レビュー
ハナレグミ | 2015.08.21
ハナレグミ
『What are you looking for』
『What are you looking for』は、ハナレグミの“震災後のファーストアルバム”だ
今年の夏フェスで、ハナレグミはダントツの人気。フジロックでもライジングサンでも、多くのオーディエンスを集めていた。それもそのはず、フェス会場を歩いていてハナレグミ永積 崇の声が聴こえてくると、ついフラフラと引き寄せられてしまうのだ。それほど永積の声は吸引力があり、柔らかい音楽の向こうに在るメッセージがリスナーを 引きつけて止まない。そんなハナレグミの4年ぶりのオリジナル・アルバムが『What are you looking for』だ。
一昨年、リリースしたカバーアルバム『だれそかれそ』は、空前のカバーブームの中で他を圧倒する傑作だった。人の顔がよく見えなくなった夕方に、「誰だ彼は?」という意味で“黄昏(たそがれ)”の語源になった『だれそかれそ』をタイトルにしたこのアルバムは、東日本大震災の後、自分の歌う意味を問い直す作品だったという。
そうして“自分の歌”を確かめたハナレグミが完成させた『What are you looking for』には、多くのコラボ作品が収録されている。
YO-KINGが作詞作曲した 「祝福」は♪急ぐな さがすな 勝手に見つかるまで♪と歌い出す。このレベルのアーティストのコラボになると、アーティスト同士の人生観のぶつかり合いになる。YO-KINGの書いた言葉に、永積得意のギター・アルペジオが付けられ、さらに永積の声で歌われることで、歌の含むメッセージが生まれる。自分の心をじっとのぞき込む作業を、永積とYO-KINGの二人が共有することで誕生した名曲だ。
その他、RADWIMPSの野田洋次郎が作詞・作曲・サウンドプロデュースまで担当した「おあいこ」は、♪抱きしめるふりして 抱きしめてもらってた♪と歌い出す。つまり“おあいこ”ということなのだが、エンディングで野田と原田郁子(クラムボン)がコーラ スに加わって僕も君もズルいと歌うシーンが胸を熱くさせる。一方で、堀込泰行(ex.キリンジ)が作曲した「無印良人」では♪湯船によくつかろう びばのんのん♪と、明るく大暴れ。
『What are you looking for』=「君は何を探しているの?」というタイトルが何層にも重なって、非常に内省的な歌詞と、爆発的な祝祭感が同居するのがこのアルバムの特徴だ。そしてそのどちらの底にも、以前より深みを増した感情の文様が読み取れる。これはハナレグミの“震災後のファーストアルバム”だ。
【文:平山雄一】