くるりコンセプト・ライブ「NOW AND THEN」で魅せた“原点”と“今”
くるり | 2015.05.12
来年で結成20周年を迎えるくるりが「NOW AND THEN」と題して開催した渋谷公会堂のワンマン2DAYS。このライブは1stアルバム『さよならストレンジャー』(1999年発売)と2ndアルバム『図鑑』(2000年発売)を再現するというコンセプトで行なわれたもの。リリース当時20歳だったリスナーは現在は40歳手前。会場には、当時を知らないであろう若いファンももちろんいるが、バンドと共に年を重ねたようなファンが多い。
場内を薄明かりが照らしたまま、『さよならストレンジャー』の1曲目「ランチ」から穏やかにライブはスタートした。岸田が奏でるエレキギターに、ベースの佐藤征史はウッドベースで寄り添う。「20周年……いろんなバンドが結成なのかデビューなのか悩むところですが、自分らは両方やりますので」と、マイペースな岸田のMCから、垢ぬけたバンドサウンドがせめぎ合う「虹」へ。ステージメンバーはサポートに松本大樹(G)、mabanua(Dr)を加え、妊娠中のファンファンを除く4人編成だ。
ライブはまさに『さよならストレンジャー』の曲順どおりに進んでいった。「ハワイ・サーティーン」ではグロッケンを弾く佐藤の後ろで、岸田は新聞紙をビリビリと破く効果音を入れている。そして「東京」。あのひずんだギターリフが流れ出すと、会場から大きな歓声が湧き起こった。京都出身の岸田が綴った大都会・東京。かつて上京する多くの若者の胸を打った名曲は時代を超えてなお瑞々しい。
混沌としたインスト曲「葡萄園」、激しい緩急で聴き手を揺さぶる「傘」といった、アルバム終盤の実験的なナンバーも余すところなく演奏していく。これらの作品が世に出たころはインターネットもロックフェスもいまほど発達していなかった。リスナーは雑誌のインタビューなどの数少ない情報源からソングライター岸田が音楽に込めた行間を読み解こうとしたものだ。そして『さよなストレンジャー』のラストを締めくくる「ブルース」。俯き気味にギターを掻き鳴らし、暗く怪しげな楽曲の世界観を描き切ると、会場は惜しみない拍手に包まれた。
「若いってスゴイね。今はこんな歌は作らない。《決して枯れない花を》とか」と、先ほど披露したばかりの「ブルース」の歌詞に触れて、昔を振り返った岸田。この再現ライブに、彼が何を託し、何を想うのが、もっと知りたいと思った。ここからはライブは後半だ。ゲストにゴンドウトモヒロを加えた5人編成で『図鑑』へと突入していく。
ほの暗いオリジナルのトーンとは一線を画したダイナミックなムードで「イントロ」からはじまると、初期衝動を剥き出しにした「マーチ」、エモーショナルに駆け抜ける「青い空」と、作品が変わると会場の雰囲気もガラリと変わった。アコースティックな感触のある1stから、バンド感のある2ndへ。2作品が続く再現ライブではその差が顕著だ。「ミレニアム」ではこの日、数回目になる佐藤のウッドベースによる演奏。力強く弦を弾き奏でる深い低音に、岸田の朴訥とした声が重なる。メンバーチェンジの多いくるりの中にあって、佐藤は20年間岸田と共に歩んだ唯一オリジナルメンバー。そのふたりの強い絆を感じさせる演奏だった。
『図鑑』の中盤、岸田がキーボードによる弾き語りで歌った「ピアノガール」、さらに残響音にオリエンタルな味わいが香るインスト曲「ABULA」などを、立て続けに聴かせる。そして圧巻だったのは、岸田が力強く歌い上げた「街」だった。メンバーの背中を強い光が照らし、《この街は僕のもの》と絶唱する岸田。ロックのもつ熱さだけでなく、息苦しいほどの寂寥感も、儚さも内包する、言葉を失うほどの名演だった。
「俺らは楽しいけど。ひとつ心配なのは、「Remember me」「奇跡」で(くるりを知って)来た人は、帰ってないかな(笑)?」と、終盤のMCで冗談っぽく言った岸田。初期曲を「うんこっぽい曲ばっかり」と自虐的に言ったが、着飾ることで見えなくなる何かを生々しく表現した初期曲は、いまの若いロックファンにこそ触れてほしい名作ばかりだ。残すところあと3曲になった『図鑑』。シャバダバダッと爽やかに弾む「ホームラン」を経て、ラストは「宿はなし」。沖縄民謡のような温かいメロディが響き渡ると、完全再現は完結した。
「もともとこんなバンドでございました。自分たちでやってるとあんまり変わらないんだけど」と、アンコールで再び登場した岸田はボソリと漏らした。そして、、未発表曲「その線は水平線」を再びオープニングと同じように4人だけのシンプルな演奏で届けると、およそ2時間半のライブは幕を閉じた。
「NOW AND THEN」。それは過去の作品を再構築することで、変化する自分たちに抗わず、バンドとして健全に年を重ねてきたくるりの“今”が逆に浮き彫りになるライブだった。今後のこのシリーズは定期的に継続しそうだが、その先にある“岸田繁40代で鳴らすくるり”がますます楽しみだ。
【取材・文:秦理絵】
【撮影:五十嵐一晴】
リリース情報
セットリスト
NOW AND THEN
2015.4.27@渋谷公会堂
- ランチ
- 虹
- オールドタイマー
- さよならストレンジャー
- ハワイ・サーティーン
- 東京
- トランスファー
- 葡萄園
- 7月の夜
- りんご飴
- 傘
- ブルース
- イントロ
- マーチ
- 青い空
- ミレニアム
- 惑星づくり
- 窓
- チアノーゼ
- ピアノガール
- ABULA
- 屏風浦
- 街
- ロシアのルーレット
- ホームラン
- ガロン
- 宿はなし
- その線は水平線
お知らせ
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