高橋優、ベスト盤「高橋優BEST 2009-2015『笑う約束』」をリリース(後編)

高橋優 | 2015.07.15

 初のベストアルバム『高橋優BEST 2009-2015『笑う約束』』に迫るインタビュー後編。収録されている新曲と、見据えている今後のビジョンについて語ってくれた。また、ターニングポイントとなった曲の制作エピソード、当時の心境についてもお届けする。

EMTG:「今を駆け抜けて」と「未だ見ぬ星座」と「おかえり」は新曲ですね。
高橋:ベストアルバムでありつつ、僕の最新アルバムでもあるものにしたかったんです。そのためにも新曲を入れたいと思っていました。
EMTG:「未だ見ぬ星座」、僕はたしかライブで最初に聴いたんですけど、すごく印象に残っています。夢を追うことに伴う厳しさと、そこにあるかけがえのなさが描かれている曲として受け止めています。横浜DeNAベイスターズのドキュメンタリー映画『ダグアウトの向こう~今を生きるということ。』の主題歌ですよね?
高橋:そうです。この曲は僕も思い入れが強いです。仕事もプライベートも“まあ、みんながやってるくらいのことをやればいいんだよ”っていう人もいると思うし、実際、それで大丈夫なんですよね。でも、僕はそれが恐ろしいことだと思っていて。
EMTG:例えば野球選手って、なんとなく流されるのとは正反対の生き方ですよね。ほどほどにやって大成できる世界じゃないし。
高橋:そうなんですよね。夢を追うと決めた人なのであれば、それを追うために全力を尽くすしかない。ベイスターズのドキュメンタリー映画は、40歳くらいになっている選手も出てくるんです。何かしらの夢を抱いてバットを振っている姿に人としての強さ、カッコよさを感じました。膨大な努力と経験の中から、誰もまだ信じていない状況を自ら作り出すのが、ああいう方々。そういうひたむきなものを歌いたいと、選手の皆さんの姿を見て強く思ったんですよね。
EMTG:選手の皆さんの姿に、ミュージシャンとしての自分を重ねた部分もあったんじゃないですか?
高橋:ありました。例えば男性ソロシンガーって“~っぽいよね”ってカテゴライズされるものの方が、聴く人にとっては楽な部分もあると思うんです。でも、発信する側は今既にあるもので自分をカテゴライズしていてはダメ。まだないものでも、自分でクリエイトしてやっていくべきなんですよ。
EMTG:なるほど。
高橋:まだないものが急にクリエイトされるとびっくりされて、“そんなのいらない。今までのでいい”ってなるのかもしれないけど、ちょっとずつ提示し続けたら“そういうのもいいかもね”っていう人がちょっとずつ増えてくるのかもしれない。そういうことを発信する側はやってみていいんじゃないかなと。ベイスターズの選手の姿を観て、それを思いました。
EMTG:高橋さんが登場した当時も、そういう部分がありましたよ。“なんて生々しい言葉を突き付けてくるシンガーだろう!”って思いましたから。ザックリ言うと規格外(笑)。
高橋:ありがとうございます(笑)。でも、僕はまだまだですよ。
EMTG:現在、ファンになっている皆さんも、最初はびっくりしたのかも。でも、今や高橋さんの歌は他の誰のものにも換えられない存在になっているんじゃないですか?
高橋:そう言って頂けると助かります。励まされます(笑)。
EMTG:(笑)高橋さんの魅力にたくさんの人が気づいた転機って、やっぱり「福笑い」でしたよね。当時、どんなことを思いました?
高橋:半分くらいは戸惑いでした。
EMTG:そうなんですか?
高橋:はい。即興曲みたいなものだったので。
EMTG:たしか、箭内道彦さんのラジオに出た時に作ったんですよね?
高橋:そうです。2010年の元旦、深夜1時に始まるラジオ番組に出させて頂いたんです。あの時、番組が終わるまでのラスト1時間くらいで、“番組のエンディング曲を作って”って言われたんですよ。その番組は“今、世界を変えるために必要なものは何か?”をテーマに議論する内容だったんですけど、送られてきたメールの1つが“きっとこの世界の共通言語は 英語じゃなくて笑顔だと思う”。そういうのもあって、半ばハプニングのような形で生まれたのがこの曲です。
EMTG:たしか、真冬の路上で作ったんじゃなかったでしたっけ?
高橋:はい。“スタジオ内は話をするから、1時間、外で曲作りに専念して”と言われたんです(笑)。渋谷のスペイン坂のスタジオだったんですけど、廊下とかも狭いので外に出て、パルコの非常階段で作りました。そんなことがあったので、今でもスペイン坂スタジオに行く度に緊張するんですけど(笑)。
EMTG:(笑)あと、転機ということで挙げるならば、東日本大震災も高橋さんにとって大きかった印象がします。あの出来事以降、メッセージを伝えることに対しての強い覚悟を曲から感じるようになりましたので。
