星野源、武道館をたった「ひとり」で演じきったステージ。
星野 源 | 2015.09.02
この歌を何人の人が聴いてくれるか、誕生した時には分からない。だが、星野源の歌にはその歌が彼の外に出ないといけない切実な理由があるものばかりだ。その「切実さ」が1対13,000人ではなく1対1×13,000の集中力を生み出した、それが「ひとりエッジ」だった。今回は2日開催された2日目をレポートする。
ごくごく何気ない調子で登場した星野を満場の拍手が迎える中、1曲目は「バイト」。のっけから<殺してやりたい人はいるけれど君だって同じだろ 嘘つくなよ>である。コンビニのバックヤードでさくっと諭されたような気分だ。一瞬で彼が生きてきた情景にワープしてしまう。張り詰めていた空気が「ギャグ」「化物」で増していくハンドクラップと相まって薄れる中、「今日は完全にひとりでやりきりますので、楽しんでください!」と挨拶すると、さらに拍手のボリュームが増す。
アコギと歌だけのアレンジで、彼のリズムギタリストとしてのセンスとテクニックの独特さを改めて感じさせる「地獄でなぜ悪い」などを経て、男女問わず「ほしのー」「げんさーん」「抱いてー」…と言いたい放題のファンを更に沸かせるように円形ステージが180°回転。その間も星野的にウケたものにだけ返事を返すいつも通りのやりとりの中で「”男前!”っていうのは言われて嬉しいと昨日気づいた」と。それ以降、終盤までファンもタイミングを見てはその掛け声をかけたのは自明だろう。
ナンバーガールのカバー「透明少女」の前振りとして存在するMCという恒例行事(?)に、昨日見に来た仕事でお世話になっている50歳前の女性が「わざわざメールで”昨日のひとりエッチ、気持よくて良かったです”って送ってくれて」と爆笑を誘い、「そんなあの娘は『透明少女』」と曲紹介とともに歌う。そして続けて本人も出演しているWEBムービーのために書き下ろした「Snow Men」がフルで披露されたのも嬉しい。AORっぽいメロディ、ファルセットと新鮮な要素を聴かせ、弾き語りでもイメージが広がる時間だった。ギターチェンジしての「フィルム」からさらに声も伸びやかに。
「フェスだと1対大勢のノリになるけど、今日みたいに1対1で全員違う人が同じことをやるのが面白い」と、まさに核心を突くMCをした上で「Crazy Crazy」の手拍子を促すと、最初はBPMが早すぎたり揃わなかったりして、まさに星野が言ったことを体感してしまった。観客もまた自分のリズム、自分のことを思い知るわけだ。まぁとにかくザクザク歌い、話したいことを話したいタイミングで話す。自由なのだ、ひとりきりだから。
スルスルと四面のビジョンが降りてきてステージを囲むと、おなじみ”ニセ明”がビジョンに映り、なんとかこの武道館2日間、公演に出演してもらえないか?とスタッフが交渉する映像が流れ、徐々に意外と庶民的なニセの日常が暴露されていったりも。
転換が済んだステージはちゃぶ台や扇風機が置かれた「自分の部屋という設定」のセット。座布団にあぐら、眼鏡スタイルの星野はノートを繰りながら「ばらばら」「くせのうた」を続けて歌う。大げさじゃなく過去の本物の彼自身を望遠鏡で覗いているような気持ちとともに涙腺が決壊。恐らく曲に対する感銘とシチュエーションがリンクしすぎたのだろう。積まれた本の中にエロ本を発見して熟読したり、「ほんとこんな感じで曲作ってる」とギターを抱えたまま寝そべった絵が俯瞰でビジョンに映しだされたり、もう大開陳である。
そして「さすがにひとりは寂しい、誰かセクシーな女の子とか来てくれないかな。昨日は男の子だったんですけど(1日目は神木隆之介が登場)かわいい人で正直、抱ける」という告白に笑いが起こる中、「女の子でーす、セクシーじゃなくてごめんなさい」とPerfumeのかしゆかが差し入れとともに登場。大慌てでエロ本を捨てる小芝居もビジョンに映しだされる。
