レビュー
sebuhiroko | 2015.09.09
sébuhiroko『WONDERLAND』
『WONDERLAND』は、音色やリズムを自由に組み合わせて、“イメージの世界旅行”に連れていってくれる。
チャットモンチー“乙女団”のメンバーとしてツアーに帯同したり、ユニクロのCM音楽を提供したり(世武裕子・名義)、フジテレビ系ドラマ「恋仲」の劇伴を担当したり。キーボード・プ レイヤーとして、作曲家として大活躍のsébuhirokoが、シンガーソングライターとしてリリースするミニアルバムが『WONDERLAND』だ。
パリの音楽学校で劇伴を学んだsébuhirokoは、ストーリーや映像を活かす音楽に大きな関心がある。それは無調音楽の形を取ったり、アンビエント・ミュージックに近かったり、エレクトロの要素も含んだりする。一方で、ピアニストとしては、まるで機械のように正確なループを手で弾いたりできるアルチザン(職人)でもある。
だから“彼女のアルバム”である『WONDERLAND』では、普通のJ-POPのフォーマットには収まらないアプローチで音楽に挑む。意外なファクターを組み 合わせて、独特のムードを作り出しているのはさすがだ。
僕のお気に入りは2曲目の「YOU」。ピアノとマリンバでリフレインを作り、ポストロック的なメロディの歌が始まる。その後で入ってくるリズムセクションが、えも言われぬ快感を呼ぶ。インドのパーカッション“タブラ”の音色で奏でられる、ベースとドラムを兼ねるリズムトラックはとてもユニークだ。ユニークだからと言って難解ではない。タブラという楽器を知らなくても、誰もが気持ちイイと感じる領域まで昇華されているところがsébuhirokoのストロング・ ポイントだ。
その才能は、もしかすると“劇伴”で培われたものかもしれない。物語や映像とコラボするとき、音楽は同等のイメージを呼び起こす役割を要求される。音色やリズムが特殊な地域性を暗示したりする。その点でsébuhirokoは、いろいろな引き出しを持ち、それを自由に組み合わせることができる。その方法論を活かしたのが「YOU」だと言うことができるだろう。意外でありながら、懐かしく感じる音を聴く時、人は自分がどこから来て、どこに行こうとしているのかという思いに駆られる。それは音楽の持つ偉大な力であり、sébuhirokoの音楽の最大の魅力なのだ。
今年7月にリキッドルームでサカナクションが開催した複合アートイベント“NIGHT FISHING”に出演した際、sébuhirokoは自由に展開する音楽を披露して拍手を浴びていた。そのときの感触に非常に近いニュアンスで『WONDERLAND』が満たされていることが、このアルバムを勧めたいいちばんの理由だ。
【文:平山雄一】
リリース情報
WONDERLAND
発売日: 2015年09月16日
価格: ¥ 2,130(本体)+税
レーベル: ポニーキャニオン
収録曲
1.Stainless Steel Madness
2.YOU
3.君のほんの少しの愛で
4.美しいあなた
5.Lost Highway
6.Forgive
7.Wonderland