志磨遼平単独となったドレスコーズ。新木場studio COASTをレポート。
ドレスコーズ | 2015.02.12
新木場駅から歩いて5分。コーストの敷地内に入ると、まずその日の出演者の書いてあるボードが目に飛び込んでくる。"Don’t Trust Ryohei Shima"の文字を見て、ゾワッとした。嫌な予感。
その予感が的中して、ライブはまさかの毛皮のマリーズのインディーズ時代の曲「ジャーニー」から始まった。オープニングでたった一人で現われた志磨は、大きなラジカセを担いでいる。それをステージにセットされた楽器の前に置いたとき、今日はカラオケを使って一人きりのライブをやるのかと想像して、胸が苦しくなった。志磨がカラオケで「ジャーニー」を歌い出す。ああ、やっぱり辛いライブになるんだなと覚悟を決めたら、それも束の間、すぐに4人のミュージシャンが登場して、生演奏を始めた。ギターは牛尾健太(fromおとぎ話)、ベースは有島コレスケ(from told)、ドラムは前越啓輔(fromおとぎ話)、キーボードは長谷川智樹。志磨は、気心の知れたバンドをバックに、気持ちよさそうに「ジャーニー」を歌い続ける。ステージの真ん中に陣取った志磨に、スポットライトが集中する。つまり、“ロックスター志磨”が、4人のバックバンドを従えている構図だ。毛皮のマリーズの後、あれだけ 新しいバンドにこだわってドレスコーズをスタートさせたのに、「古巣に戻ってニコニコ歌っている場合か、志磨!!」と、怒りが込み上げてきた。
一人になった志磨遼平がどんなライブをするのか、不安と緊張半々でコーストまでやってきたのに、情けないやら、嬉しいやら(笑)。心配は完全にはぐらかされてしまった。そんなこちらの思いを見透かすように、志磨は♪さらば 安定 ~止まると 俺 死ぬから♪と歌っている。こいつ、絶対、確信 犯だ。"Don’t Trust Ryohei Shima"、そう、志磨遼平を信じちゃいけない。
すると、次の曲は一人で作ったドレスコーズの最新アルバム『1』から「この悪魔め」。いやいやいや、志磨くん、悪魔はお前だから。と思っていたら、3曲目はまたマリーズの「人間不信」ときた。 もう、やってらんねえ。ってか、あまりのことに、取りあえずは“一人の志磨”を楽しんでみようかという気にもなったのだった。
開き直ってみると、志磨遼平のソロ・ライブが違って聴こえてきた。
アコギを持って歌った「Lily」がよかった。やっぱりメロディメーカーとしての志磨は、天才だ。「Lily」もまた『1』の曲で、こういう言い方が妥当かどうかわからないが、バンドから解放された志磨の一音楽家としての叫びが込められているように聴こえた。キーボードの長谷川がガットギターでボサノヴァを奏でる「みずいろ」は、狭い音楽ジャンルを飛び越えて美しい音楽を追い求める志磨の心根が伝わってくる。その後も、マリーズの曲を織り交ぜてライブが進む。“ロックスター”を標榜する志磨の、精一杯のソロ・パフォーマンスは、どんどんオーディエンスを呑み込んでいった。
ソロ志磨の輝きが爆発したのは、インディーズ時代のマリーズの名曲「ビューティフル」だった。♪まるで人生のような音楽、まるで音楽のような人生♪と歌う志磨は、どこにいても、誰とやっても変わらぬ男だった。正直、僕にとってこのライブは、そう思えただけで充分だった。
アンコールで志磨は、またたった一人で現われた。曲は、ドレスコーズのセカンド・アルバム『バンド・デシネ』の「ゴッホ」。スリリングなアンサンブルで成り立つこの曲は、脱退したドレスコーズの3人のメンバーとでしかできなかった難曲だ。だから、この曲にはバックバンドは入らず、志磨は打ち込みのドラムと、自分で弾くアコギだけで歌った。志磨らしい決着のつけ方だった。
ラストナンバーの「愛に気をつけてね」で、再びバンドが登場。ミラーボールが回る中、志磨は身をくねくねよじらせる得意のアクションをしながら、バック・ミュージシャンを紹介する。「そして私が、ペテン師の志磨遼平です」と言って、客席にダイブした。すべてが終わった後、さっきまで志磨が立っていたステージ中央に、スポットライトの光だけが残されていた。
【文:平山雄一】
リリース情報
1(初回限定盤)[CD+DVD]
2014年12月10日
EVIL LINE RECORDS
1. 復活の日
2. スーパー、スーパーサッド
3. Lily
4. この悪魔め
5. ルソー論
6. アニメみたいな
7. みずいろ
8. 才能なんかいらない
9. もうがまんはやだ
10. 妄想でバンドをやる(Band in my own head)
11. あん・はっぴいえんど
12. Reprise
13. 愛に気をつけてね
[DVD]
「スーパー、スーパーサッド」MUSIC VIDEO
「ワン・マイナス・ワン」DOCUMENTARY VIDEO
※「ワン・マイナス・ワン」DOCUMENTARY VIDEOは志磨遼平の過去と現在を知る周囲の人物へのインタビューが収録される予定
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セットリスト
Tour 2015 "Don’t Trust Ryohei Shima"
2015.1.25@新木場studio COAST
- ジャーニー
- この悪魔め
- 人間不信
- ルソー論
- Lily
- 才能なんかいらない
- みずいろ
- ザ・フール
- もうがまんはやだ
- Ghost
- 妄想でバンドをやる(Band in my own head)
- ビューティフル
- 愛のテーマ
- あん・はっぴいえんど
- スーパー、スーパーサッド
- ゴッホ
- 愛に気をつけてね