Nulbarich 「Nulbarich ONE MAN TOUR 2019 -Blank Envelope-」東京追加公演
Nulbarich | 2019.05.28
「笑ってるけど、ノックアウトされるのは君たちだからね」――JQはステージ上から不敵にもそう「宣言」した。自信の表れか、それともNulbarichとしての矜持のあらわれか。今年2月にリリースしたニューアルバム『Blank Envelope』を引っさげての全国ワンマンツアー。Zepp Tokyo 2デイズをソールドアウトした東京での追加公演が、東京ドームシティホールで行われた。単に音楽性の幅を広げたというよりも、バンドとして新たな肉体性を手に入れたような『Blank Envelope』を経てNulbarichはどんな進化を遂げているのか――と、とても楽しみにしていたが、果たして、そこにいたのはこれまでの洗練されたセンスと洋楽的なグルーヴ感覚をスケールの大きなロックバンドとして鳴らす、最新型のNulbarichだった。冒頭のJQの宣言どおり、完全に打ちのめされた。
開演前から場内にはレーザーライトが煌めき、ヒップホップやR&Bを中心としたBGMが大音量で流れている。その音に気持ちよさそうに体を揺らすオーディエンスもちらほら。この会場の特徴でもある天井の高さも相まって、フロアにはフェスのような開放的な空気が流れている。そんな中に登場したNulbarichが最初に鳴らしたのは「NEW ERA」だった。一瞬で空気を変える歌声が響き、「Welcome to NEW ERA, Japan!」という一言から豊潤なグルーヴが空間を満たしていく。間奏にはプログレッシヴなギターソロが挟まれ、Nulbarichの名刺となったこの曲がさっそくスケールアップしていることをオーディエンスに気づかせてくれる。続く「Silent Wonderland」ではなんとJQがギターをプレイ。「NEW ERA」でもそうだったが、この日のライブ全編を通して、ギターサウンドの厚み、バンドのアンサンブルにおける重要度が明らかに増していた。音域が広く、音色の自由度も高く、何よりロックバンドの代名詞としての強いイメージをもったギターは、バンドのサウンドにダイナミズムをもたらすのにうってつけの楽器だ。リズムをつくるカッティングも彼らのチャームだが、この日目立っていたのは、たとえば「Focus On Me」や「ain’t on the map yet」での派手で泣けるソロのほうだった。
その意味でひとつのハイライトといえたのが、「It’s Who We Are」と「Kiss You Back」を立て続けに披露したライブ中盤だ。ファンキーな「It’s Who We Are」がギターが前面に出ることである種ミクスチャーロック的な迫力を手に入れていたし、EDM時代のモダンポップをNulbarich流に鳴らした「Kiss You Back」にいたってはまるでコールドプレイのようなロックアンセムに変貌していた。音源で聴いたときとはまるで印象が違う。それは、細かいアレンジやサウンドメイキングというよりも、バンドとしての筋力やスタミナという、もっと根源的な部分がタフになった証拠なのではないかと思う。それはツアーを通して養ってきたバンドの地力でもあるだろうし、もっといえば、『Blank Envelope』というアルバムまでの道程でひとつのターンを終えたNulbarichが「これから」を進んでいくために必要な力でもある。つまり、この追加公演は国内ツアーの終わりではあるけれど、そこにはすでに「次」のイメージが色濃く反映されていたのだ。
一方で、これまで培ってきたNulbarichのよさもしっかりとアピールされていた。ドープなグルーヴがブルーズ的な深みも感じさせる「On and On」では観客との濃密な一体感を生み出し、ミニマルなアレンジがJQの歌のシリアスな情感を際立たせる「Handcuffed」ではNulbarich一流のメロウネスを印象づける。美しいピアノソロを挟んで披露された「All to Myself」の高級感といったら。LAで吸収した最新のビートであるトラップを思いっきり大胆に導入しながら、ここまで切なく料理してみせるバンドがほかにいるだろうか。Nulbarichというバンドはとても情緒的な一面をもったバンドだと個人的には感じているが、その部分も、よりヴィヴィッドに、そして具体的に、音の質感として感じられるようになっている。
「JUICE」でメランコリックに踊らせたあと、アルバムのイントロを経ていよいよライブはクライマックスへ。「In Your Pocket」「Almost There」を経て投下された「Zero Gravity」。Nulbarichの原点ともいえる楽曲も、今の彼らの肉体性によって生まれ変わっている。圧倒的な迫力でギターソロが轟いたアウトロから、シームレスに「Super Sonic」へ。ジャジーなリズムが一気に宇宙的スケールに展開していく様子は、アルバムで聴いてもインパクトがあったが、ライブとなるとなおさらだ。
「C’mon, Tokyo!」とフロアを煽り、アンサンブルの摩擦熱と歌のエモーションによってどこまでも熱く盛り上げていく。そして「Toy Plane」を経て、フィナーレは「最後はみんなで一緒に声を出したり手を叩いたり、楽しみながら終わりたいと思います」というJQの言葉から「Stop Us Dreaming」。オーディエンスの手拍子がまるでスタジアム・ロックのような高揚感を生み出す中、強烈な余韻を残して彼らはステージを降りた。
MCではメンバーの衣装をイジったり、流麗なピアノソロに「指何本あんの?」と冗談めかして尋ねたり、終始リラックスした表情を見せていたJQだが、そのなかでも彼の語る言葉の端々には強い決意がにじんでいた。最後の「Stop Us Dreaming」を前に語られた「誰も僕たちの夢を止めるやつはいない。みんなと一緒だからね!」という宣言は、Nulbarichがどんなバンドであろうとしているのか、これからどう進んでいくのかのイメージを示唆しているように感じられた。それは、それこそスタジアム級のスケールで巨大なユニティを生み出す、本当の意味ででっかいロックバンド。この日のライブで見えたのは、そんな可能性の一端だったと思う。
【取材・文:小川智宏】
【撮影:岸田哲平】
リリース情報
Blank Envelope
2019年02月06日
ビクターエンタテインメント
2. VOICE
3. Silent Wonderland
4. All to Myself
5. JUICE
6. Sweet and Sour
7. Kiss You Back
8. Toy Plane
9. Ring Ring Ring
10. Focus On Me
11. Super Sonic
12. Stop Us Dreaming
13. I’m Home (Outro)
セットリスト
Nulbarich ONE MAN TOUR 2019
-Blank Envelope-
2019.5.9@東京ドームシティホール
- 01.NEW ERA
- 02.Silent Wonderland
- 03.VOICE
- 04.Focus On Me
- 05.I Bet We’ll Be Beautiful
- 06.ain’t on the map yet
- 07.It’s Who We Are
- 08.Kiss You Back
- 09.Sweet and Sour
- 10.Handcuffed
- 11.On and On
- 12.Ring Ring Ring
- 13.JUICE
- 14.All to Myself
- 15.In Your Pocket
- 16.Almost There
- 17.Zero Gravity
- 18.Supersonic
- 19.Toy Plane
- 20.Stop Us Dreaming
お知らせ
Nulbarich ONE MAN LIVE -A STORY-
at SAITAMA SUPER ARENA
12/1(日) さいたまスーパーアリーナ
Nulbarich ONE MAN TOUR2019
- Blank Envelope - 韓国公演
7/20(土) ムーブホール(MUV HALL)
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。