レビュー

back number | 2015.05.27

 『大塚製薬 ポカリスエットイオンウォーター』CMソングとして書き下ろされた「SISTER」。青い空と白い雲、雄大に広がる海と眩しい太陽が思い浮かぶ爽やかなサマーチューンとしての側面を帯びていると同時に、複雑に揺れ動く心情を描いたホロ苦い曲でもある。少しでも未来を切り拓こうと奮闘し、様々な行動を起こしたとしても、非情な現実によっていとも容易く阻まれてしまうのが多くの人間が体験する毎日ではないだろうか。周囲の人に対して平気そうな顔を向けて挫折を受け入れてみたとしても、実は嵐のように荒れ狂っていて、今にも砕け散ってしまいそうになっている内面。そんな本心を誰よりも知っている“僕”から“君”へのありったけのエールが、曲の全体に漲っている。

 この“僕”と“君”とは何者であり、両者の関係性とはどのようなものなのか? ヒントは、終盤の歌詞の一節にさり気なく現れる。地下鉄の窓に映り込む疲れきった“君”……それがどのような像を示しているのかをイメージした時、“僕”と“君”の正体がよく分かるはずだ。その瞬間に心に深く沁みこんでくるメッセージが堪らなく優しい。メロディの圧倒的な良さ、絶妙なポイントで繰り出されるファルセットなどグッと来るポイントは数多いが、ダイレクトに全てを語り過ぎない粋な描写に着目すると、この曲がますます愛しくなると思う。

 そして、カップリングもタイトル曲とはまた一味違う魅力を示している。軽快に疾走するロックナンバー「泡と羊」は、サウンドの力強さとは裏腹に自己評価が途轍もなく低い人物の冴えない胸中をじっくりと映し出す。アコースティックギターによる弾き語り「君はいらないだろうな」は、失恋した人物が抱えている悶々とした想いの歌。テイストは異なるが、どちらの曲も曇天模様の心情をキャッチーなメロディで彩っていたり、自嘲気味の描写の中に仄かにウィットも漂わせているという点で、共通したトーンが感じられる。悲しみや切なさに翳を纏わせたまま終わらせるのではなく、そこに精一杯キャッチーで美しいメロディの花を咲かせ、不思議と心温まる風景も広げてみせる。そんなバクナン節とも言うべき風味を再確認させられる2曲だ。

【文:田中 大】

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リリース情報

SISTER(初回限定盤)[CD+DVD]

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SISTER(初回限定盤)[CD+DVD]

発売日: 2015年05月27日

価格: ¥ 1,500(本体)+税

レーベル: ユニバーサル シグマ

収録曲

[CD]
1.SISTER
2.泡と羊
3.君はいらないだろうな
4.SISTER (instrumental)
5.泡と羊 (instrumental)
6.君はいらないだろうな (instrumental)

[DVD]
「SISTER」MV+ジャケット撮影&アーティスト写真撮影&MV撮影時のメイキング映像+レコーディングメイキング映像収録

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