レビュー

吉井和哉 | 2014.11.19

連載 第46週
吉井和哉
『ヨシー・ファンクJr.~此レガ原点!!~』


吉井和哉の数々の怪作誕生の秘密を暴露アルバム

 タイトルが発表されたときから、「これはやってくれるな」という予感があった。吉井和哉の原点であり、“ヨシー・ファンクJr.”というクレジットがあれば、曲は名ギタリスト竹田和夫を擁する70年代のロックバンド“クリエイション”の大ヒット「SPINNING TOE HOLD」しかない。

 66年生まれの吉井は、当時小学校の高学年。ボーイズたちはプロレスに熱狂していた。“スピニング・トーホールド”とは、膝と足首を極めるプロレスの関節技の名前。友達同士で掛けっこをして泣く子も出たほど、簡単だが凄い技だ。その必殺技を引っ下げて日本のプロレス界に殴り込んできたのは、アメリカの人気タッグ“ザ・ファンクス”のドリー・ファンク・ジュニアとテリー・ファンク兄弟。「SPINNING TOE HOLD」は、彼らの入場曲として大ヒット。ファンク一家の伝家の宝刀スピニング・トーホールドと並んで、少年たちを熱くさせたのだった。

 って、これじゃまるで“懐かしき昭和”コーナーじゃん。しかし、吉井は初のカバーアルバムを作るにあたって、自分の原点となった“昭和の音楽”の背景まで含めて描こうとした。いくら天才アーティストであろうが、生まれてからずっと音楽漬けになっているわけがない。少年時代には昆虫採集や野球や変身ごっこに夢中になったはずである。その中にいて、どんな音楽が心に響いたのかは、とても重要な問題なのだ。そんな吉井の原風景として「SPINNING TOE HOLD」は、このアルバムの最初と最後に置かれ、原点の一つとしてきっちり機能している。

 さらにはこの曲が、インストであることにも注目したい。日本のギター・ヒーローの草分けの竹田和夫が弾くスリリングなギター・メロが、プロレスと同じくらい吉井の胸にグサリと刺さったのは想像に難くない。それは、ライブでもギターをバリバリ弾きまくる吉井の原点になった。

 さすがに僕も、まさか“インストのカバー”が入っているとは思わなかった。演歌「噂の女」のド迫力の歌声に驚くよりも、“ギタリスト吉井のカバー”に正直ビックリさせられた。この衝撃に、カバーに慣れっこの僕の耳にもビシッとヒビが入ったのだった。

 そして、他の曲も含めて『ヨシー・ファンクJr.~此レガ原点!!~』は、このところますます独自の道を突っ走る吉井の、「母いすゞ」などの快作・怪作の出所を垣間見せてくれる、意味深なカバーアルバムだと思う。

【文:平山雄一】

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リリース情報

ヨシー・ファンクJr.~此レガ原点!!~

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ヨシー・ファンクJr.~此レガ原点!!~

発売日: 2014年11月19日

価格: ¥ 3,000(本体)+税

レーベル: 日本コロムビア

収録曲

01. SPINNING TOE HOLD ~OPENING~ (クリエイション1977年)
02. 真赤な太陽 (美空ひばり 1967年)
03. ウォンテッド(指名手配) (ピンク・レディー 1977年)
04. おまえがパラダイス (沢田研二1980年)
05. 噂の女 (内山田洋とクール・ファイブ 1969年)
06. 夢の途中 (来生たかお 1981年)
07. あの日にかえりたい (荒井由実1975年)
08. 人形の家 (弘田三枝子1969年)
09. 百合コレクション (あがた森魚 1984年)
10. さらばシベリア鉄道 (大滝詠一1980年)
11. 襟裳岬 (森進一1973年)
12. SPINNING TOE HOLD ~ENDING~ (クリエイション 1977年)

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