レビュー
平山雄一 ウィークリーレビュー | 2015.01.09
連載第52週
新春企画「ベストなひび」
■ベスト音源 2014
2014年のベスト音源を11枚セレクト!!
2014年は Dragon Ashの完全復活作『THE FACES』で幕を開けた。 オリジナル・メンバーのIKUZONEを失った後、サポートベースとして参加していた永年の盟友KenKenが、レコーディングに全面参加。中でもKjとKenKenが共作し た「The Live」は、ロックバンドとは何かをはっきり言い切っていて、刺激的だった。
すでにベテランの域に達したThe Birthdayの『COME TOGETHER』は、「くそったれ」と言いながら愛とロマンを照れずに歌う。不良であっても悪人でなく、優しさは信じないが誠実であろうとする。一人の人間の中にある矛盾する衝動を、見事に歌い上げている。
2014年 のバンド・ミュージックで、いちばん驚かされたのはsyrup16gの『Hurt』と
THE NOVEMBERSの『Rapsody in beauty』の2作だった。
syrup16gは、非常に高い 緊張感の中で、6年前の解散からの日々を赤裸々に描く。硬派の中の硬派と言えるサウンドは、彼らの活動姿勢と一致していて、若干ヌルめの音楽シーンにあって目の醒める思いがした。
THE NOVEMBERSは永らく“耽美派”と言われてきたが、それが極まってついに独特の美を獲得。こんなに美しいノイズは、80年代から始まったJ-ROCKの歴史上、前代未聞。音楽好きなら一度は体験してみて欲しい。
ニューカマーとして圧倒的な才能を見せつけたのは、ゲスの極み乙女。の『魅力がすごいよ』だった。黒人音楽を感じさせないヒップホップと、クラシックを感じさせないプログレの融合は、世界的に見てもJ-ROCKならではの発明だ。複雑であるにも関わらず、心にスッと入ってくる仕掛けの見事さは圧巻。同時に社会を鋭く告発する視点も持ち合わせている。ロックの役割をよく具現化していて、今後も注目だ。
2013年から14年にかけて疾走し続けたクリープハイプの『一つになれないなら、せめて二つだけでいよう』も、見逃せな い。自分がロック・ファンだった頃の問題意識を今も貫く尾崎世界観は、まだまだ画期的なことをやってくれそうだ。またメンバーの音楽的成長にも期待が膨らむ。
ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文=Gotchの初ソロ・アルバム『Can’t Be Forever Young』は、アジカンとは一線を画して一個人としての考え方が全面的に反映され、優れたプライベート・アルバムになっている。大きな問題を放置する今の日本で生きることの意味を、改めて考えるきっかけになりえる傑作だ。
同じく、社会的 な意味合いを基準にすると、BUMP OF CHICKENの『RAY』は“震災後の日本”に焦点を絞っていて、希望を与えてくれた。バンプは2014年、テレビに進出したが、そうした露出戦略の変更と彼らのメッセージがどうリンクしていくのかは、今年明らかになることだろう。
反対に、社会的なことには直接触れず、ひたすらバンドの楽しさを追求する姿勢がブレなかったのは、ユニコーンだ。『イーガジャケジョロ』は、そのタイトル通り、意味を持たせないことに意味がある、ある意味、頑固なバンド・アルバムをまたまた聴かせてくれた。
2014年の年の瀬にリリースされたドレスコーズの『1』も興味深かった。志磨遼平のソロ・プロジェクトとなってから初めてのオリジナル・アルバムは、志磨のソングライターとしての魅力にあふれている。音楽を聴く限り、“バンドの夢に破れた気配”はまったくない。“バンドとは何か”を考える上で、この作品は今年、大きな意味を持つことになるだろう。
バンドシーンを離れてみると、2014年に最も充実した活動を行なったのは 椎名林檎だ。野田秀樹・作の芝居への劇中歌提供を皮切りに、セルフカバー『逆輸入 ~港湾局~』では、ヒャダインのベスト・アレンジを引き出すなど、相変わらず安易なカバーの横行するシーンに一矢を報いていた。夏にはNHKサッカーのテーマソング「NIPPON」を発表。秋にはオリジナル・アルバム『日出処』で、緻密かつ大胆な音楽姿勢を全開にした。その上で、某テレビ番組で「日本は所詮ロリコン文化。早く現役を退きたい」と語っていたのは、彼女の自信とプライドの表われで、とても痛快だった。
【文:平山雄一】