今年3月リリースのアルバム『THE DARK BLACK GROOVE』でひとつの到達点を迎えたWHITE ASHが早くもニューシングルを発表する。キャリア初の両A面シングルとなる「Insight / Ledger」。アニメ主題歌ありきで制作されたという、スリリングかつスピーディなダンスロックナンバー「Insight」。原点回帰、心機一転、自分たちらしさと向き合った「Ledger」。その2曲とカップリング2曲でいわばミニアルバム的なストーリー性のある構成となっている。一聴すれば、曲のもつイマジネーションはさらに広がり、それに伴うヴォーカリゼイションもさらに豊かになったことに驚かされることだろう。のび太（Vo,G）を中心に、剛（Dr）、彩（Ｂａ）、山さん（G）から新作について訊いた。

EMTG：あまりに早い新作の到着に驚きました。今回のシングル、まず「Insight」はアニメのオープニングテーマありきで制作されたんですか。

のび太：今年の初めくらいに、「ガッチャマンクラウズ」の主題歌の話をいただいて。前回、僕ら、「Crowds」という曲で主題歌をやらせていただいたんですけど、それがすごく好評だということで。それはすごく光栄なことなんですけど、まずは「ガッチャマンクラウズ」のファンの方に『WHITE ASHが主題歌でよかったな』と思ってもらえるような曲を作りたくて。それがまずひとつ。それから「ガッチャマン クラウズ インサイト」の資料をいただいて、アニメのテーマ、世界観に合わせた曲を作ろうと。前回よりもアクション・シーンが増えるということも聞いていたので、アクション・シーンに映える曲にしようと。だからある意味、『THE DARK BLACK GROOVE』の次の一手として、というよりは、ガッチャマンというアニメに沿った曲を作ろうということですね。

EMTG：なるほど。

のび太：その一方で、僕らの音楽をずっと聴いてくれている方々からすると、『THE DARK BLACK GROOVE』の次が「Insight」だと、『あれ？なんかキャッチーになってないか？』と思われるんじゃないかと。あんなに重いグルーヴのアルバムを作った後に、こんなに軽やかでキャッチ―な曲作ったら、「なんか変わったな、WHITE ASH」、みたいに言われるんじゃないかと。

一同：（笑）

のび太：そういう懸念がありまして（笑）。それはちょっと困るなと。そう思って、「Insight」とは真逆の曲、僕らが当初からもってるダークな部分をもう1曲に構えることによって、バランスがとれるんじゃないかと。それで「Ledger」を作ったんです。僕、バットマンの「ダークナイト」って映画がすごく好きで、その中にジョーカーっていう敵役のキャラクターがいるんですね。その圧倒的な存在感と、ダークさと、底知れない不敵な雰囲気とかが魅力的なんですよ、悪役なのに。そのジョーカーにバンドイメージが影響されてる部分が実はありまして。僕ら、インディーズデビューする前に、自主制作でCDを作ってるんですけど、タイトルが「WHy So SErIouS?」、ジョーカーのセリフからとってるんです。だからある意味、僕らの原点に近いというか。それは事務所移籍一発目として相応しいんじゃないかという思いもあって。

EMTG：なるほど。

のび太： 「Insight」は正義のヒーロー、「Ledger」は悪役。それをどちらも表現することによって、シングルとはいえ、コンセプチュアルな作品になったんじゃないかと思います。

山さん：もしも『THE DARK BLACK GROOVE』がなかったら「Ledger」を両Ａ面の一曲にするってことも多分、なかったと思うんです。僕らの中で、『THE DARK BLACK GROOVE』での手応えがあったから、「Ledger」みたいな自分たちらしい曲でもシングルのリード曲として出しても大丈夫なんだっていう自信がついたと思うんですよ。「Insight」と「Ledger」で勝負できるっていう。

EMTG：“ガッチャ盤”と“通常盤”では収録曲順が異なるというのも面白い試みですね。「Insight」が先にくるとシングルっぽいし、「Ledger」が先にくるとアルバムっぽくなる。

