この10年の変化と不変性が確認できる、LOST IN TIMEの2種のベスト盤!

LOST IN TIME | 2012.03.09

 2002年のCDデビューから、この10年。時に傍らで、時に遠くから、私はこのロックバンド、LOST IN TIMEを捉え続けてきた。ライブや作品越しに映る彼らは、時代毎にギタリストやバンド編成を変え、作品毎に新しい表現方法や幅、更なる表現力見せていた…。ように思っていたのだが、今回発売となった彼らのベストアルバム『BEST きのう編』『BEST あした編』の2枚を聴き、改めてそれだけでもないことに気がついた。もちろん聴き進めていく上での、変化や進化、発展や発達は多々ある。しかし、それ以上に、拭っても拭い切れない、身の回りにある営みの中から滲み出てくるような物語や情景を歌やメロディにし放ち続けてきた、まさしく<LOST IN TIMEらしさ>としか称しえない独特性が、そこには貫かれていたのだ。
 そんな彼らの変化と不変性が確認できる今回のベスト盤2種についてを、バンドのソングライターでもある、ボーカル&ベースの海北が真摯に語ってくれた。

EMTG:かなり流転し続けてきた10年のように見受けられますが、ご自身的にはいかがですか?
海北:あっと言う間と思える時期も、逆にちょっとしんどくて長く感じていた時期もあって。その両方が上手く混じり合い、ちょうど10年分ぐらいの時間になったかなと。しっかり10年という時間を使ってきた感はあります(笑)。
EMTG:その長く思えていた時期とは具体的に?
海北:やはりメンバーが変わっていったタイミング毎ですね。"よし、ここから行くゾ!!"という段になって抜けたり、安定しなかったり、時にはライブの出来なかった時期もありましたから。他にも僕が曲を書けなくなった時もあったし。反面、ツアーやレコーディングが充実していた時は、それこそあっという間でしたね。まっ、"長いな..."と思えていた時期は、どちらかといったらバンドよりは、プライベートで問題があった時が多かったかも(笑)。
EMTG:突っ込みづらいなぁ(笑)。だけど、それらが逆に歌の糧になっていったりしたのでは?
海北:もちろんそれもあります。いや、逆に大きいかも。一つ一つ起こった出来事や心を揺さぶることを、キチンと正面切りながら歌い続けてこれたし。もし、それらから目をそむけたりしてたら、きっとここまで音楽を続けられてなかったかもしれない。
EMTG:その辺りがLOST IN TIMEの、時に現れるエモ―ショナルさや優しさ、寂しさや逞しさに反映されているんでしょうね。ちなみ今回のベスト盤2種を自身で聴き返してみていかがですか?
海北:"案外サラッと聴けたな..."というのと、自分ではもっと振り幅があったと思っていたけど、聴き返すと案外そうでもなかったなって。歌詞を書いて、歌を歌い、メロディを紡ぐ海北大輔と、都度そこに集ってくれた仲間たちの物語としては一本筋の通った作品になってるんじゃないかな
EMTG:選曲に関してはいかがですか?
海北:いやー、選曲にもかなり苦労しましたよ。冗談じゃなく、途中あまりにも悩んで気持ち悪くなったこともあったし。1曲1曲各々思い入れがあるし、その愛しさに優劣は付けられなかったですからね。最初なんて、どうしても絞り切れず、それこそ候補が50曲もあったんです(笑)。
EMTG:で、結果、2枚組全33曲になったと。
海北:ですね。だけど、逆に2枚に分けた分、『きのう』と『あした』という対のテーマをそれぞれに持たせたんです。で、それぞれにそぐう曲を選んでいったと。
EMTG:その2つは結成以来常に持っていたテーマのような気も...。と言うのも、LOST IN TIMEは、後を振り返りつつキチンと今や前を向く歌や、過去や現在を経ての今や未来を、ずっと歌にしてきた感があります。
海北:かもしれませんね。とは言え今回、便宜上『きのう』と『あした』で振り分けていますが、けっして、昨日だから後ろ向きだったり、逆に明日だから前向きってことでもないんです。あくまでも、過去を振り返ることでの今の確認や、明日を思い描くことで今を再確認する。結局双方一緒で、今、この瞬間を歌ってきただけなんですよね。その時々で最も大事にしていたものを誠実に歌ってきたと自分では思っているので。
EMTG:さっきの「根本はあまり変わってない」というのは、非常によく分かります。サウンドやその都度の作品性の遍歴や変化はありますが、基本、歌っていることや出てくる主人公の人間像は変わってませんもんね。
海北:自分でもそれは強く思います。俺は俺のまんま10年間歌を続けてこれたんだなって実感できましたから、今回のベスト盤で。
EMTG:どうですか?ご本人的には、この10年間で一周回った感もあるのでは?
海北:いや、一周どころか何周もしてますよ(笑)。
EMTG:(笑)。
