平原綾香のニューアルバム、テーマは“祈り”と“愛”

平原綾香 | 2015.05.21

 平原綾香が5月13日にニューアルバム『Prayer』をリリースした。“祈り”という意味のタイトルを冠した今作のアルバムは、まさに祈るように歌を紡いだ「Jupiter」でデビューした平原綾香にとって「一番落ち着く音楽のかたち」になったという。国内外の作家陣を迎え、全曲セルフプロデュースで挑んだ過酷な制作、改めて感じる歌う意味と、人を愛するということ。平原綾香にたっぷりと語ってもらった。

EMTG:祈りというタイトルから、すごく大きな存在として歌を届けるような作品かと思いきや、実はすごく平原綾香を身近に感じる作品だと思いました。
平原綾香:ああ、それは嬉しいです。今回、歌詞もほとんど自分で書いてるので。しかも半分が外国の作家さんなんですね。外国のメロディは、もともと英語で作ってるものが多いので、それに日本語詞をつけるのが難しくて。できるだけシンプルにまとめて、俳句を作るような感覚で書きました。そのぶんストレートに想いを届けられたんだと思います。
EMTG:外国の作家さんからいただく音源には、すでに歌詞もついているんですか。
平原:そうなんです。日本のデモテープっていうと、簡易のピアノで、シンセのストリングスで、本番用じゃない音源で作られていることが多いんですけど。外国の作家さんはCDにできるクオリティの音でデモが作られていることが多いんです。生ギターだとか、生ストリングスが入ってたり。日本の作り方と違うんですよね。そこはすごく面白くて。想像もしやすかったです。
EMTG:歌詞のイメージはそのまま生かすものなんですか。
平原:英語をそのまま使う場合もあるし、全て書き変えるのもあるし、それぞれです。彼らは曲全体をプレゼンしてくれるので、実は「キーを変えたい」っていうのも言い出しにくい(笑)。離れているし、顔も見たことがない人たちとのやりとりは大変でしたね。外国の作家さん達が元気な時間帯は日本は朝の4時、5時なので。後半はずっと5時ぐらいに寝てました。
EMTG:うわー、それは大変!
平原:しかも歌わないといけないですしね。曲も歌詞も作るから。セルフプロデュースっていうのは大変でした。でもやりたいことができる環境には本当に感謝してます。彼らにもひとりずつお手紙を書いて、「ありがとう」っていう気持ちを伝えたら、「アーティストに手紙をもらったのは初めてで嬉しい」って言われました。音楽で仲良くなれる感覚を久々に味わいましたね。最初は向こうにレコーディングに行かなくても曲ができてしまう分、人間との関わり合いがなくなってしまうんじゃないかって不安はあったんです。だけど、便利になった分、より近づこうという人間の本能があるんだってわかった気がします。
EMTG:貴重な経験でしたね。今回はアルバムのなかにコンセプチュアルなというか、独特の穏やかなトーンを感じましたが、そのあたりはどうでしょう?
平原:曲ごとにテーマとか、それぞれの曲の主人公の性格とか生きていた時代はまったく違うかもしれないけど、いつも祈りというテーマを胸に歌ってる感じなのかな。
EMTG:祈りというテーマは最初からイメージがあったんですか?
平原:制作段階の前半ぐらいに決まりました。最初はアルバム収録されている「Prayer」という曲が、「Before I die」という、歌詞にも出てくる別のタイトルだったんですね。でも、黒木瞳さんのドラマの『スケープゴート』の主題歌が決定したときに、もう少し変えようと思って。そこからですね、「Prayer」というアルバムにしようと決めたのは。
EMTG:なぜ、その言葉が出てきたんでしょう?
平原:私にとっては歌うのは神社とか御仏壇の前で手を合わせて祈ったり、お願いをしたりするときの気持ちに似てるんです。だから、祈りはすごく身近にあって。好きな人に今日は会えますようにとか、今日はハンバーグを食べたいなっていうのも祈りかもしれない。世界平和を祈るのもそうだし。人は毎日心に祈りを持ちながら生きてると思うから、それぞれの祈りを歌にしたものが集まっていったんです。
EMTG:だからこそ祈りというテーマでありながら日常的な雰囲気があるんですね。
平原:そうですね。実は私が書いた歌詞じゃないのに、祈りっていう言葉がもともと歌詞についていた曲もあるんですね。
EMTG:「Great Harmony」。
平原:そう。これはもうまさに、『Prayer』っていうタイトルが決まる前にあったんです。
EMTG:この曲の作詞の吉元由美さんは「Jupiter」の歌詞も書かれた方で。吉元さんは平原さんの中に何か祈るというイメージを感じるんじゃないですかね。
