レビュー

秦 基博 | 2014.10.29

連載 第43週
秦 基博『evergreen』


『evergreen』は“もうひとつの完成形”を集めたベスト

 秦 基博にとって弾き語りは、デビュー以来、ずっと重要なコンテンツだった。デビュー・コンベンションでのギター1本の歌いっぷりや、狂牛病や噴煙で苦しんでいた時期に故郷・宮崎で開催された野外ライブでは、これもまたギター1本で人々に明るい気持ちをもたらすなど、伝説の “弾き語り”は数多くある。僕にとって最も印象的だったのは、去年の夏の大阪サマソニ。内外のロックバンドに囲まれて、どうみてもアウェーの状況なのに、堂々のステージングで多くのオーディエンスをギター1本で惹きつけていた。

 そんな秦は、弾き語りを基本にしたシリーズ・ライブ“GREEN MIND”をずっと続けてきた上で、今年は久々にツアー形式(全国13会場)の“GREEN MIND”を開催。彼の“ライフワーク”というべきスタイルを完全に確立した観があった。だから今回の弾き語りベスト『evergreen』は、“ずっとグリーン”というタイトルも含めて、出るべくして出たアルバムなのだと僕は感じている。

 それにしても、自分のシングルを全部弾き語りで歌えるアーティストが、今、何人いるだろうか。サウンドが進化し、リスナーの耳も贅沢になったところで、特にシングルに関しては“弾き語り”からずっと遠い位置に行ってしまったように思う。しかし『evergreen』の1曲目「ひまわりの約束」や、ラストの「アイ」を聴くと、これらはまさに秦の代表曲であり、ギター1本で何の過不足もなく堪能できるのだ。

 だからこれはバージョン違いを集めたものではない。まぎれもない、完成形だ。このところ秦は自宅スタジオでの作業でアレンジに進境を見せているが、様々な楽器のアンサンブルを知ったからこその“ギター1本”の高みにたどり着いた。ギターの名手であり、傑出したボーカリストであり、自分の音楽を良く知るプロデューサーである秦にしかできない“ベスト”なのだ。

 独特の弾き語りと言うと奥田民生の“ひとり股旅”がすぐに連想されるが、奥田はリズム楽器としてのギターに特化している。それに対して、秦は6本の弦のアンサンブルに重きを置いている。その意味では、奥田はジャック・ジョンソンに、秦はジェームス・テイラーに例えられるべきだろう。

 それにしても秦は“GREEN MIND”を行なうことで、ずいぶんと“しゃべり”がうまくなった。それは彼がオーディエンスとのコミュニケーションを大切に考えるようになった証であり、そのことが彼の弾き語りにいい影響を及ぼしていることを『evergreen』が証明しているのが興味深い。弾き語りのいろんなバリエーションを開発したのは、秦が観客と一緒に楽しみたいという高いモチベーションがあったからこその賜物だと思うのだ。

【文:平山雄一】

tag一覧 アルバム 男性ボーカル 秦 基博

リリース情報

evergreen[2CD]

このアルバムを購入

evergreen[2CD]

発売日: 2014年10月29日

価格: ¥ 3,241(本体)+税

レーベル: アリオラジャパン / Augusta Records

収録曲

[DISC 1]
1.ひまわりの約束
2.青い蝶
3.初恋
4.言ノ葉
5.ダイアローグ・モノローグ
6.メトロ・フィルム
7.Halation
8.キミ、メグル、ボク
9.Dear Mr.Tomorrow
10.鱗(うろこ)
11.朝が来る前に

[DISC 2]
1.Girl
2.グッバイ・アイザック
3.虹が消えた日
4.エンドロール
5.フォーエバーソング
6.シンクロ
7.透明だった世界
8.僕らをつなぐもの
9.水無月
10.アイ

スペシャル RSS

もっと見る

トップに戻る