死とその先にある世界を見つめたACIDMANのニューアルバム『有と無』

ACIDMAN | 2014.11.19

 最新アルバム『有と無』が描いているのは、生と死について。シリアスではあるが、誰にとってもリアルであるはずのこのテーマをじっくりと見据えている。「命とは何なのか?」「死の先には一体何があるのか?」、明確な答えがないこの問いかけに対して示されるいくつかの概念は、新鮮な視点の連続だ。そして、様々な楽曲に耳を傾けていると、「生命」というものが持っている劇的な煌めきがリスナーの胸の内に広がる。切れ味抜群のロックサウンドと共にこのような世界観に触れるのは、何とも言えず刺激的な体験だ。今作について大木伸夫(Vo & G)、佐藤雅俊(B)、浦山一悟(Dr)に語ってもらった。

EMTG:「死」とその先にある世界を見つめたアルバムだと感じたのですが、このテーマに至った背景からまず教えてください。
大木:元々ACIDMANは生命の歌を歌っていて、現在の宇宙の姿とか、過去の世界の始まりを探ることも好きなんです。それは自分が子供の頃から追い求めているテーマなんですけど。それと同時に、自分自身や身近な人の死を避けたいっていう気持ちも、年齢を重ねる毎にどんどん強くなっているんですよね。でも、死に対する恐怖ってどうしても共存することができない。そういう中で「何か新しい概念がないかなと?」と。
EMTG:そこで、今作に繋がる概念と出会った?
大木:はい。こういうことを言うとオカルトっぽいチープな話のように思われてしまうのかもしれないですけど、「死後の世界があるのかもしれない」という内容のドキュメンタリーを観たり、本を読んでみたんです。すると、気持ちがすごく楽になったんです。別に何かの宗教に入ったわけじゃないんですよ(笑)。
EMTG:はい(笑)。
大木:「死後の世界があるのか?」っていうのは誰も分からないことですけど、それを信じて生きてみると、死に対する恐怖が和らぐんですよね。そして、そんな風に思うようになった時に大好きなばあちゃんが亡くなって。でも、「行ってらっしゃい」って黄泉の国に送り出す気持になったことは、悲しみを和らげてくれました。そういう風に考えるようになったのが、今回のアルバムのきっかけですね。
EMTG:死ってシリアスな問題ですけど、誰もが考えざるを得ないことですよね。
大木:ほんとそうです。死後の世界があるのか分からないですけど、あると信じることで、ワクワクしながら死ねるのはいいことだと思うんですよ。おこがましいようなんですけど、自分も表現者である以上、誰かの苦しみを少しでも救えるならば、それはやるべきだなと思っていて。このアルバムで描いたことはちょっとブッ飛んだ価値観かもしれないけど、少しでも聴いてくれる人の癒しになったらいいなと思っています。
佐藤:僕もこのアルバムで描かれていることにすごく刺激されました。死の先に光を感じられるのって、素晴らしい考え方だと思います。日々一緒にいる仲間たちも実は前世で出会っているのかもしれないと考えると、より毎日が貴いものにも感じられますし。
浦山:大木が言う通り、死後の世界があるかどうかは誰にも分からない。でも、存在すると考えることはファンタジックでもあるし、力が湧いてきます。大木がそういう探究をするのであれば、僕は助手として精一杯にやらせてもらいます(笑)。
EMTG:(笑)未知のものへの探求心をエネルギーにして活動しているACIDMANって、やっぱり稀有なバンドですよ。
大木:稀有というか、ACIDMANくらいしかないんじゃないですかね。俺も誰かに勧めるのならば「もっとポップなことしな」って言います(笑)。ただ、何で俺らがこういうことをやるのかと言えば、好きでしょうがないから。美味しい食べ物や洋服とかも好きですけど、それは「ポップ」っていうような意味での好き。でも、本当に知りたいことって、そこではないんです。ということは、それが俺の武器。1本しかないけど、めっちゃ切れる武器なんですよね。
EMTG:考えてみればACIDMANって、ものすごいことをやり続けているんだなと、今回のアルバムを聴いて改めて思いました。
大木:難しいテーマだけど真理。そういうものを扱っているのにファンの方が受け入れてくれている。そういうのが自分にとっての強みになるんです。それを続けてこられたっていうのは、みんながバックアップしてくれているのを感じます。だからどんどん自信を持って言えるようになっていますよ。
EMTG:難しいテーマだし、抽象的なことを扱っているのかもしれないけど、実は誰にとってもリアルなところを描いているから、惹かれる人がちゃんといるんだと思います。
大木:俺もそう思います。実は一番普通のこと、言わなきゃいけないことを描いていると思っているので。例えば恋愛とかって、その先にあることじゃないですか。それよりもまず「生きてる」ってことが大事だなと思いますね。だから、若い人含めて老若男女に触れて欲しい音楽だと、作っている俺はいつも考えています。
EMTG:しかもACIDMANがすごいのは、そういうテーマを軸に据えつつ、ロックバンドとしてサウンドが猛烈にカッコいいんですよね。
浦山:でしょ?
EMTG:はい(笑)。例えば「Stay in my hand」とか聴くと、無条件に昂揚しますから。
大木:そういうものであるっていうことは、曲作りをする上で大事にしています。やっぱり、曲を先に作るので。曲がカッコ良くなかったら、いくら言葉だ哲学だって言っても、乗っかってこない。胸がグッとなる曲でなければ、胸がグッとなる言葉は書けないですよ。
