レビュー
阿部真央 | 2015.02.18
連載 第58週
阿部真央『おっぱじめ!』
阿部真央の幸せアルバムに、ラブソングの深層を見た
阿部真央『おっぱじめ!』
阿部真央の幸せアルバムに、ラブソングの深層を見た
『おっぱじめ!』は、これまででいちばん幸せな阿部真央のアルバムだ。
たとえば「Marry me baby I love you」という曲は、♪貴方をきっと誰より幸せにする♪というフレーズが入っていて、びっくりする。なにせ、阿部は “辛いラブソング”を得意とする一面もあるので、この大転換には驚かされる。
もちろんこの “幸せ全開モード”への変化は、結婚という人生の一大事を経たことが大きな理由だ。本人いわく、「この曲は、別に今出さなくても良かったんだけど、たぶん今出さないとタイミングがないなと思って入れました。結婚して一年後に出すのも・・・、ね」。さらには「“君を必ず幸せにするよ”って昔から男の人は映画の中とかで言ってたけど、今は女性もそういう時代よっていうこと。私は、一方的に幸せにしてもらいたいと思ってないから」と、実に阿部らしい理由付けを語る。
その一方で、「深夜高速」の歌詞は完全にフィクションで、しかも これまでの“辛いラブソング”の進化形になっているのが興味深い。フラれたり、フッたりといった単純な図式ではなく、もっと奥の深い恋人たちの孤独を描いていて秀逸だ。結婚したことによって、「もしかして、この歌って、あべまの実体験?」と思われる呪縛から解放された阿部は、さらに恋愛の深層に迫ることができるようになったのだと思う。
だから『おっぱじめ!』は、幸せと孤独という人間の感情の幅を最大限描くことに成功している。
一生に一枚しか作れないアルバムで、次元の違う進化を果たすなんて、やっぱりあべまは心底からラブソング・ライターなのだ。
【文:平山雄一】