EMTG MUSICで連載を持つ“さめざめ”をはじめ、“ゲスの極み乙女。”、“アルカラ”など数多くのアーティストのCDジャケットやグッズデザインを手がける、“恋する絵描き”福井伸実による初の自主企画「NOBUMI FES.♡恋する下北沢♡」が下北沢のライブハウス、MOSAiCで行なわれた。これまで福井がアートワークを手がけた5組のアーティストが出演したこの企画。MOSAiCのCafeスペースには福井によるイラストが所狭しと展示され、各アクトのステージではライブペイントも展開。耳と目で福井伸実ワールドを堪能できる好企画だった。

　オープニングで福井がステージに立ち挨拶をすると、スクリーンに映し出された様々なファッション、表情の女の子たちのイラストと共に20秒前からのカウントダウンがスタートした。3、2、1…で登場した1組目は、男女混成4人組バンド、ダルマキッドだった。着流し姿のボーカルKazuyoshiがファルセットを多用しながら混沌とした世界を築いていく。途中、ベースのAkinoがバイオリンなどで用いる弓を使ってエレキベースを弾く場面もあり、どこか個性的な表現をするバンドだ。福井は「サヨナラ白書」で、ライブペイントに登場。4枚の紙に描かれた女の子の輪郭がこの後、少しずつ完成されていく。

　2組目は、本格的なソロ活動をはじめたMAAKIII（マーキー ex- HIGH and MIGHTY COLOR）。バンド時代とは異なり、軽快なEDMにのせてポップでキュートな歌を聴かせる。3曲目「DASH!脱出!奪取!」で登場した福井は、先ほどの続きをライブペイント。仕上がった女の子の絵には、頭に2本生えた角。福井の人気アイテム“角”のヘアーで登場したMAAKIIIの気持ちに応えた。

　続く、Novaurelia（ノヴァオウレリア）は正統派・女性シンガーソングライター。バンドメンバーの演奏をバックにピアノを奏でて歌うのは、情念にも似た剥き出しの感情だった。どこか落ち着いた佇まいに意志の強さを滲ませた「うそつき」という曲で、再びライブペイントをはじめた福井。そして描きあげたのは、青を基調にした女の子。その目からは大粒の涙が流れていた。

　スキンヘッドのいかついベーシスト、ドラムセットから異常に高く1本飛び出したクラッシュシンバル。それだけで十分なインパクトを放つ神戸出身4人組メロディックパンクバンドAnny。紅一点のボーカル宮脇早紀は黒いダボダボのTシャツを着こなし、金髪のショートヘアを振り乱して元気いっぱいにフロアを盛り上げていく。ラスト２曲で福井をステージに呼び込むと、早紀は、福井とは高校時代から十年来の親友であり、それぞれ絵を描く、歌をうたう、という夢を語り合っていたと明かした。そして、ありがとうの想いを込めた「ぼくのとびら」のあと福井が描いた、満面の笑顔のイラストは、「ひまわり」で《真夏の向日葵みたいな人になりたい》と歌った早紀のイメージにピッタリだった。

　福井伸実という絵描きを軸にジャンルレスなミュージシャンが集まったイベントも、気がつけば、遂にトリを飾るさめざめを残すのみ。1曲目の「コンドームをつけないこの勇気を愛してよ」から、笛田さおりは、ふつう女性ボーカリストが表現することの少ない生々しい言葉で純愛をぶちまけていく。性と嫉妬が渦巻く「スカートめくり」をバックに、福井がライブペイントで描いた女の子は色っぽく物欲しげな表情をしていた。そして、「気が狂っていただきたいと思います！」と笛田が煽り、中毒性の高いポップチューン「メロエロエロメロメロメロエ」でフロアを踊らせると、アンコールではさめざめ誕生の曲「愛とか夢とか恋とかSEXとか」。女の子が持つメスの本能を抉り出し、しかもそれを誰もが共感できるポップミュージックへと仕立て上げる。それは誰でもできることじゃない。
　そして、そんなミュージシャンの表現の核心へと絵画という違うベクトルを使って、ときに繊細に、ときに大胆に寄り添うことのできるのがイラストレーター福井伸実なのだ。

　全出演者のステージが終わると福井がひとり、ステージに登場。イベントが大成功のうちに終えたことに感謝の気持ちを伝えると、「次回はもうちょっと大きいところでできたらと思ってます」とコメントした。

　なお、この日ライブペイントで描いた絵はさらに加筆して完成させたあと、4月2日から曙橋のS.Y.P art spaceで展示する予定になっている。

【取材・文：秦理絵】
【撮影：石ヶ森三英、木下ひろこ】

福井伸実 個展「下北沢の夢のあと」
2015/04/02(木)~12(日) 曙橋・S.Y.P art space
http://arttokyo.sub.jp/
(水曜休)13:00~20:00