EMTG:多くの優れたアートって音楽に限らず、深い真理を抉りつつポピュラリティを帯びているじゃないですか。そういうことをやっているバンドだなと。
大木:ポピュラリティは持っていたいです。手塚治虫さんで言うと、『火の鳥』はできている気がするのですが、『鉄腕アトム』はまだできないです。子供たちにも届き得るものっていうのは、まだなかなかやれないので。それはハードルが高過ぎて難しいですよ。でも、それくらいのものを作れるようになりたいです。
EMTG:プレイヤーとしても、サウンドでいろいろなことを表現する喜びがすごくあるんじゃないですか?
佐藤:それは毎回すごく感じています。大木が作ってきたデモを聴いて感じた気持ちを、どうにかしてベースで表現したいと思うんです。それはすごくワクワクすることですよ。
浦山:こういうバンドって他にいないと僕も思います。音自体からもめっちゃ波動が出ていますし、それを深く知ろうとして歌詞を見たら、また別のところにさらに行けますから。音楽としての旨味成分がバリバリやばいと思います。
大木:こういう世界観を信じてやってきて良かったと思っています。いろんなバンドってフォロワーが生まれてくるものですけど、ウチら、フォロワーがいないんですよ。フォロワーの方が支持されるようになると切ないですけど、ACIDMANの場合はラッキーなことにそういうことがない(笑)。
佐藤:大木の思想やエネルギーは真似しようがないですよ。
EMTG:バンドサウンドのアンサンブルっていう観点でACIDMANを目指すことはできるのかもしれないですけど、籠められている思想も含めて生まれるこの磁場みたいなことって、なかなか辿り着けないでしょうね。
大木:若いバンドに「目指しようがないです」って言われたことがあって。すごく嬉しい褒め言葉でした。
EMTG:刺激的な視点をいろいろ提示してくれるバンドなんですよね。例えば『有と無』っていう今回のタイトルも、ものすごい深みを感じます。「無」って「死」に置き換えられることでもあると思うんですけど、ここで意味するところの「無」って「なにも無い」ってことじゃないなと。
大木:「有」と「無」って別個に存在するのではなく、本当は「1つ」なんですよ。「有と無」っていうことで1つの存在として成り立っているんですよね。
EMTG:「無」って「有」に輪郭を与えるという点で「存在する」ってことだし、「生」の対極にある「死」っていうのもそういうことなのかなと。
大木:はい。ちょっと科学的なことを言うと、素粒子っていう我々の根本って「0と1」を繰り返して存在しているらしいんです。「消えて生まれて」っていう明滅が繰り返されているそうです。それが「存在」っていう状態を作っている。だから「0」って何も無くなるっていうことじゃなくて、「そこにある」なんですよ。つまり「表と裏」みたいなもの。それは「違う世界が他にあるんだ」っていうイメージにも広がるんですよね。根本的なことを追求していると、宇宙にもイメージが一気に広がるのが面白いです。
EMTG:今作に収録されている曲、リスナーは聴きながらいろんなことを想像するはずですよ。例えば「最期の景色」とか、向き合わずにはいられないでしょうし。誰もが「自分が死ぬ時ってどんなだろう?」って、ふと考えるじゃないですか。
浦山:俺、どんな死に方をするんでしょうね?(笑)。
佐藤:暗い話になっちゃうけど(笑)。
浦山:家族や大事な人に看取られながら次の世界に行く感じだったらいいですけどね。
大木:でも、ただ単に「死が美しい」ってことだけが一人歩きしないようにしたいっていうのは、こういうことを表現する側としては気をつけたいと思っています。それは言う側としての責任。俺らは限りある生を生きているからこそ、その先を見ているわけで。そこから逃げてしまったら、その先はないと思うんですよね。
EMTG:死を見つめるって生の輝きを実感する行為でもあるし、すごくポジティブなことでもあるんじゃないですかね。
大木:そう思います。死を考えると、生ってものの価値がどんどん高まるんですよ。
EMTG:こういうバンドがすごく支持されて、来年また武道館に立つかと思うと、この世はなかなか悪くないなと思えます。武道館何度目ですか?
大木:次で5回目です。
EMTG:最早ホームですね。
大木:いや。全然ですよ。神々しい場所なので。あそこはやっぱり独特。まだ、簾の奥にいて全貌を見せてくれないような感じがあります(笑)。
佐藤:その感じ分かる(笑)。
浦山:「やんごとなきお方」っていう感じがする場所なんですよ(笑)。
大木:やはり、神聖な空気を感じます。
EMTG:ツアーもみんな楽しみにしていますよ。
浦山:ありがたいことです。これだけ反応してくれる人がいるって、本当に嬉しいです。
大木:「何となく好き」っていう人もいるんですけど、どの方も感覚的には理解してくれているんだと思います。俺が考えていることを全部理解してくださいとは言わない。もちろん理解してくれたら嬉しいですけど。でも、理解しなくても、感覚では反応して欲しい。そういう目に見えない繋がりは、いつも大事にしています。
EMTG:感覚的に楽しめるって、音楽の素晴らしさですからね。
大木:そうですね。だから初めて聴く方には、敷居が高いと思わないで頂けたら嬉しいです。気軽に聴いて欲しいです。「あなたの命のことですよ」と。

