plenty, 言語としての音楽ではなく、感じたままを音に出す。人間の根源を描いた新アルバム!

plenty | 2015.10.09

 最新アルバム『いのちのかたち』は、人間にとって根源的な部分をじっくりと見つめている。「生きている」とはどういうことなのか? 命とは何なのか? 愛とは? 我々を激しく衝き動かし、思い悩ませる事柄でありながらも決して目には見えず、明確な答えも示されないこのテーマを、精緻に構築されたアンサンブル、美しいメロディと共に浮き彫りにしている1枚だ。非常に奥深い内容が脈打っているが、ここで描かれていることは、おそらく多くの人にとって極めて身近だろう。こめられている想い、制作の背景について、江沼郁弥(Vo/G)、新田紀彰(B)、中村一太(Dr)に語ってもらった。

EMTG:「命」とか「愛」とか、姿や形はないけれど人間が日々向き合っている事柄を浮き彫りにするアルバムですね。
江沼:それがテーマでした。言葉では表現できない「愛」とか「命」とか「生きていくこと」とか。そういうことに関して自分が感じているものは、歌詞で表現しようとしても言葉では追いつかないと感じているんですけど、音楽をやっているんだからそれでいいんだと思ったし、音楽をやっていてよかったなと。そういうことを思いながら作ったアルバムです。
EMTG:音楽も形がないものじゃないですか。形のないもので形のないものを炙り出すアルバムだと言うこともできると思います。
江沼:なるほど。今回のアルバムって、今までのものの作り方に比べて、ある意味「無責任」みたいな感じもあります。「楽しいからいい」とか「気持ちいいからいい」っていう感じで、変に作り込み過ぎないというか。もちろん、丁寧にやるところはキッチリするんですけど、「この1行目があるからこの3行目が活きてくる」っていうような組み方はしていないんです。
EMTG:今回のアルバム、極論を言えば、歌詞を斜め読みするくらいがいいんだろうなと僕は思っています。どの曲もすごくいい歌詞ですけど、言葉の意味に意識が向き過ぎると、描かれている本質から外れてしまう気がするので。
江沼:ぜひそう聴いて欲しいです。目を使わずにという感じで。
EMTG:今回は歌詞のひらがな率が高いのもそういうことですよね?
江沼:そうですね。今までだと、例えば「蒼き日々」の「あお」を「蒼」にするような手法が自分も好きだったんですけど、今回はあまり目から情報を入れないようにしようと思って。もちろん歌詞カード読んでもらってもいいんですけどね。歌詞を適当に書いたわけではないですから。でも、「あおいそら」だったらあおいそらが見えるように歌う。そっちの方が音楽家のやり方なのかなと思っていました。
EMTG:一太さんは、このアルバムにどう取り組んでいきましたか?
中村:江沼がさっき言った「言葉にできないところを表現していく」っていうことを音としてどう表していくのか? そこを3人で突き詰めて作っていきました。それは結局、グルーヴとかに繋がっていったんですけど。「どういうベースラインと、どういうドラムが噛み合うのか?」とか、アイディアもどんどん出しましたね。
EMTG:新田さんは?
新田:前作のミニアルバム(2014年11月にリリースされた3rdミニアルバム『空から降る一億の星』)は一太が加入して初だったんですけど、あの時は3人でがむしゃらにやるという感じだったんですよね。そしてツアーも回って取り組んだのが今回。だからいろいろなことを経て培った部分も出したいと思っていました。いいグルーヴを出したいと思ったのも、そういうことですね。
江沼:「音楽って楽しいんだ」って今さら思ったのも大きいです。今までも「感じたことを表現しよう」と詞や曲を書いていたんですけど、もうちょっと前の方が「言語としての音楽」だったというか。「~と思ったからむかついたんだよね。どう思う?」みたいな描き方をしていたように思います。でも、今はもっと開放されていますよ。今は「音楽が音楽としてある」っていう感じ。喜びとか悲しみとか、曲によってテーマはそれぞれだけど、感じたままに音を出して、身体が動いちゃうのを楽しんでいるんですよね。
