レビュー
椎名林檎 | 2015.08.05
ちょっと変わった5才の女の子“よつば”が経験するあれこれを描く人気コミックス『よつばと』の中に、繁華街に初めて行ったよつばが、あまりの人の多さに「これは祭か?」とつぶやく印象的なシーンがある。
そう、林檎のニューシングル「長く短い祭」は、まさに祭。 よつばが驚いたのは、ごった煮のように行き交う人々と、彼らが放つ“欲のオーラ”だった。食欲はもちろん、オシャレ欲、おしゃべり欲、性欲、金銭欲などが渦巻く、5才女子をあわあわさせたカオスが、「長く短い祭」にはある。いや、そのカオスこそが、この曲の命なのだ。
デュエットのお相手は“平成の伊達男・浮雲”で、2人のボーカルにはオートチューンが掛けてあり、リズムはめくるめくうねるブラジリアン、さらにそこにトロンボーンの名手・村田陽一のアレンジによるブラスが絡む。最大のカオスは、それらの要素がお互いにかぶるように折り重なっていることだ。まさに「これは祭か?」だ。
またカップリングの「神様、仏様」は、林檎と同郷の天才・ 向井秀徳とのコラボで、向井はお祭りの“お囃子連”のようなラップを披露。重要なのは、「長く短い祭」が終わった途端、間髪入れずに「神様、仏様」が始まること。もともとお祭りは神や仏に捧げるものとして行なわれ、だからこそお祭り期間中は、普段の生活を縛るモラルを無視 しての無礼講となる。♪慾深いのう地獄の淵へ突き落しておくれ♪と林檎が歌っているように、この歌が引き起こす欲望の解放の底は知れない。
つまり「長く短い祭」と「神様、仏様」は、2曲でひとつになっていると言っていい。林檎は浮雲、向井と、相手をとっかえひっかえ絡みまくって、色っぽいこと、はなはだしい。この欲望の深淵は、よつばにはわかんねえだろうな。だから、この歌は“R18指定”を受けるべきなのだった。
【文:平山雄一】