【取材・文:田中 大】

tag一覧 アルバム 男性ボーカル ACIDMAN

リリース情報

14_DS_0782_280

14_DS_0782_280

発売日: 2016年04月12日

価格: ¥ 1(本体)+税

レーベル: 1

収録曲

1

関連記事

ビデオコメント

リリース情報

有と無(初回生産限定盤)[CD+DVD]

有と無(初回生産限定盤)[CD+DVD]

2014年11月19日

ユニバーサル ミュージック

[CD]
1.有と無(introduction) 
2.永遠の底
3.EVERLIGHT  
4.Stay in my hand  
5.star rain 
6.EDEN 
7.世界が終わる夜 
8.ハレルヤ 
9.en (instrumental)  
10.your soul  
11.黄昏の街 
12.最期の景色

[DVD]
『scene of 有と無』
・EVERLIGHT(Music Video)
・EVERLIGHT ~Animation Ver.~ (Music Video)
・Stay in my hand(Music Video)
・世界が終わる夜(Music Video)
・Document2014

このアルバムを購入

お知らせ

■ライブ情報

ACIDMAN LIVE TOUR "有と無"
2015/02/06(金) 東京 / Zepp Tokyo
2015/02/08(日) 香川 / Olive Hall
2015/02/11(水) 鹿児島 / 鹿児島CAPARVOホール
2015/02/15(日) 沖縄 / 桜坂セントラル
2015/02/20(金) 熊本 / 熊本B.9 V1
2015/02/21(土) 福岡 Zepp Fukuoka
2015/02/28(土) 広島 / 広島クラブクアトロ
2015/03/01(日) 岡山 / CRAZYMAMA KINGDOM
2015/03/06(金) 宮城 / 仙台Rensa
2015/03/08(日) 宮城 / 石巻BLUE RESISTANCE
2015/03/11(水) 福島 / いわき芸術文化交流アリオス・中劇場
2015/03/14(土) 北海道 / Zepp Sapporo
2015/03/20(金) 新潟 / 新潟LOTS
2015/03/22(日) 石川 / 金沢EIGHT HALL
2015/03/28(土) 愛知 / Zepp Nagoya
2015/04/02(木) 台湾 / THE WALL TAIPEI
2015/04/04(土) 香港 / Music Zone @E-Max
2015/04/11(土) 大阪 / なんばHatch
2015/04/12(日) 大阪 / なんばHatch
2015/04/18(土) 東京 / 日本武道館

※詳細、そのほかのライブ情報は、オフィシャルサイトをご覧ください。

トップに戻る