EMTG:そのニュアンス、リスナーとしてもすごく感じる部分です。ところで、根本的なところに立ち還る感じですけど、先ほどお話した「愛」とか「命」っていうようなテーマは、どういう経緯で出てきたんですか?
江沼:今年の春に「体温」ができた辺りですかね。今までも「愛」というテーマは考えたことがあって、試みては敗れ去りという感じだったんですけど。それが例えば「あいという」だったり。でも、あれは愛をテーマにしたとはいえ、「愛は分からない」っていう曲。あれ以降、こういうテーマは避けていました。分からないというのもあったし、「今、歌える器なのだろうか?」とか、余計なことを考えて遠ざけていたんですよね。でも、こういうテーマって「春=桜」「夏=海」みたいな、誰しもが共通するものがあるテーマじゃないですか。それを歌えないというのは、表現者として寂しいことだなと。だから「体温」から取りかかりだしたんですよね。
EMTG:「愛」って太古の昔から人間がずっと向き合い続けてきたテーマですよね。おっしゃる通り全人類共通の永遠のテーマだと思います。
江沼:このテーマって永遠に「感じる」っていうゴールしかないのかもしれないですね。例えば、科学で愛を解明しようとしている人もいますけど、それでは捉えきれない部分があるみたいですし。人間の成分を炭素とか水素とか、いろんな物質に全部分けていくと、ごくごくわずか足りないんですって。「それが愛じゃないか?」っていうくらい、科学者にとっても愛は謎。それを俺が音楽家として音楽でやったというのは、自然な流れなんだと思います。
EMTG:例えば「心には風が吹き 新しい朝をみたんだ」は、言葉とか思考では決して追いつけない「生きている」という感覚を、音楽を通じて全力で表現しているのを感じました。
江沼:この曲好きなんです。アルバムがこの曲で始まって「愛のかたち」で終わるっていうは、結構気に入っています。
EMTG:僕も気に入っています。
江沼:良かった(笑)。
EMTG:こうやって先ほどから我々が話し合っていることを文字で読むと難しく感じる人もいると思うんですけど、描かれているのはものすごく身近なことなんですよね。だって、いつの時代も大人はもちろん、思春期の少年少女たちも愛について頭を悩ませていますし。
江沼:悩まない人はいないですよね。さっき、ここに来る時の電車の中で、LINEの返事が5分以内で返ってこないっていうことで怒っている女子高生がいましたよ。「まじで生きてんな」って思いました(笑)。その女の子は「生きてる」ってことについて悩んでいるつもりはないのかもしれないけど。
EMTG:「愛とはLINEを5分以内で返すことである」っていう単純なことだったら、みんなこんなに悩まないんでしょうけどね。まあ、そんなことが義務化される世の中は勘弁して欲しいですけど(笑)。
江沼:(笑)そもそも「愛とはLINEを5分以内で返すことである」って言葉にしたとしても、それでは追いきれないところがたくさんあるだろうし。
EMTG:今、ふと思ったんですけど、ミュージシャンって音という形のないものを使って何かを生むわけですから、人間の営みの中でもかなり独特なことをやっているんですよね。
江沼:トリックというかマジックに近いところもあるのかも。例えばサビで声が高くなるのも1オクターヴ高くなる方が歌う側としては大変だけど、実は聴いている側は半音上がった方が「上がった」っていう印象がしたりするんですよね。そういうマジック、トリックを多用するのが音楽。だからマジシャンに近い?(笑)。
EMTG:(笑)すごく大雑把な言い方になっちゃいますけど、音楽ってびっくりするくらい不思議。目には見えないし、輪郭や形を持たないけど、紛れもなく存在して、我々の心を打つという。
江沼:そうなんですよね。例えば楽器が弾けても社会の役には立たない(笑)。でも、役には立たないけど、「豊かにはなる」っていうようなことなんだと思います。ないとある種、困るというか、楽しくない。だってみんな生まれて死ぬだけですよ。人間って生まれつき孤独で不幸なんですから(笑)。
EMTG:(笑)このアルバムにはそういう人間の根源的な部分、大事な事柄がじっくり描かれていると思います。