のび太：ああ、そうかもしれないですね。今回、シングルではあるんですけど、コンセプトミニアルバムを作るくらいの気持ちで、1曲1曲にパンチがあるので、必ずどれか1曲は刺さると思う。

EMTG：3曲目の「The Phantom Pain」は急遽入れることになったとか。

のび太：そうです。「Insight」は正義のヒーロー、「Ledger」が悪役で「Aurora」がエンディング、終焉を迎えるっていう形で一度は成り立ってたんですね。で、「The Phantom Pain」は『METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN』（ＫＯＮＡＭＩ）というゲームのタイアップソングなので、これから戦場に向かう男、寡黙で不器用だけど、強い意志をもって世界のために行動するっていうイメージなんです。戦いを象徴した曲というか。そしたら結果的に、正義があって、悪があって、戦いがあって、終焉を迎えるというストーリーになったというか。

EMTG：「The Phantom Pain」は新境地的な1曲ですね。

のび太：この曲は『THE DARK BLACK GROOVE』でビートの抜き差しを経験したので、少ない音数でもノれる曲を作れるんじゃないかと思って、チャレンジした曲ではありますね。

EMTG：チャレンジという点ではどの曲が印象にありますか。

剛：想像やイメージからアルバムを作っていくことを経験したので、のび太の注文にもすんなり応えられるようになりましたね。今回、ドラム以外に入ってる音、たとえば「The Phantom Pain」は足音だったり、「Ledger」でいえばスコップを使った音を入れたりしてるんですよ、楽曲の世界観を生かすために。そういうことも積極的なスタンスで臨めたのはよかったですね。

EMTG：彩さんはいかがでしたか、チャレンジという点では。

彩：今回は全曲ルート弾きでシンプルなので、音作りの点で差別化を図りたかったっていうのがチャレンジでした。たとえば「Insight」=ヒーロー=筋肉のイメージ、とか。強いゴリゴリの（笑）。「Ledger」は悪に流れる血液のイメージです。あまり深く考えず自然と出てきましたね。光と影、冷徹な人間、みたいな。それは面白かったですね。情景が浮かびやすい曲ばかりだと思います。

山さん：ギターに関してはのび太くんもある程度自由に作っていいよって言ってくれるんで、僕もそうするんですけど、「Insight」のギター関してはのび太と戦う悪役のイメージだったんですよ、僕の中では。敵役ヘビ男のイメージで弾いてます。でも1曲1曲が完結してて、その景色を広げるというか、深みを出すのが僕のギターの役割だと思ってるので、たとえば「Ledger」ではザ・悪みたいな曲の中で悪役であるがゆえの悲しみや切なさを表現しています。

EMTG：「Aurora」のイメージというのは？

のび太：「Insight / Ledger」と両A面でいくって決まった後に、カップリングとして作った曲です。スティーブ・ジョブズの言葉で『一流の家具職人は、人目につかないからといって裏側に粗悪な板を使うことはしない』っていうのがあるんですね。それすごくいい言葉だなと思って。シングルのカップリングって、いちばん陽の目を見ない、光が当たらないポジションじゃないですか。だからこそ、両A面よりもすげえいい曲を入れたいっていうあまのじゃく的な（笑）。終わり、エンディングに合うような曲を作ることによって、作品としてのまとまりというか、「Aurora」って曲そのものが、いいものも悪いものも包み込んでくれるような力をもっているので、いいバランスになるんじゃないかと。

EMTG：のび太さん自身の歌も変わりましたよね。

彩：新しいアプローチですよね。この曲聴いた時、すごくいい曲だと思ったと同時に死のイメージというか、悲しみも伝わってくる曲だったんですよ。その表裏一体感、神秘的な表現というか、今までのザ・歌モノ感より高みに行ったなと思いました。そういう意味でも重要な曲だと思います。

EMTG：夏はフェスが、秋からはツアーも始まりますね。

のび太：今回のシングルのリリースツアーがあります。きっとこのシングルで僕らのことを知ってくださる方が増えるんじゃないかなって思っているので、はじめましての方でも楽しめるような、かつ、今まで僕らのことを応援してくださってるファンの方も楽しめるようなワンマンにできたらいいなと思ってます。

【取材・文：篠原美江】