高橋:おっしゃる通り、僕にとって、やはり震災は大きかったです。震災が起こった後、9月に催された『風とロック』が6日間、福島の各地であったんですけど、あれはかなりのターニングポイントになりました。
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EMTG:例えば「(Where’s)THE SILENT MAJORITY?」って、そういう経験を踏まえて生まれた曲ですよね。多くの人が避ける部分にまで踏み込んで表現していますから。
高橋:2011年に震災を経験して、『風とロック』もあって。2012年辺りから自分のやりたいこと、方向性についてすごく悩むようになったんです。そして、2013年になってから自分の訴えたいことが、「(Where’s)THE SILENT MAJORITY?」やアルバムの『BREAK MY SILENCE』で明確な形になってきたんですよね。
EMTG:「(Where’s)THE SILENT MAJORITY?」をシングルのタイトル曲としてリリースすることに関して、スタッフを交えた議論がいろいろあったんじゃないですか?
高橋:何回もありましたよ、やっぱり。この曲はBRAHMANとやれたから、その勢いでドーン!と出せた感じもあったんですけど、そういうのも巡り合わせですね。あと“時代背景”って言うと大きいかもしれないけど、その時の雰囲気みたいなものもありました。“今なら出せる!”っていう。
EMTG:高橋さんの曲って、時代性を映す側面が強いっていうのも、今のお話を聞いて思いました。例えば僕、「卒業」が出た時、すごく心が動かされたんですよ。これって明るい未来が見えていない状態の曲じゃないですか。不安を抱えながらも、歯を喰いしばって新しい世界に踏み出す様子を描いた卒業ソングとして、リリース当時に受け止めました。
高橋:「卒業」は『SCHOOL OF LOCK!』というラジオ番組に出させて頂いたのがきっかけの曲です。番組の中で“今のあなたの本当の気持ちを教えて”っていうテーマでメッセージを募集して、たくさん届いたんですけど、ほとんどが愚痴だったんですよね。“本当の気持ちを言っていいなら、お母さんともう話したくない”とか“学校に行きたくない”とか。“本当のところあの娘が好き!”とか“こうなりたい!”とか、理想の方がたくさん来るかと思っていたら、正反対。それを受けて書いたのが「卒業」です。“ダメと言ってしまう自分からの卒業”っていう。
EMTG:時代性を切り取った曲だと思います。
高橋:嬉しいです。切り取れているのかどうか分からないですけど、そう感じて頂けるのはとても嬉しいです。僕としてはその時の精一杯をやっただけなんでしょうけど。
EMTG:時代性を切り取った曲が多数並ぶこのベストアルバムを聴いた人は、2009年から今年くらいまでのことをいろいろ思い出すんじゃないですかね。
高橋:そうだったら嬉しいです。
EMTG:ファン同士でこれを聴きつつ、“この曲が出た頃、こんなことがあったんだよ”とか話し合ったら楽しいはずですよ。
高橋:それは歌い手冥利に尽きる聴き方ですね。むしろ僕も参加したいくらい(笑)。そういう輪をもっと大きくしたいです。まだ出会っていない人がたくさんいるっていうのが、今の僕が思っている現状なので。ベストアルバムというものを出すのは初めてなので、どうなるのかは分からないですけど、“まだ僕のことを知らない人に受け取って欲しい”っていう気持ちがかなり大きいんです。“今まで聴いてなかったけど、ベストを出すなら聴いてみようかな”っていう人がいたらいいなと思っていますので。
EMTG:ベストアルバムって節目でもありますよね。メジャーに来てから5年ですけど、さらに5年後にはどんなアーティストになっているとイメージしています?
高橋:どうでしょう? 1つ思うのは、ちゃんと変化していたいということですね。例えば今、めっちゃギターの練習をしていて。ギターがもっと上手くなりたいです。そういうことも踏まえてどうなりたいかと言うと、たくさんの人たちの前で歌いたいんだと思います。もっと細かく全国のホールを回ったりとか、もっと大きい会場を使わせて頂けるようになりたい。それは僕にとっての大切な目標の1つだと思っています。
EMTG:素敵な目標だと思います。次のツアーもそういう目標に向けての良い一歩になるんじゃないですか?
高橋:そうなったらいいですね。このベストアルバムを引っ提げてのツアーは10月から始まって、12月5日と6日に日本武道館でやらせて頂くんですよ。武道館2DAYSは初めて。今までの総決算的なライブになると思うので、ぜひたくさんの方々に観て頂けたらなと思っています。

