きのこ帝国×plenty、同世代バンドの2マン実現。静かな興奮が会場を包んだ一夜
きのこ帝国 | 2015.07.07
きのこ帝国が、昨年は先輩であるdownyとPeople In The Boxを招いて開催した自主企画「echoes」。2回目となる今回は、ともに26歳前後の同世代バンドとして注目してきたというplentyとの共演が実現した。両者とも特定のシーンに属さず、音楽性そのもので立っているバンドだけに、内なる興奮がフロアにも溢れている。
1曲目の「空から降る一億の星」の序盤で完全に会場がplentyの世界に染められる。江沼郁弥(Vo/G)の頭のてっぺんから突き抜けるような声とシンプルなギターカッティング、よくうたう新田紀彰(B)のフレーズ、確実に刻まれる足跡のような中村のビートのトライアングルは鉄壁でもあり、時に柔らかい。中盤にはなんと1stミニアルバム『拝啓。皆さま』から「東京」を披露。ほぼ灯りのないステージから聴こえる<見えなくなった 言えなくなった 逃げたくなった>という歌詞は、この歌が生まれた時と、同じ温度ではないように思えた。この街で強かに生きてきた証が江沼の強い声の説得力に満ちていたからだ。水を打ったように聴き入るフロアからは曲が終わるたびに大きな拍手が起き、心地いい緊張と開放が続く。そんな中、きのこ帝国とは以前所属していたThe Cabs時代に交流があり、「佐藤さんが怖いからあまり話したことはなかった」と微笑を誘う中村一大(Dr)。「呼んでくれてありがとう!」的な熱さは皆無な(?)2バンドだからこそ、厚い信頼を寄せてここに集った人たちなりの喜びが拍手に現れる。その後も江沼の圧倒的なメロディの閃きが冴える「待ち合わせの途中に」や、サビで思わずフロアから手が上がった「枠」、そしてラストに無骨とさえ言えそうな飾り気のない「イキルサイノウ」を披露して3人はステージを後にした。その定義を明確に並べることはできないけれど、中村が正式メンバーとして加入して1年弱。ひとこと、いいバンドとしか名状しがたい風格さえ今のplentyは湛えている。
佐藤千亜妃(Vo/G)がセンターに立つ形態になってまだ数回もライヴを行っていないはずだが、個人的には初めて見るこのスタイルに新鮮さ以上に必然を感じた。オープニングは1stミニアルバム『渦になる』から、「The SEA 」が披露されたのだが、佐藤のボーカルがこんなに少女的なあどけなさを伴って放たれたことは今まであっただろうか。そのことに驚いていると、今度は透明な轟音が押し寄せる「海と花束」のイントロ、そして、よりクリアになったあーちゃんのフレージングや自然なBPMに、バンドがライヴの運び方に於いてずいぶん強さを増したことに気づく。間髪入れず、一言「東京」と佐藤がタイトルコール。あーちゃんと谷口滋昭(B)が刻むユニゾンのフレーズが一気にエモーションを解放するサビの序章としてゾクゾクするようなアンサンブルを聴かせたのは、佐藤の歌に沿ったアレンジとして、前半最高の聴きどころになっていた。なんと言っても、佐藤の歌が限りなくありのままに聴こえる演奏が素晴らしい。ミューズ的にも突き放したスタイルでも歌える佐藤だが、最新アルバム『フェイクワンダーランド』、いや「東京」以降の彼女はほとんど声で武装していないように思えるのだ。そして日常と地続きの感情を歌う「桜が咲く前に」では佐藤はアコギを手にし、あーちゃんがエレピを奏でる。きのこ帝国のサイケデリアが否応なくはみ出る演奏ではあるのだけれど、「東京」「桜が咲く前に」という、佐藤の現在地と上京前の自分という言わば同一の主人公の物語を続けて聴くことで、サウンドも含めたきのこ帝国のストーリーがこれまでより明らかに見えてきたタームだった。そしてこの日のために作ってきたという「猫とアレルギー」という新曲も披露。どこかRadioheadの「クリープ」を思わせる切ない曲調ながら、内容はラヴソングを想起させたのも新しい。鮮やかな心象を映した新曲に続いては、対局を成すように佐藤のフィードバックノイズをはじめ、谷口、西村”コン”(Dr)が生み出す怒涛のグルーヴが渾然一体になった「ミュージシャン」。渦巻くシューゲイズサウンドの波から上がってきたように一旦静寂を取り戻しての「夜が明けたら」。再び曲が進行していく中での<今まで傷つけたぶんだけ いつかの誰かを救えるわけがない><でも、でも>のリフレインはいつものことながら胸が締め付けられる。そしてラストは、フロントのコーラス(というかリフレイン)が、さらにバンドの意思に聴こえた「明日にはすべてが終わるとして」が配され、8曲という短いセットリストながら、今のきのこ帝国の楽曲のセレクトや物語を堪能できた。それは恐らくplentyもそうだと思うのだが、あらゆるものにNOを突きつけた二十歳前後と、何はNOで何はYESなのか?意思を持って取捨選択してきた、20代半ばのリアリティがライヴにも反映しているのだろう。
アンコールできのこ帝国のメンバーに江沼も加わって演奏したのが、SUPER BUTTER DOGの名曲「さよならCOLOR」であったことも、今の彼らの年齢や意思にぴったりハマっていたように思う。
【取材・文:石角友香】
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