レビュー
荒川ケンタウロス | 2015.02.04
荒川ケンタウロス『玉子の王様』
荒川ケンタウロスは、3人がかりで人間のヒビを描き出す
東京の西に位置する国分寺で結成された荒川ケンタウロスは、ギター、ベース、ドラムス、キーボードという理想的な編成にボーカル&ギターがいる5人組バンド。何が理想的かと言えば、この編成は歌を伝えるのに絶好のサウンドを奏でられるからだ。そして、そのサウンドを背負って歌う一戸の声は、意外なほど柔らかい。押しつけがましいところは、一切なし。だから荒川ケンタウロスを聴いていると、気付けば一戸の声がリスナーの心に上がり込んでいるというわけだ。
普通、こうした気配を持つバンドは、ボーカルが作詞も作曲するものだ。いわゆる、シンガーソングライターと、バックバンドという構図だ。ところが荒川ケンタウロスには、ソングライターが3人いる。ボーカルの一戸、ギターの楠本、キーボードの場前は、それぞれ個性的な歌を書く。人生を真っ直ぐ考える楠本、躁鬱気味の場前(失礼!)、そして一戸はちょっと ひねくれていたりするから絶妙なバランスだ。だからこそ、必要充分なバックに乗って柔軟に歌う一戸の声が活きる。
♪答えはいつもそばにあるって教えていたのさ♪(「ハンプティダンプティ」by楠本)、♪本能のままに誰かを愛せたら こんなに苦しいことはないでしょう♪ (「鳩のお嬢さん」by場前)、♪嫌いな奴の嫌いなところだけを見ていたかったのに♪(「コイン」by一戸)という心模様のバリエーションが、このバンドの強み。このバリエーションが、荒川ケンタウロスの存在感をバンドシーンの中でひときわ浮かび上がらせている。
メジャーデビュー・ミニアルバム『玉子の王様』は、そんな歌が6曲入っている。人間の魅力が、その人の心に入っているヒビの模様だとするなら、そのヒビを3人で手分けして描くこのバンドの編成はとても素晴らしい。
そういえばこのバンドの名前の元になった漫画『おしゃれ手帖』を描いた長尾謙一郎氏も、ぶっちぎりでヒビだらけの漫画家だ。尖っているのにソフトタッチなこのバンド、要注意です!
【文:平山雄一】