13,000人が見つめる中でハーブティを淹れ、飲み、会話。彼女に聴かせるように選んだのが「老夫婦」というのもギャグなのか照れなのか、この日いちばんのシュールな場面を形成していた。かしゆかが去ったあとも、ひとり”部屋”で豊穣なサイケデリアが立ち上がる「レコードノイズ」などを歌い、再び転換へ。
何もないステージに今度はラジカセを手に登場し、ビートトラックに乗せて「マッドメン」をコミカルな動きとともに披露。その後は、「40代半ばぐらいの夫婦がオールディーズパブでチークタイムを踊るような」ノリでゆらゆらしてほしいと観客にオーダーし、自分でオーダーしておきながら「きもちわるっ」などと悪態をつきながら「海を掬う」もラジカセのビートに乗せて届けてくれた。
ひとりきりでも可能な範囲で音数を増やしていった終盤にはシンプルなドラムセットが黒子に扮したスタッフにより速攻で配置され、「今度は自分でドラムを叩きます」と、生音をその場でループさせて、そこから「いち に さん」「桜の森」と観客のハンドクラップも相まったグルーヴを作り出し、本編ラストは抜群のリズムギタリストっぷりを再び実感させる「夢の外へ」で大団円を迎えた。ステージ上に星野源しかいないことなどもう当たり前に思えるほど、エンタテイメントとして完成していたのだ。
しかしアンコールも含めて緻密に全体像を構成している星野のこと。まぁニセ明が「君は薔薇より美しい」を熱唱する場面は定番になった印象もあるが、ニセのくせにそのまま去らず、ステージ上で生着替えしてしまったことも含めて壮大なオチというか、大サービスだ。黒子に隠された布の中から「今、ほぼ全裸だから」と生足を出してみたり…。着替え終わった星野は改めて「ホントに本当に楽しいです。ありがとう!」と改めて感謝を述べる。
そして「最初から武道館のライブを一人でやってみたかった」と、ほぼ1年前に押さえてあったであろうこの会場で、その間、内容を練ってきたことを示唆する。「これからもバカみたいな、くだらないことを大手を振ってやっていきたいと思います!最後は明るい曲をやりたいと思います。俺とあなたとでこの曲を作ろう!」と、この夏を代表するアンセムに育った「SUN」を歌う。思い切り声を張り上げての力技にも見える歌唱が<君の歌を聴かせて>という歌詞だったのは、彼が音楽を作り歌うこと、音楽を希求してやまないことを示し、盛りだくさんの約3時間をより強烈なものにして、幕を閉じたのだった。
【取材・文:石角友香】
【撮影:岸田哲平】
リリース情報
SUN(初回限定盤)[CD+DVD+スリーブケース]
2015年05月27日
ビクターエンタテインメント
1. SUN
2. Moon Sick
3. いち に さん
4. マッドメン (House ver.)
[DVD]
『SUN Disc』収録内容
・特別番組「その後のニセ明」
・Recメイキング 「いち に さん」
・厳選ライブ「ビクターロック祭り2015」
・星野源によるオーディオコメンタリー付
セットリスト
星野源のひとりエッジ in 武道館
2015.8.13@日本武道館
-BUDOKAN-
- バイト
- ギャグ
- 化物
- ワークソング
- 地獄でなぜ悪い
- 透明少女
- Snow Men ※新曲
- フィルム
- Crazy Crazy
- ばらばら
- くせのうた
- 営業
- くだらないの中に
- 老夫婦
- Night Troop
- レコードノイズ
- マッドメン
- 海を掬う
- いち に さん
- 桜の森
- 夢の外へ
-ROOM-
- RHYTHM-
- 君は薔薇より美しい
- SUN