平原:ああ、初めて出会ったのがロイヤルホストだったんですけど(笑)。当時、「Jupiter」の歌詞は自分ひとりで書いてたんです。でも、どうしても上手くまとまらなくて。その想いを由美さんに手渡して書いてもらうことになったんですね。それを見て、吉元さんが「なんだか御釈迦様のような、マリア様のような歌詞だね」って言ってくれたのを覚えてます。「Jupiter」は由美さんのおかげで素晴らしい歌詞ができたので、またいつかお願いしたいと考えてはいたんです。この曲は、由美さんが3.11の復興支援で石巻から帰ってきたときに、最初の《私は祈る あなたの涙に》っていうフレーズが浮かんで書き始めたそうです。そういう復興の想いも込められているんです。
EMTG:どこか原点回帰のような想いはあったんですか?
平原:あったのかも。実は今回のアルバムはアップテンポの曲がそこまでないんですよね。
EMTG:それはとても気になったところでした。
平原:本当は作ろうと思っていたんですけど作れなかったんです。これもいま思えば運命だったのかな。ライブで盛り上げたくて、よくアップテンポを作ってたんですけど。最近はそうじゃないアルバムがあってもいいんだって思うようになりました。自分に対するバラードのイメージを打ち破りたいっていう想いもあって。でも、もっとラクに。いま音楽を聴いてくれてる人がいちばん聴きたい平原綾香の歌をうたおうって思ってます。
EMTG:祈りとは何かを考えると、自然にそこに行きついたんですね。
平原:やっぱり目を閉じて人を思ったりとか、そういうのが祈りの原点だと思うので。それが、私のなかで心地よいテーマだったのかもしれないです。
EMTG:さらに言うと、祈りというテーマに寄り添うと同時に、愛するということにも深く追求する作品になったと思うんです。
平原:そう言われてみたらそうですね。
EMTG:たとえば、「Sweet Sacrifice」では、《大切な人 守りたくて 自分の夢 あきらめること》。それを愛だと歌ってますね。
平原:最近、本当にすごく思うんです。私はずっと自分の夢をかなえるために恋をしないようにしてたから。ちょっと男っぽい考え方かもしれないんですけどね(笑)。でも仕事をがんばりたいから結婚しない。女性も仕事のために犠牲にすることは多いと思うんですね。結婚して子供を産んだら、子供のために生きなきゃいけないから。私の場合も歌手活動を続けることもよっぽどがんばらないと大変だと思うんです。
EMTG:そういう人は多いと思います。
平原:それで、ハンドボールの宮﨑大輔さんのお姉さんの話を聞いて。お姉さんもハンドボールがすごく上手だったんだけれども、ご家庭の事情で、家計を支えるために自衛隊に入って、弟の大輔さんがオリンピック選手になるために働いていたんです。夢をあきらめて。それを知ったときに、すごい愛であり、素敵な犠牲だと思ったんです。二度と消えない愛のかたちだなって。そういう想いを素直に書いた一節です。
EMTG:他にも、「Let it flow ~愛のかたち」では《あきらめないことが わたしの 愛のかたち》って歌ったり、「ALL OR NOTHING」では《愛 もっと歌いたい》とか。
平原:いま、私の中で愛が旬なんですかね?
EMTG:どう思います?
平原:愛を捧げ、人は愛を掴むの。そうよね!?きっとそうだわ、みたいな気持ちです(笑)。きっと愛を知ってる人は、愛を歌ってないと思うんですよね。もっと違うことを歌うと思うから。まだまだ子供の部分があるんだと思います。
EMTG:わからないから歌う?
平原:そうですね。自信がないから元気になるような曲を歌うんだと思うし。
EMTG:実は今回のアルバムを聴いて、「この祈りは誰のためなんだろう?」と思ったんです。平原さんにとって歌が祈りであるなら、誰のために歌ってるんだと思いますか。
平原:ああ……どっちなんだろう? 今まではたぶん人のために歌ってたんですね。だけど、最近はすごく苦しいことがあると、これが自分のために歌うことなのかって思うことはあるんです。歌が浄化してくれるというか。ステージに立つことでお客さんが見てくれて、音楽に囲まれて、良い言葉を使って、光をいっぱい浴びさせてもらって。いままでブレブレだった自分がステージに立つことで、良い自分に修正してくれるというか。
EMTG:歌の力ですね。
平原:そうなんです。この前、10年ぶりぐらいに友だちとカラオケに行ったんですよ(笑)。その時は歌わずにワイワイ盛り上がるつもりだったんですけど。結局はいっぱい歌ってしまったんですね。ストレス発散じゃないけど、それがすごく楽しくて。そういうのが、まさに本当に歌の力だと思いますよね。