【取材・文:田中 大】



tag一覧 アルバム 男性ボーカル 高橋優

リリース情報

Pretty Girl

Pretty Girl

発売日: 2018年08月22日

価格: ¥ 1,200(本体)+税

レーベル: ワーナーミュージック・ジャパン

収録曲

「Pretty Girl」含む全3曲

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ビデオコメント

リリース情報

高橋優 BEST 2009-2015 『笑う約束』(初回限定盤)[2CD+DVD]

高橋優 BEST 2009-2015 『笑う約束』(初回限定盤)[2CD+DVD]

2015年07月22日

ワーナーミュージック・ジャパン

[DISC-1]
01.福笑い
02.明日はきっといい日になる
03.BE RIGHT
04.8月6日
05.ボーリング
06.頭ん中そればっかり
07.今を駆け抜けて
08.素晴らしき日常
09.旅人
10.サンドイッチ
11.同じ空の下
12.パイオニア
13.(Where’s)THE SILENT MAJORITY?
14.ほんとのきもち
15.友へ

[DISC-2]
01.未だ見ぬ星座
02.こどものうた
03.駱駝
04.リーマンズロック
05.陽はまた昇る
06.泣ぐ子はいねが
07.誰もいない台所
08.少年であれ
09.靴紐
10.太陽と花
11.現実という名の怪物と戦う者たち
12.花のように
13.誰がために鐘は鳴る
14.卒業
15.おかえり

[DVD]
メジャーデビューから5周年を迎える高橋の“5年間の軌跡”に加え、
2015年3月13日にZepp Tokyoで行われた一夜限りのファンクラブ限定LIVEを収録!

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お知らせ

■ライブ情報

橋優デビュー5周年記念 ベストアルバム発売記念祭「秋田で笑う約束」
2015/07/25(土)秋田県秋田市エリアなかいちにぎわい広場
特設サイト:http://wmg.jp/takahashiyu/

高橋 優5th ANNIVERSARY LIVE TOUR「笑う約束」
<ホール編>
2015/10/04(日)福岡県・福岡市民会館
2015/10/11(日)北海道・わくわくホリデーホール(札幌市民ホール)
2015/10/16(金)大阪府・フェスティバルホール
2015/10/24(土)新潟県・新潟県民会館
2015/11/03(火・祝)香川県・サンポートホール高松
2015/11/08(日)広島県・上野学園ホール
2015/11/15(日)愛知県・名古屋国際会議センチュリーホール
2015/11/20(金)秋田県・秋田県民会館
2015/11/22(日)宮城県・仙台サンプラザホール
2015/11/23(月・祝)福島県・いわき芸術文化交流館アリオス大ホール
2015/11/29(日)熊本県・熊本県立劇場演劇ホール
<アリーナ編>
2015/12/05(土)東京・日本武道館 ~笑う武道館~
2015/12/06(日)東京・日本武道館 ~約束の武道館~

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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