唯一無二の輝き。きのこ帝国のワンマンライブ@赤坂BLITZ
きのこ帝国 | 2015.02.05
今日は午前中からチラチラと雪が降った。すぐに降り止むような微量なものだったけど、頭の中できのこ帝国の「ラストデイ」の歌詞が浮かんできた。男女がコタツに入り、ミカンを食べている情景を描いた歌詞は今日の外の光景にマッチしている。そう、今日はきのこ帝国のレコ発ワンマン「CITY GIRL CITY BOY」の最終日にあたる。2ndアルバム『フェイクワールドワンダーランド』を聴いてから、ずっとこの日を待ち侘びていた。
19時6分に暗転すると、佐藤(Vo/G)、あーちゃん(G)、谷口滋昭(B)、西村"コン"(Dr)がお互いに空気を察し合うように音を鳴らし始め、その一音一音が池に投げた小石の波紋のように広がり、折り重なっていく。その静謐なイントロを経て、「海と花束」で一気にささくれ立ったエッジ感とほの明るいメロディを雄大に解き放つ。それから4曲目に早速「ラストデイ」が披露され、一瞬ドキッとしながらも曲の魅力にグイグイ引き込まれる。バックの演奏は控えめに、佐藤の囁くような歌声と歌詞を前景化させ、ひんやりした外の空気とコントラストを描くような温かい曲調に内側から火を灯された。続いて下北沢一番街で撮ったMVも印象的だった「クロノスタシス」をプレイ。テンポ感のある楽曲だけに体を小刻みに揺らす観客も増え、音源以上に艶やかで生々しい表情を見せる。ノイジーなヘヴィさと透き通る美メロが激しい起伏を織り成す「ヴァージン・スーサイド」、あーちゃんがピアニカを弾く場面も見られた「あるゆえ」が醸し出す淡いムードも心地いい。
そして、中盤は「You outside my window」、「国道スロープ」、「パラノイドパレード」、「ユーリカ」と屈強なバンドの骨格をアピールする曲が続く。激しく蠢く谷口の躍動的なベース・ライン、両腕を羽ばたかせるように叩く西村の力強いドラミングが底辺をがっちり支え、そこにむせび泣くようなあーちゃんの轟音ギターが高らかに響く。ウォール・オブ・サウンドと言える重厚な演奏に埋もれず、ポップな光を放出し続ける佐藤のヴォーカルも聴き応えたっぷりだ。さらに「夜が明けたら」においては時に絶叫手前の力強い歌声で迫り、狂おしいエモーションの発露に思わず鳥肌が立った。そして、後半に爽やかなメロディをまとった「疾走」を演奏。ここでふとフロアを見渡すと、金髪の大学生風、スーツ姿の会社員、白髪の50代前後の方まで老若男女、実に幅広い客層が集まっていることに気付く。客層は見事に統一感がなく、人それぞれに曲を楽しんでいる。歌っている人、じっと聴いてる人、体でリズムを取りながら聴いている人など。どこできのこ帝国を知って、ここに足を運んだのだろうか。やはり『フェイクワールドワンダーランド』で歌とメロディに楽曲の焦点を絞ったことで、いままで届かなかった層まで響いているに違いない。「心を込めて、この曲を歌います」と佐藤がわざわざ前置きして、ここで名曲中の名曲「東京」をプレイする。サビのパートではライトが会場全体をパーッと照らし出し、勢い余って掠れ気味に歌い上げる佐藤の歌声は感動的だった。本編ラストは「フェイクワールドワンダーランド」で締め、佐藤とあーちゃんが掛け合う美しいヴォーカル・ハーモニーにも心がとろけた。 アンコールで再び登場すると、制作のために3カ月ライヴを休み、春頃には新曲を届けられると佐藤の口から語られ、最後は「Telepathy/Overdrive」で幕を閉じた。曲名通りにエンジン全開で加速する演奏は迫力満点で、赤坂ブリッツ最後尾の観客までしっかりと揺らしていた。しばらくライヴを観ることができないのはちょっぴり寂しいが、次にきのこ帝国がどんな表情で、どんな演奏で、どのような楽曲を携えて、ステージに上がるか。それを想像するだけでワクワクしてくる。春が待ち遠しい。
【取材・文:荒金良介】
【撮影:河本悠貴】
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リリース情報
セットリスト
CITY GIRL CITY BOY
2015.1.21@赤坂BLITZ
- Intro
- 海と花束
- WHIRLPOOL
- ラストデイ
- クロノスタシス
- ヴァージン・スーサイド
- あるゆえ
- 風化する教室
- You outside my window
- 国道スロープ
- パラノイドパレード
- ユーリカ
- 夜鷹
- 退屈しのぎ
- 夜が明けたら
- 疾走
- 明日にはすべてが終わるとし て
- 東京
- フェイクワールドワンダーラ ンド
- Telepathy/Overdrive