海北:もちろん今でも1stの頃の曲とかライヴで演るし、それが歌えるのって凄く恵まれていると思います。昔の歌を恥ずかしげもなく歌詞も変えずに歌えるのは幸せだし、それを噛み締めてもかまわない時間を経れたかなと。歌い出すとパッとあの時、あの瞬間にいつでも戻れるし。このアルバムにしても、LOST IN TIMEからしばらく離れていて、この機会に久しぶりに手に取ってくれた方の感受と、ここ最近、自分たちのことを知ってくれた人の感受、それから10年前からずっと観てくれている人たちの感受は、きっと違うでしょうからね。でも、それはそれぞれで正解だし、大事にしたいと思ってますから。
EMTG :この10年で、自分的に”変わったな…”なんて思うところはありますか?
海北 :単純に、<優しくなった>んじゃないかな。<優しくなれた>というか…。それはけっして、とんがっていたのが丸くなったというのとは違って。今でもけっこうとげとげしい部分は残っていると思うんです。だけど、それを誰彼かまわず見せることはしなくなったし、どちらかと言うと、その棘を内包させることによって出来た穴や、その穴からこぼれ落ちてくる感情とかが、色々な人の気持ちに届く、それがより分かるようになってきたかなと。これまでの失敗も含め、自分の経験が今、ものすごく活きている実感がありますからね。その都度、その都度の苦しかったことも、続けていれば、それは糧となる。だけど、それは決して続けることが目的ではなく、それらを諦めずにやることの意味や、続けて来られることの幸運さ、そして、自分がしんどいことを経験したが故、他の人に対しても、「苦しかったら吐き出しちゃいなよ」と歌えるようになった。そんな10年だったかな…。
EMTG :分かります。分かります。
海北 : 10年間、順風満帆に行ったことなんて一度も無いですからね(笑)。だけど、10年プロのミュージシャンとして続けられてるし、ギリギリだけど、今でも音楽で生活が出来ている。それには凄く感謝してます。とは言え、それをライヴのMCで言うことはあっても、自分はそれを歌にしようとは考えてなくて。今後も自分の心の中の葛藤だったりを歌うことは変えずにやろうとは、思っています。
EMTG:今回のベストには、新曲や初CD化の曲が全5曲入っていますが、それらに関してはいかがですか?
海北:「再会」は...いい歌でしょ(笑)?あれこそ本当にあった出来事を、そのままただ歌詞にしただけなんです(笑)。今回のベスト盤に関しては、それぞれの盤で、新曲で始まり、過去から現在へと登っていきつつ、再び新曲で終わる流れを考えていたんです。だけど当初、『きのう編』の頭を飾る新曲が無くて。「じゃあ、それを作るためにも、昔住んでたところを巡って思い出を綴ってきます」と(笑)、上京して初めて住んだ、東京の国分寺を再び訪ねたんです。で、その当時住んでいたアパートや駅までの道すがらを歩いてみて、自分が既にもうそこにはいないことを痛烈に感じたんです。で、その時の気持ちや情景を、ホントそのまま綴ってみたと。
EMTG:では、『あした編』の最後を締める、初CD化の「ぼくらの声の帰る場所」は?
海北:この曲は昨年の東日本大震災があった後に最初に作った曲ですね。あの時期、震災も含め、しんどいことが立続けに自分たちの周りに起こって。幸い震災の時は僕らはツアー中で、直接的な被害こそ無かったんですが、ギターの三井君は仙台在住で。機材を置いていたスタジオが津波の被害に遭い、被災者になったり、震災後の色々な影響でライヴがキャンセルになったり、出来ない環境になったり、震災と同じ日にずっとお世話になっていた事務所の社長が亡くなったりと、何がどうなってるのかが分からない状況に陥ったんです。だけど、ここで止まっちゃったら、本当に再び動けなくなっちゃう気がしてきて。パソコンではなく、あえてノートとペンで、ガーッとこの曲を書いたんです。で、Ustreamで歌ったのが最初でしたね。
EMTG:『あした編』の最初に収録している「あしたのおと」。これも初CD化ですね?
海北:これはラジオ番組を通して、あるテーマを決め、それに基づいた歌詞をリスナーの方々から募り、歌詞にしたものなんです。作ったのが震災前で前向きな曲になったんです。だけど、実際にみんなに披露出来たのは、震災後だったということもあり、作った時と発表した時では意味合いも全く違ってたんです。自分でもびっくりするぐらい、その前後で違ったメッセージ性を帯びた歌になって。で、それを聴いたラジオ番組のスタッフさんが、「今こそこの歌を鳴らすべきだ!!」と、震災の特別番組から通常番組に切り替わる1曲目として、この曲を流してくれたんです。
EMTG:では、最後に今回のベスト盤の聴きどころを教えて下さい。
海北:聴きどころですが、盤は勿論として、2枚セットの特典のDVD(タワーレコードのみの購入者特典)と、ドラムの源ちゃん(大岡源一郎)の書いたブックレットかな。それらを観たり、読んだりした後に聴くと、たぶん、より自分たちのこれまでが分かると思うんです。あと、2枚セットの方が価格的にもお徳なので、是非セットの方をオススメします(笑)。

