ABEDON、ビルボードライブ東京公演をレポート!
ABEDON | 2015.02.18
アルバム『BLACK AND WHITE』のリリースから、間もなく1年になろうとしている。リリースしてすぐにユニコーンのアルバム『イーガジャケジョロ』が発売になり、そのままツアーに突入。『BLACK AND WHITE』 のプロジェクトは一時ストップした。それが再開されたのは、昨年の夏。ライジングサン・ロック・フェスの最奥にある“ボヘミアン・ガーデ ン”のライブでのことだった。
このときの印象は、ひと言で言えばボロボロ(笑)。ライブのメンバーはABEDONの他、奥田民生、八熊慎一、木内健の4人。ドラムやベースやリズムボックスな どの楽器を、全員が持ち替えて演奏するスタイルは、とてもユニークだった。レコーディングではほとんどの楽器をABEDONが一人で演奏していたから、ライブではABEDONの持つ楽器によってメンバーは持ち場を変えなくてはいけない。ユニークな発想だけに、それをどう楽しんでもらうのかは、試行錯誤するしかなかった。
ただでさえタスクが多くて大変なのに、全員で伝説のロック バンド“KISS”のマスクをかぶって登場するは、KISSの「デトロイト・ロック・シティ」のコピーをぶちかますは。しかし、そこには“音楽で遊ぶ”というABEDONらしい哲学があった。
秋にワンマン・ツアーに入ると、斎藤有太が加わってバンドは鉄壁になり、ABEDONの自由度は大幅にアップした。去年、ビルボードライブ東京で見たライブでは、音楽ギャグと真摯なラブソングがミックスされたオンリーワンの内容に進化。それは、大人のミュージシャンたちが音楽と人生を楽しみ尽くすという、ユニコーンとはまたひと味違う “バンド・エンターテイメント”になっていた。
そんなツアーは大評判を呼び、アンコール・ツアー「帰って きたBLACK AND WHITE」が組まれ、その東京公演を観た。場所は昨年と同じ、ビルボードライブ東京。食事やお酒を飲みながらライブを楽しめる“大人の社交場”だ。ジャズ系のアーティストが多く出演するこの場所では、最近ロック・アーティストが頻繁にライブを行なうようになってきている。それでも上品な雰囲気のせいか、普段より行儀のよいライブになるケースが多い。ABEDONにしても、昨年ここで最初にやったときは、 少しおとなしめのライブだった。
それはそれで楽しかったのだが、今回のABEDONときたら、大変身。大人の社交場を縦横無尽に駆け巡る。オープニングSEのKISSの「Rock and Roll All Nite」に乗って現われた5人は、プッシュの効いたロックナンバー「サヨナラサムライ」からライブをスタートする。ドラムは八熊、ベースは奥田、ギターは木内、キーボードは斎藤で、ABEDONはハンドマイクでシャウトする。「ハロー!トーキョー」と叫んで、ABEDONはピアノの前に座った。続く「Beautiful Day」はミディアム・バラード だ。ABEDONの歌う未来を見つめる歌詞を、盛り立てる斎藤のオルガン・プレーが素晴らしい。それに添うようにうねる奥田のベースも、堂に入っている。わずか4カ月で、この5人のアンサンブルはほとんど完成形に近づ いている。正確に言えば、奥田がドラムを叩いたり、ABEDONがベースを弾いた りするのだが、その組み合わせごとにそれぞれの良さがある点は、特筆に価するだろう。さすがというしかない。
「リハーサルは先ほど終わったんで、ここからが本番!」とABEDON。そう、この日は2回まわしで、これは第2回目のステージというわけだ。聞いたところによると、ABEDONは第1回目のステージでも大暴れしたとのこと。残り少ないメンバーとのライブを、思い切り楽しむつもりなのだ。いつの間にかステージ背後のカーテンが開いている。「ビルボードの夜景も見慣れたもんで、最初から開けてみました。このツアー、東京最後のライブです。燃え尽きるまでやりますので、燃えカスを拾っていっていただ ければ」。そんなバンドのヤル気がオーディエンスに燃え移って、会場から歓声が上がる。後ろでは東京の街の灯りが揺らめいている。
