5月2日から始まった「YOSHII KAZUYA STARLIGHT TOUR2015」が、ファイナルを迎えた7月16日の東京国際フォーラム・ホールA。ライヴの終盤に吉井和哉は、このツアーを振り返って言った。
「５月６月７月、毎月全然違う表情を見せたツアーでした」
　アンコール公演や郡山でのライブハウス公演含む全17カ所22公演に及んだこのツアーが、いかに実りの大きいものであったか、彼は改めて噛み締めているようだった。確かにツアー初盤とこの日では、大きく印象の違うライヴだった。セットリストが多少変わっていた程度で大きな変更があったわけではないのに、よりスケールが大きく濃密なドラマを描くステージになっていたのだ。最新作『STARLIGHT』は、ロック・ミュージックへの愛情や憧憬を彼にしか出来ないかたちで表現したものだ。夢の輝きと挫折の翳りが織りなす華やかでアイロニカルな情景を、このツアーで彼は見せてくれた。その集大成が、この夜だった。

　メンバーと共にステージに現れて興奮にざわめく空気を一瞬にして引き締めたのは「STRONGER」。ゆったりとしたドラムとキーボードを従えた伸びやかな声が、この夜の夢の扉を開いたようだった。続いてアルバム『STARLIGHT』の幕開けである「Hattrickn’」が力強いバンド・サウンドで響き、「ビルマニア」で更に熱気を上げながら「星になろうぜ！」と吉井が呼びかけた「ROCK STAR」。一息入れて、「ファイナルです。寂しいね。またここからやりたいな」と、過ぎて行く時間を惜しんでいたのも本音だったに違いない。紅い照明に包まれた「紅くて咲こうとした恋の」、ファンキーな「迷信トゥゲザー」では歌いながら腰をくねらせて嬌声を誘うなど軽快なところも見せながら、アコースティック・ギターを弾く「母いすゞ」は切ない物語を紡ぐ歌詞がこれでもかというほど伝わり、「TOKYO NORTH SIDE」はツアー・ファイナルなのに絶好調とさえ思える伸びやかな歌で圧倒した。

　この日のMCで触れなかったが、このツアーは星や夜を歌い込んだ曲を中心にしたというセットリストになっている。夕暮れから星空や月を幻想的に描いてみせる照明と舞台装置が曲のテーマを裏打ちし、時には会場の壁面や観客席にも光を散りばめ立体感を生み出す。大げさに驚かすようなことはないけれど、自然と曲の世界に誘う照明は本当に素晴らしい。

　曲の途中でブレイクする「MUDDY WATER」は、「初めての人は何のこっちゃと思うだろうけど」と声を潜めて説明。この流れが既に定番になっているのだが、このツアーがB’zと道程が重なっていたことや台風も来たことなどを面白おかしく話しながら吉井がアコギを抱えると、ドラムの吉田佳史が歌い出す。最後を「ウルトラソウル！」と締めたのがオチになって曲に戻り、ホットなノリを保ってイエローモンキーの初期曲「審美眼ブギ」へ。大いに沸いたお楽しみタイムの後は、茜色の照明の中で歌った「Route69」、ダンサブルな「MUSIC」で空気を変えて、「今日もいい感じです、どうですか、この生のグルーヴ、俺たちと君たちの心の触れ合いのグルーヴ！」と一体感を確かめ、吉井がタンバリンを振り客席にもカラフルなライトが舞った「点描のしくみ」、歌詞の「ライヴハウス」を「国際フォーラム」と変えて歌った「Step Up Rock」と、吉井がマイクを向けるまでもなく場内からの歌声が大きくなっていく。「Everybody、いろいろクリアして行こうぜ、一緒に歌ってください！」と促した「クリア」は、歌詞にも出てくる花吹雪がステージ脇の壁面に映され、指揮するように手を振る吉井とともにオーディエンスは大合唱。終わると吉井は満足そうに両手を広げた。

「今日はいい感じだぞ、相性がいいと思います、君たちと。散歩しましょう、自分を信じて」と吉井が言うとドライヴの効いたギターが響き「You Can Believe」。ライヴを経てCDよりも更にスケールの大きなロック・チューンになったこの曲から、イエローモンキー時代の「パール」へと続いて歓声が沸いた。そして本編最後を飾るアンセム「(Everybody is) Like a Starlight」のイントロが始まると、入場時にオーディエンス全員に配られたリストバンド型LEDライトが、白く光り出した。リストバンドと一緒に配られたフライヤーによれば「これは吉井和哉をはじめ、ステージにいるメンバーは知らないサプライズ企画です!!!」とのことで、本当に吉井たちは驚いていたようだ。白一色に輝くリストバンドは、本当に星空のようで客席から見ても感動的だった。歌い終わると吉井は、このサプライズへの感謝を示すようにオーディエンスに向かって拍手を送りステージを降りた。

　その余韻が残る中でのアンコールは、「HEARTS」の途中で「TOKYO!」と呼びかけ、「ONE DAY」をオフマイクで一声叫んで歌い出した。吉井がこんなに高揚したところを見せたのは珍しい。「MOONLIGHT DRIVE」ではハンドルを握るポーズをしてみせ、「WEEKENDER」は最後に膝をついての熱唱で圧倒した。

「このツアーで素晴らしい演奏をしてくれたバンドのメンバーを紹介します」と、吉田（Dr）、三浦淳悟（B）、鶴谷崇（Key）、バーニーこと日下部正則（G）を、エピソードを交えながら紹介。中でもバーニーがこのツアーで使っているギターが相当高価なものだという話には客席から感嘆の声が起こった。続けて「５月から始まり、毎月違う表情を見せたツアーでした。『STARLIGHT』というアルバムを作って、最初は深い思い入れがあってつけたタイトルではなかったんですけど、こうしてツアー最終日を終えて、自分の原点に立ったタイトルというか。小さいときから星を見て願い事をしていた。星に助けて欲しかったり力が欲しかったり。改めて考えてみると、自分に願ってたんだなと思いました。これからも自分を一番愛して、自分に願っていこうと思います。今日は新月。今日がまたスタートになりそうな気がします。年末にまた会いましょう」

　このツアー最後の曲となった「ボンボヤージ」で、リストバンドは赤・青・緑・黄とカラフルに光り、次への船出を祝福した。演奏を終えた吉井たちは、オーディエンスと共に記念撮影をし、５人でハグしあい、満ち足りた顔で手を振りながらステージを後にした。この日のライヴは映像化され９月にリリースされることが発表され、12月には大阪・福岡・名古屋での公演が決定した。

【取材・文：今井智子】
【撮影：有賀幹夫】