レビュー

いきものがかり | 2014.12.17

連載 第50週
いきものがかり
『FUN! FUN! FANFARE!』


いきものがかりが飽きない秘密

 自分のスタイルを持ったボーカリストは、いそうで、いない。特徴のある声で、自分ならではの歌い方を追求する先に“スタイル”はあるのだが、人に伝えるための最低限の技術を持った上でそこに到達しているボーカリストは、そう多くはいないのが実情だ。

 加えて、プロとして長期間、第一線で歌うには、リスナーに飽きられないことも重要。きわどい特徴を持てば持つほど、目立つことと引き換えに、短命になってしまう。歌の“クセ”は、好かれもするが、同時に「もう、お腹いっぱい」になるのが早い。

 そして、いきものがかりの吉岡聖恵は、まれに見る“飽きないボーカリスト”だ。今回も、その真価が発揮されていて、7作目のアルバムとは思えない新鮮な感動を与えてくれる。バラエティに富む水野の曲と、狙いを定めた山下のメロディを、過不足なく歌って、1曲ごとにリスナーを飽きさせない。

 飽きさせないコツがあるとすれば、大きく2種類に分かれる。まず、いろいろな歌い方を身に付けて、その歌に合ったスタイルを選ぶやり方がある。No.48で取り上げたJUJUは、その典型的な例だろう。曲ごとにスタイルを変え、飽きさせない。

 もう一つは、歌の意図を読み取りながらも、演出過多にならないよう細心の注意を払うスタイルだ。たとえば悲しい曲を必要以上に悲しく歌えば、かえって嫌味になってしまう。どこかに悲しみを漂わせながらも、リスナーの想像力にまかせる“余白”を作り出す方が、作者の思いが伝 わることがある。映画に例えれば、自分が俳優になって演じるのではなく、あくまで“映写機”になってみせるのだ。吉岡のスタイルは、こちらに当たる。『FUN! FUN! FANFARE!』 の「明日ハレルカナ」は、その“普通な歌いっぷり”が、山下の詞曲を見事に活かしている。

 さらに彼女の憎いところは、映写機になれる冷静さを持ちながら、必要とあらば“演出過多”にも歌える度胸があることだ。あくまで“必要とあらば”だ。ラテン風味の水野の曲「陽炎」では、大人の女を感じさせて、ドキッとさせられる。

 また、吉岡自身の作詞・作曲「GOLDEN GIRL」では、言葉を超速でメロディ に乗せていて、新しい挑戦もしている。

 本当に“飽きない奴ら”=いきものがかりの“ポップス王国”は、まだまだ続きそうだ。

【文:平山雄一】

リリース情報

FUN! FUN! FANFARE!(初回生産限定盤)[CD+DVD]

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FUN! FUN! FANFARE!(初回生産限定盤)[CD+DVD]

発売日: 2014年12月24日

価格: ¥ 3,333(本体)+税

レーベル: ERJ

収録曲

1.FUN! FUN! FANFARE! -The Beginning- (instrumental)
2.GOLDEN GIRL
3.ラブソングはとまらないよ
4.熱情のスペクトラム
5.キラリ
6.LIFE
7.春
8.明日ハレルカナ
9.ジャンプ!
10.虹
11.陽炎 
12.SNOW AGAIN
13.ワンゴール
14.涙がきえるなら
15.マイステージ
16.LIGHTS OUT -The Ending- (instrumental)

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