ステージ後方に巨大スクリーンが設置され、色とりどりのカラフルなレーザー光線が飛び交う場面もあった。だが、主役はandropのメンバー４人が織り成すバンド・サウンドであり、ここで今日披露された楽曲が放つエネルギーやストーリー性がすべてを語り尽くす内容だった。つまり、andropと楽曲が１ミリもズレなく直結し、会場を覆い尽くす凄まじいパフォーマンスを見せた。音楽の力を信じ、やり切った先に見えた光景を、バンドと観客が共有する幸せな時がずっと刻まれていたのだ。

　今年８月に過去作のアルバム名の頭文字を取ると、ずばりセルフタイトルになるという４thフルアルバムを発表した彼ら。これまでの道のりを踏まえ、等身大のバンド感でストレートに勝負する決意が込められていたに違いない。そのニュー・アルバム『androp』を引っ提げ、７都市10公演を回る全国ワンマンツアー「one-man live tour "androp"」は、Zepp Tokyo２デイズを皮切りに始まった。ここでは２日目のレポートをお届けしたい。ただし、絶賛ツアー中ということもあり、曲数は最低限に触れるに止め、この日味わったライヴの印象を中心に書き綴りたい。

　シルバーウィークのこの日は通常よりも早い17時開演で、フロアは立錐の余地もないほど観客で埋め尽くされていた。青いライトが照らされる幻想的なムードの中、観客の様子を確かめるような立ち上がりで本編開始。ヘヴィなギターを合図に「From here」に突入すると、疾走感溢れるスリリングな演奏力でバンドの肉体性を猛烈にアピールする。

「今日は新曲や久しぶりの曲も演ります。周りに体調が悪い人がいたら、助けてあげてください」と内澤崇仁（Vo/G）は高まる熱気を眼前にして、観客を気遣うMCも挟んでいた。誰もケガをすることなく、みんなにとって今日が最高の日になるように、という願いがあったのだろう。

　それからも佐藤拓也（G/Key）のオルタナティヴなギター、前田恭介（B）のバキバキのスラップ・ベース、伊藤彬彦（Dr）のタイトなドラム・ビートを背に、内澤は一点の曇りなき力強いヴォーカルで訴えてくる。かと思えば、繊細な文学少年のごとき横顔を見せる柔らかな声音で迫り、キーボードを配したバラード曲「Ghost」においては、聴く者の心に沁み込むサウンド・アプローチでも引き付ける。

「周りに合わせなくて良いので、自由に楽しんでほしい」と内澤が告げると、中盤辺りにアコースティック・ギターを使用した「Star」を披露する。普遍性を帯びたグッド・メロディでさらなるスケール感を存分に発揮し、また平易な言葉を用いた歌詞のメッセージ性もまっすぐ胸に響いた。完全に観客の心を開かせた後、フィジカルに訴えるダンサブルな曲調でも焚き付け、高揚感に満ち溢れた至福の音色で会場を包み込んでいく。そこに天井のミラーボールが照り輝き、楽曲の魅力を際立たせていた。

　後半戦は一緒に歌おうと積極的に呼びかけ、「One」をプレイ。身も心も通わせるようにバンドとオーディエンスはひとつになり、大合唱が会場全体に鳴り響く。特に「Yeah! Yeah! Yeah!」の一体感は凄まじいものがあった。また華やかなライトも効果的で、非現実的な空間に一気に吸い込まれていく感覚に浸った。

　とにかく、最新作の楽曲を軸に過去作からも散りばめたセットリストで、バンドの多面性をこれ以上なく見せつけたステージングだった。変幻自在のアンサンブル、喜怒哀楽の限りを尽くした表現力豊かな歌声、そこに観客が参加することで楽曲の魅力が二倍、三倍、いや、数十倍となってZepp Tokyoの空気を塗り替えていく様に何度も身震いするような感動に陥った。

　今日ここに集まった人たちの現在、明日、もっと言えば今後の未来まで自分たちの音楽が関わっていけたならば、それこそが至上の喜びになるのではないか。そんな思いを歌と演奏の一音一音に託した全身全霊のパフォーマンスに魅せられてしまった。まだワンマンツアーは始まったばかりである。ここからさらにどう楽曲がブラッシュアップされていくのだろうか。気は早いかもしれないが、既に彼らが鳴らす次の音源や、ニュー・アルバムが今から楽しみになってきた。今回のツアーを通して、バンドは一段と成長を遂げるに違いない。そう確信せざるを得ない素晴らしいショウだった。

【取材・文：荒金良介】
【撮影：橋本塁】