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スガ シカオ、デビュー18周年記念日にアコギ1本に想いを込めて唄う

スガ シカオ | 2015.03.16

 年始恒例の“Hitori Suger”ツアーのファイナルだ。スガがたった一人で行なうライブなのだが、正真正銘、アコースティック・ギター1 本でのパフォーマンスもあれば、ループを駆使しての大迫力の演奏もある。最近はこのスタイルのライブをいろいろなアーティストが行なっているが、スガは早い時期からやっていて、“先駆者”の一人だ。ただ僕にとって“Hitori Suger”を見るのは初めてだったから、楽しみに足を運んだ。

 EX THEATER ROPPONGIのフロアは、前半分が椅子席で、後方はスタンディングになっている。スガが登場する と、4つ打ちのループに合わせてオーディエンスがハンドクラップを始めた。スガは間髪入れずに、アコギで「コノユビトマレ」のイントロをスタート。PAから流れ出るアコギの音がいい。オーディエンスのノリ、良質なサウンド、そしてスガの余裕のある歌声と、“いいライブの条件”がすべてそろっている。曲の途中でスガがギターのカッティングでリズム・ソロを取ると、オーディエンスがすぐに反応して、期待に満ちたオープニングとなった。

「こんなに集まってもらって、ありがとうございます。今日は 最後までアコギ1本でやるんで、退屈なところもあるかもしれませんが、そこは想像力で補ってください(笑)」。場内からも嬉しそうな笑 い声が起こる。序盤は、「見る前に跳べ.com」など、身体を温める感じ。

「今日はデビューして18周年の日。こんな大きなとこでやれて嬉しいです。今年はアルバムを作ろうかなと。新しい扉を開きたいと思って、この前、ギターの教則本を買いました(笑)。使えそうなコード進行を探していて、おっ、これいいかもと思ったら、注意書きに“スガ シカオが多用している”って書いてあった(笑)。今、ヨーロッパではEDM、アメリカではオルタナが主流ですが、俺はブルースやジャズを聴いて育ったから、去年は7th(ブルースのコード)を 中心にしたアコースティック・アルバムを作りました。その中からやります」と、「航空灯」をじっくり歌う。

 アコギ1本、序盤とは違うスガが顔を覗かせる。バンドを従えた通常のツアーと比べると、当然、スガのシンガーソングライターとしての側面にスポットが当たるシーンが多い。このシークエンスでは美しいアルペジオで歌われた「愛について」が聴きごたえあった。

「8年前からNHKの 『プロフェッショナル 仕事の流儀』の主題歌をやっていて、あの番組をよく見るんですけど、天才外科医に感動したりしますね。そういう人って、“その人にしかできない何か”を持ってる。だから俺も、“この感情はスガの歌でしか救えない”っていうものを目指したい。それで 誰かを救うと、神様が次の歌のタネをくれるんじゃないかと思って音楽をやってきた。もうすぐ20周 年を迎えますが、これからもそうやって音楽を続けていこうと思ってます」と創作の秘密を明かし、♪悲しみも笑顔もぼくの明日も えらべるわけじゃないから♪(「LIFE」)と歌う。MCと歌のリンクが心地いい。バンドでのライブだと、テンションを落とさないようにコンセプチュアルなMCはあまりしないスガだが、もしかすると“Hitori Suger”の魅力は、このMCにもあるのではと思った。

 続く「アストライド」が、僕にとってこの日のベストだった。ドンカマと呼ばれる古いテイストのリズムボックスに乗って、スガは自分のダメな部分を正直に描き、♪何度だって やり直せばいい 何 度だって 恥ずかしくはないよ♪と語るように歌った。バラッドという言葉は、テンポの遅い曲を指すと思われているが、正確には“叙事詩” のこと。実際にあった史実を物語る歌なのだ。スガの心のドキュメントである「アストライド」は、まさしくバラッドとして、会場の人すべての心を打った。それは“Hitori Suger”だからこその感動的なシーンだった。

「97年 2月26日にデビューしたんですけど、その2年前まで会社員だった。今日もその頃の友達が見に来ていて、若干気まずいんですよね(苦笑)。でも、デビュー記念日って、そういうものかも。2011年に一から出直して、2014年にメジャーに戻った。今は97年に戻れた気持ちです」。

 終盤、スガは、特別な日にファイナルを迎えた歓びをオーディエンスにぶつける。アマゾンで買ったボイパ用マイクを駆使して「昔のヒップホップみたい」なリズムトラックを作って「ストーリー」を 歌う。会場の盛り上がりをアコギ1本で受け止め、さらにはアイズレー・ブラザーズ並みのギター・ソロをアコギで決めた「19才」は“Hitori Suger” のハイライトだった。

 熱気うずまくアンコール。「すげーファイナルになったな! 20周年でみんなとすごい景色を見たいので、よろしく!!」と簡潔に挨拶して 歌ったデビュー曲「ヒットチャートをかけぬけろ」、ダブル・アンコールで「最後はあれしかないだろ」と言って歌った「夜空ノムコウ」は、 ただのファン・サービスであるはずはなく、予定調和をはるかに超えた天国にオーディエンスをきっちり導いた。すげーぜ、“Hitori Suger”!

【取材・文:平山雄一】
【撮影:中河原 理英】

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リリース情報

モノラルセカイ

モノラルセカイ

2014年10月22日

ビクターエンタテインメント

1.モノラルセカイ

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お知らせ

■ライブ情報

人間交差点 2015
2015/05/10(日)お台場野外特設会場

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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