中田裕二trio saloon、ミニマルなシンプルさが無限の可能性を秘めるトリオ編成ツアー
中田裕二 | 2015.07.21
中田裕二がここにきてますます意気軒昂だ。4thアルバム『BACK TO MELLOW』を携えて全国14都市15公演を回った〈TOUR 15“BITTER SWEET”〉からわずかに3ヵ月あまり、早くも新しい形でのツアーをスタートさせた彼。〈TOUR 15“minimal dandyism”〉とタイトルされた今ツアー、注目すべきは何と言ってもトリオ編成だろう。キーボードに奥野真哉(SOUL FLOWER UNION)、パーカッションには朝倉真司を迎えた、その名も“中田裕二trio saloon”。
中田によれば昨年(2014年)4月に開催された彼主宰のイベント〈THE SONG STATION~ロマンサーズ・アワー~〉にてこのメンバーで一夜限りの結成を果たした際、非常に手応えを感じたのだという。ギター、キーボード、パーカッションというミニマルなシンプルさが逆に無限の可能性を秘めているのではないか、この3人だったらなんでもできそうな気がする、とツアーに出る機会を伺っていたらしい。いつものバンド編成とも、彼がライフワークの一環としている単独での弾き語りスタイルともまた異なるアプローチが自らの音楽表現に何をもたらすのか、ツアー真っただ中の今、おそらく誰より中田自身が心躍らせているに違いない。まだ幕を開けたばかりの2日目、東京・品川プリンスホテル Club eXのステージには無邪気に、けれど貪欲に音を楽しみ尽くそうとする彼の姿があった。
会場のキャパシティは300~400人規模といったところだろうか。円形のフロアにはステージに対峙して整然と椅子が並び、その上方をぐるりと囲む2階のバルコニー席。あしらわれたビロードの赤が大人っぽいムードをさらに増幅させる。ホテル内に設えられたラグジュアリーなホールということもあるのだろう、詰めかけたオーディエンスの装いにはどこかよそ行きの華やかさがまとわれていて、場内を満たすさざめきもいつになく初々しい緊張感を帯びているように感じられた。まるで初めてのデートで想い人を待っているみたいな……そう思って今日が七夕であることに気づく。天候こそあいにくの雨模様ではあるものの特別感は2割増しだ。
19時を5分ほど回って静かに落ちる客電。荒野を彷彿させる勇ましいSEに乗って朝倉、奥野、そして中田が現われた。
「どうもこんばんは!」
ダンディズムに溢れる(?)登場から一転、明るくなったステージに破顔一笑でギターを抱える中田。奥野の奏でる流麗な旋律、朝倉が叩き出すカホーンの力強いリズムが間髪入れずにほとばしり、瞬く間に場内には緩急自在なアンサンブルが渦を巻いては大きなうねりを生み出してゆく。なんとも鮮やかかつしなやかな展開にオープニングから最初のブロックのラストまで一気に心を持っていかれてしまう。
トリオ名に“saloon”と冠されているところからもわかる通り、今ツアーにおいては客席とステージとの距離の近さもコンセプトのひとつ。お互いにゆったりと椅子に掛け、向かい合って音楽を共有する。そのなんと贅沢なことか。音そのものだけではない。例えばギターの弦をなでる中田のピックのリズミカルな上下動やその前腕に微かに浮かぶ血管や筋肉、頬を伝う汗のひと筋が歌に宿った熱をいっそう艶かしいものにする。想いの起伏をそのまま写し取ったかのごとく奥野の情感豊かな指さばき、カホーンにボンゴにウィンドチャイムにと全身を駆使した朝倉のプレイを目の当たりにするにつけ楽曲がひときわ立体的に迫る。音楽の肉体的な魅力をここまで生々しく味わえる空間もそうないだろう。軽妙洒脱なイントロに満場の手拍子が一体感を生み出した「髪を指で巻く女」、キーボードソロにフェイクで絡めた中田のシャウトがさりげなくもみぞおちに入った。
絶賛敢行中のツアーゆえ、演奏曲の詳細には触れずにおくが、リリースにまつわるツアーではないぶん選曲の幅も広く、セットリストは1stアルバムから最新作までまんべんなくピックアップされて構成されている。加えて新曲も数多く披露、色気の匂い立つムーディな曲もあれば明るい疾走感に溢れた曲、中田裕二節と呼びたいアーバン&ダンディな曲もありと実にバラエティに富んでいて、そうしたところからも彼の充実ぶりが窺い知れた。さらには中田がギターからベースに持ち替えて数曲を演奏するという貴重な一幕も。曰く「レコーディングとかではほとんど自分でベースを弾くんですよ。ホントかな? って思ってる人もいるかもしれないけど、一応、『ベースマガジン』にも出ましたからね」。ただし、自分の曲はあまりに難しく歌いながらでは無理とのこと。そう言いながらも「UNDO」のサビの一節をサラッと弾いてみせ、奥野に「ちょっと出来てるのが腹立つ」と即座にツッコまれていたのには笑った。
「この“trio saloon”は即興が多かったり、その場その場でまったく弾いてることが違ったりもするんですよ。ミュージシャンをやってもう長いですし、決められたフレーズをやるのもいいけど、たまにはそこから外れてより自由度高いもの……時には原曲を超えたりするかもしれない、そういうものやりたいなと思ってやることにしました。なので、今日はよりアグレッシヴなプレイが聴けたと思います」
彼が今ツアーに求めたものはアンコールで口にしたこの言葉がすべてだろう。枠にとらわれず、自由に、柔軟に、そしてどこまでも音楽の本質を探り続けていきたい。彼のアーティストとしてのダンディズム、その深き業を覗くようなステージだったと言っていいのかもしれない。それはそら恐ろしくもあり、このうえなく魅惑的でもある。だからこそきっとまた彼の音楽に触れずにはいられない、そう予感した夜。ツアーは8月13日、仙台darwinまで続く。中田裕二のその先を早く見たい。
【取材・文:本間夕子】
【撮影:加納 亜紀子】
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リリース情報
[DVD] TOUR 15 BITTER SWEET 赤坂、春の宵
2015年06月24日
Imperial Records
“Live at AKASAKA BLITZ, Tokyo 28th March 2015”
01.世界は手のうちに
02.未成熟
03.誘惑
04.デイジー
05.モーション
06.PURPLE
07.LOVER
08.FUTEKI
09.髪を指で巻く女
10.愛の摂理
11.薄紅
12.そのぬくもりの中で
13.ドア
14.MY LITTLE IMPERIAL
15.LOVERS SECRET
16.ユートピア
17.MIDNIGHT FLYER
18.サブウェイを乗り継いで
[disc 2 -bonus disc-]特典DISC
“うたごえスナック裕二”
“encore from Live at AKASAKA BLITZ, Tokyo 28th March 2015”
1.ひかりのまち
2.リバースのカード
3.ランブル
4.灰の夢
お知らせ
中田裕二 trio saloon (中田裕二×奥野真哉×朝倉真司)「tour 15 “minimal dandyism”」
2015/08/05(水) 大阪 umeda AKASO
2015/08/06(木) 名古屋 ボトムライン
2015/08/13(木) 仙台 darwin
中田裕二の謡うロマン街道
2015/08/15(土) 盛岡 あさ開十一代目源三屋
2015/08/16(日) 福島 大和川酒造北方風土館昭和蔵
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。