江沼:目の前のことを歌っているのではなく、もっと広い大きいところを歌っているアルバムなんですよね。今は目の前のことを歌うのが主流なんでしょうけど。
EMTG:例えば具体的な恋愛模様が浮かぶような?
江沼:そうですね。それが悪いとは思わないけど、もっと奥が見えるものというか。長く聴かれる音楽と、すぐに忘れ去られる音楽。どちらが正義というわけではないけど、「その差は何なんだろう?」と考えた上で、ちゃんと深みのある曲を我々はコツコツと地味にやっていこうと思っています(笑)。それがplentyなのかなと。
EMTG:悪口ではなく、最大限の敬意をこめて言いますけど、plentyの活動って「コツコツ」と「地味」っていう表現が似合うのは同感です(笑)。
江沼:スーパー地味じゃないですか? みんながでかい戦闘機で音楽シーンの中で戦っているのに、我々は竹槍で攻めている感じ(笑)。でも、戦闘機の燃料がなくなった時に、「近所の公園で竹槍を振っていたやつらが前線で活躍してる!」ってことになるのかもしれないですよ。
中村:竹槍ね。その表現、大好き(笑)。ほんとそういう感じだね。
新田:俺も竹槍の表現、気に入った(笑)。
EMTG:惚れ惚れとする輝きを放っている竹槍です(笑)。サウンドも、ほんとワクワクするし。例えば今回の「above」のリズムが衝撃でしたよ。印象的なドラムのフレーズが延々と続くのが、聴いているとすごく昂揚します。
中村:この曲のリズムは「頑なにやってる」っていう感じですからね(笑)。
江沼:このループ感、一太とヒップホップとかのニュアンスも研究したからです。「ドラムやベースがループしていって3分、4分とか聴かせられるのって、リズムとして究極だよね」とか話していたんです。「愛のかたち」とかも含めて、そういうところが出ていますね。
EMTG:このアルバム、ライブではどう表現しようと思っていますか?
江沼:今、それに頭を悩ませているところです(笑)。でも、近いところだと野音(10月31日に予定されている日比谷野外大音楽堂でのワンマンライブ)でも、いろんな形でやりますよ。単なる新曲発表会みたいにはならないようにしようと思っています。
新田:いいアルバムができたと思っていますから、大事に演奏して、何かをちゃんと伝えたいですね。
EMTG:野音を経ての今後のplentyに関しては、何か考えていることはありますか?
江沼:サポートギターなのか、サポートキーボードなのか、まだよく分からないけですけど、「楽器を増やすのもアリなのかな?」とか。まだ全然ハッキリとは考えていないんですけど、いろんなやり方に挑戦したいなと。バンドはこの3人という最少人数でいいと思いますけど、ライブではそういうことをやってもいいのかなと思っています。
中村:楽器が増えると表現の仕方も増えますからね。
江沼:このアルバムを作ったことで過去の曲の捉え方が変わった部分もありますから、「それをどう表現するのか?」ということを考えたりもしていますし。まあ、そんなようなことも模索しながら、ここからさらにやっていきます。

【取材・文:田中大】

tag一覧 アルバム 男性ボーカル plenty

ビデオコメント

リリース情報

いのちのかたち

いのちのかたち

2015年10月07日

headphone music label

1.心には風が吹き 新しい朝をみたんだ
2.シャララ
3.子どものように
4.体温
5.above
6.ドーナツの真ん中
7.よい朝を、いとしいひと
8.口をむすんで
9.Laundry
10.夜の雨
11.さよならより、優しいことば
12.愛のかたち

このアルバムを購入

お知らせ

■ライブ情報

plenty 2015年 秋 ワンマンライブ
2015/10/31 (土)東京 日比谷野外大音楽堂

10th ANNIVERSARY LIVE TOUR 「RADWIMPSの胎盤」
2015/11/09(月)Zepp Namba
w/ RADWIMPS

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

トップに戻る