さらには、ABEDONがピアノソロに入ると某テレビドラマの女優さんや、某ビジュアル系グループリーダーの物真似をオーバーアクションで披露したから、大爆笑が起こる。そして、ABEDONの幻想的なキーボード・ソロへ。このあたりのメリハリの付け方が凄い。メンバーとのアンサンブルとABEDONの個人技の進化が、このステージをどこまで高みに押し上げていくのか、ワクワクしてくる。
そこからが怒涛の攻めだった。ABEDONの座るグランドピアノに、他の4人が寄り集まってくる。高音部を奥田、中低音部を斎藤、低音部を木内が担当し、八熊はピアノの木製部分を叩いてパーカッションの役割を果たす。1台のピアノを5人で弾く離れ業で演奏された「白い虹」は、“少年の魂を持った大人”を音楽で表現していて、とても感動的だった。客席からも大きな拍手が巻き起こった。
間髪入れずに、八熊がリズムボックスを操作する「WAO!」。オーディエンスは総立ちでツイストを踊り出す。途中、斎藤のマイケル・ジャク ソンのモノマネをはさんで、場内は爆発的に盛り上がる。「SUN SET SUN」 では、ドラムス奥田、ベース八熊が安定したグルーヴを供給し、オーディエンス全員を包み込む。本編ラストの「SO SO GOOD」では斎藤がモノマネ以上にピアノ・ソロに大活躍。わずか8曲なのに、1時間15分があっという間に過ぎ去る圧巻のパフォーマンスとなった。
アンコールはKISSの「Rock and Roll All Nite」を、メンバーの生演奏で披露する。初期のABEDONバンドは“下手なところ”がある意味“味”でもあり“売 り”だったのだが、この夜の演奏は上手すぎて笑えない。それも進化の一つなのだろう。だから、僕はこのバンドの次の展開を予感した。そうしたら、その答は次の「TOY JUMP」ですぐに明らかになった。
「TOY JUMP」は、かつてABEDONが八熊らと組んだABEX GO GOのナンバー。ABEDONは最前列のテーブルに足をかけ、熱唱する。これはビルボードでは、タブー破りだ。しかし、ライブの盛り上がりとしては自然なので、オーディ エンスはますます熱くなる。だから、演奏はいつまで経っても終わらない。さすがにメンバーが「コレいつまで続くんだ?」という気配を醸し出した途端、ABEDONが叫んだのだった。
「俺たちは終わらない」。メンバーが顔を見合わせて笑う。「今日で終わると思うなよ。このメンバーでレコーディングをやる。頼むぜ、バンド!」と言うと、メンバーは嬉しそうに楽器の音量を上げたのだった。
ABEDONはビルボードをすっかりライブハウスにしてしまった挙句、ソロ・プロジェクトの継続を宣言したのだった。通常のバンドとは異なる進化を遂げようとしているこのバンドは、もしかするとロックバンドの前人未到の未来に到達するのかもしれない。
【取材・文:平山雄一】
【撮影:三浦憲治】
リリース情報
[DVD]“BLACK AND WHITE” at Billboard Live TOKYO featuring ハ熊慎一 奥田民生 木内健 斎藤有太
2014年11月10日
abedon the company
※Piano即興曲メドレーを含む全10曲収録
01. Opening SE 0917
02. SUN SET SUN
03. ONE AND THREE FOUR
04. GROUND
05. 欲望
06. Improvisation2014
Piano solo0917~OVER THE RAINBOW~IMAGE~Piano duet 0917
07. 白い虹
08. WAO!
09. おせわになりました
10. SO SO GOOD
※#06“OVER THE RAINBOW ”By Harold Arlen / E. Y. Harburg
セットリスト
“帰ってきたBLACK AND WHITE"
2015.2.3@Billboard Live TOKYO
- サヨナラサムライ
- Beautiful Days
- 欲望
- ABEDON Moog Solo~弾き語り
- 白い虹
- WAO!
- SUN SET SUN
- SO SO GOOD
- Rock and Roll All Nite
- TOY JUMP