだ米津を支持する人たちの需要に応えられるだけのサイズではない。「一つひとつ積み重ねていきたいんです。側だけ大きくして、内実が伴わないものを作ったとしても何も意味がない。僕は意味がある事をやりたいと思います。今、一人一人の顔が凄くよくみえます」。ライブ中、米津はそんなふうに明かし、観客に改めて感謝の言葉を伝え、大きな拍手を贈られた。お客さんとの距離感を大切にする、そんな米津玄師の“四本目”のライブは、想像以上にタフで、生々しく、アグレッシヴなものだった。っ
満員のリキッドルームに響くスネアドラムの音から、1stアルバムの1曲目に収録されている「街」でライブはスタートした。スクリーンにはフィルム映画のザラついた雰囲気を感じさせる映像。米津が姿を現した瞬間こそワッと歓声があがった会場は、曲がはじまるとじっと静かに聴き入っていた。そして、♪ア~ア~と音階をなぞる米津の声を合図に、「リビングデッド・ユース」でギターをかき鳴らすと、一気にライブは加速する。「MAD HEAD LOVE」や「しとど晴天大迷惑」など、いわゆる米津のトレードマークともいえる緻密でにぎやかなサウンドを、正確に再現していくバンドメンバー。ギター、ベース、ドラムというキーボードの含まない編成なので、一部音源を同期しながら、米津音楽の世界を忠実に描く。そこにシンクロするライブならではの荒々しさが心地好かった。
MCではあまり多くは語らない。メンバー紹介を挟んで、米津がアコースティックギターを手に、ひとり弾き語りからはじまった「眼福」では、次第にバンドサウンドが加わって、優しい光がリキッドルームを照し出した。そして続く、「メランコリーキッチン」「vivi」から「アイネクライネ」の流れは、圧巻だった。天性のものと思わせる秀逸なソングライティングをして築き上げる、豊かなメロディと音の調和。スクリーンには、えんぴつ描きの線や、水に滴るインク、といった抽象的な映像が映し出され、曲に寄り添う。紛れもなく、この世でたったひとつ、米津玄師だけが作り上げることのできる美しい時間だった。
「MCでは喋ることを決めていない」と前置きをすると、あー…、うーん……と悩みながら、「生きてていいことってあんまりないよね」とひとこと。「ある?」という問いかけに、会場から、「いま!」と声があがると、「そう、いますごく楽しい。大阪、福岡とやってきて、これをやるために音楽をやってきたって気持ちになった」。そんなふうに、お客さんとコミュニケーションをとりながら、ライブに向き合ういまの自分について語った。そして、「ゴーゴー幽霊船」からは、再び速い曲を畳みかけていく。まつり囃子の様相を見せた「TOXIC BOY」や、ハチ名義で発表した人気曲「パンダヒーロー」などを立て続けに披露すると、ラストは軽やかな6/8拍子でドリーミーなメロディが踊る「WOODEN DOLL」で、本編の幕を閉じた。
アンコールでは、すでに1月14日にリリースすることを発表している最新シングル「Flowerwall」をいち早く聴かせてくれた。イントロから、ゆったりと広がるグルーヴにのせて、大らかな歌が広がる。《悲しみも優しさも 希望もまた絶望も 分け合えるようになった》という歌詞には、ここから新しい米津の表現が広がっていく、そんな予感がした。そして最後はハチ名義で発表した「ドーナツホール」や「遊園市街」といった、ボカロPとして始まった米津玄師というアーティストの出自を強く意識させる2曲で締めくくった。おそらくライブで披露することなど想定していなかったであろう曲たち。それがこのライブハウスでは米津の体温を伴ってエモーショナルな表現になり、リスナーもそれに突き動かされて腕を高く上げている。素晴らしい光景だった。
ライブを終えたあと、米津本人に「緊張した?」と聞いてみると、「いや、とにかく楽しもうと思った」と、晴れやかな笑顔を見せてくれた。経験を重ねたライブバンドですら会場が大きくなった瞬間は、気負ったり、気合いが空回りすることがあるというのに。そこに浮足立った気配はなく、しっかりと地に足が着いているようだった。
来年は、先の新作リリースのほか、7大都市ツアーの開催も決定している米津。そうやって一つひとつ積み重ねていった先に何があるのか。初めてそのライブを目の当たりにして、ますます米津玄師への興味は強くなった。
【取材・文:秦理絵】
【撮影:中野敬久】
リリース情報
セットリスト
Live 帰りの会・続編
2014.12.11@東京 LIQUIDROOM
- 街
- リビングデッド・ユース
- MAD HEAD LOVE
- しとど晴天大迷惑
- 駄菓子屋商売
- 百鬼夜行
- ホラ吹き猫野郎
- 眼福
- メランコリーキッチン
- vivi
- アイネクライネ
- ゴーゴー幽霊船
- TOXIC BOY
- パンダヒーロー
- WOODEN DOLL
- Flowerwall
- ドーナツホール
- 遊園市街