【取材・文:秦 理絵】

tag一覧 アルバム 女性ボーカル 平原綾香

リリース情報

[LIVE Blu-ray&DVD]We Come In Peace Tour & Documentary

[LIVE Blu-ray&DVD]We Come In Peace Tour & Documentary

発売日: 2017年07月26日

価格: ¥ 4,800(本体)+税

レーベル: ユニバーサルミュージック

収録曲

■Blu-ray
○初回限定盤 品番: UPXH-9021/2 価格:¥7,300+税
DISC1:ツアーファイナル幕張メッセ公演
DISC2:ツアードキュメンタリー+初回特典映像:横浜アリーナ&岡山CRAZYMAMA KINGDOM公演から抜粋

○通常盤 品番:UPXH-1052 価格:¥5,800+税
ツアーファイナル幕張メッセ公演、ツアードキュメンタリー


■DVD
○初回限定盤 品番:UPBH-9541/2 価格:¥5,800+税
DISC1:ツアーファイナル幕張メッセ公演
DISC2:ツアードキュメンタリー+初回特典映像:横浜アリーナ&岡山CRAZYMAMA KINGDOM公演から抜粋

○通常盤 品番:UPBH-1434/5 価格:¥4,800+税
DISC1:ツアーファイナル幕張メッセ公演
DISC2:ツアードキュメンタリー

ビデオコメント

リリース情報

Prayer

Prayer

2015年05月13日

ユニバーサル ミュージック

1.I’m Coming Home
2.Don’t give it up
3.Let it flow ~愛のかたち
4.ALL OR NOTHING
5.ソメイヨシノ
6.風歌
7.Prayer
8.Sweet Sacrifice
9.Melody
10.恋をすれば
11.HEROES
12.Great Harmony

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お知らせ

■ライブ情報

平原綾香 CONCERT TOUR 2015~Prayer~
2015/06/13(土) 埼玉県 和光市民文化センター サンアゼリア 大ホール
2015/06/14(日) 東京都 たましんRISURUホール (立川市市民会館)
2015/06/20(土) 福島県 郡山市民文化センター
2015/06/21(日) 群馬県 前橋市民文化会館
2015/06/27(土) 埼玉県 サンシティ越谷市民ホール
2015/06/28(日) 神奈川県 相模女子大学グリーンホール
2015/07/04(土) 長崎県 アルカス SASEBO 大ホール
2015/07/05(日) 大分県 日田市民文化会館(パトリア日田) 大ホール
2015/07/11(土) 熊本県 市民会館崇城大学ホール(熊本市民会館)
2015/07/12(日) 福岡県 福岡市民会館
2015/07/17(金) 京都府 文化パルク城陽 プラムホール
2015/07/19(日) 奈良県 奈良県文化会館国際ホール
2015/07/20(月・祝) 兵庫県 神戸国際会館こくさいホール
2015/07/25(土) 宮城県 東京エレクトロンホール宮城(宮城県民会館)
2015/07/26(日) 岩手県 北上市文化交流センター さくらホール
2015/08/01(土) 広島県 広島上野学園ホール
2015/08/02(日) 山口県 防府市公会堂
2015/08/30(日) 東京都 江戸川区総合文化センター 大ホール
2015/09/02(水) 茨城県 土浦市民会館
2015/09/05(土) 愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール
2015/09/06(日) 神奈川県 鎌倉芸術館 大ホール
2015/09/12(土) 滋賀県 ひこね市文化プラザ グランドホール
2015/09/13(日) 大阪府 フェスティバルホール
2015/09/19(土) 千葉県 習志野文化ホール
2015/09/21(月・祝) 長野県 上田市交流文化芸術センター
2015/09/22(火・祝) 山形県 酒田市民会館希望ホール
2015/09/26(土) 愛知県 アイプラザ豊橋 講堂
2015/09/27(日) 三重県 伊賀市文化会館
2015/10/03(土) 東京都 Bunkamura オーチャードホール
2015/10/04(日) 東京都 Bunkamura オーチャードホール

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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