【取材・文:池田スカオ和宏】

tag一覧 アルバム 動画インタビュー 男性ボーカル LOST IN TIME

ビデオコメント

LIVE VIEW

お知らせ

海北大輔コメント動画

■マイ検索ワード

●海北大輔
クリチェフスカヤ火山

カムチャッカ半島にある火山ですね。調べ始めた動機は、この前、沼津に行った時にむちゃくちゃ富士山が綺麗で。その時に実家に居た頃に見ていた浅間山を思い出したんです。で、そこから、"富士山型の山って他にもあるかな?"と検索したところ、この山に出会ったと。4500Mぐらいあって、ユーラシア大陸の火山の中では最も高いようなんです。写真を見たらめちゃくちゃ綺麗で。しかも周りに幾つかこの形の山があるらしくて。是非行ってみたいですね。


■ライブ情報
LOST IN TIME 10th anniversary 海北弾き語りツアー「旅行鞄と僕の声と、」
2012/03/01(木)大阪cafe&bar Legato
2012/03/02(金)名古屋Zigar’s
2012/03/03(土)下北沢 風知空知
2012/03/04(日)下北沢 風知空知

LOST IN TIME 10th anniversary TOUR 2012「10年後の地図に君の名を刻め」
2012/05/27(日)札幌Sound Lab mole
2012/06/05(火)福岡SPIRAL FACTORY
2012/06/06(水)岡山CRAZYMAMA 2nd Room
2012/06/08(金)大阪umeda AKASO
2012/06/10(日)名古屋HUCK FINN
2012/06/17(日)恵比寿LIQUIDROOM
2012/06/30(土)仙台PARK SQUARE
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

リリース情報

BEST きのう編+あした編 (初回限定盤)

BEST きのう編+あした編 (初回限定盤)

2012年03月07日

DAIZAWA RECORDS/UK.PROJECT

ディスク:1
1. 再会(新曲)
2. 花
3. 翼
4. 通り雨
5. 約束
6. 教会通り
7. 列車
8. 昨日の事
9. 北風と太陽
10. 秘密
11. 然様ならば
12. 足跡(STEP UP RECORDSコンピレーション”OUT OF THIS WORLD 4”収録)
13. ひとりごと
14. ニジノシズク
15. 進む時間、止まってた自分
16. グレープフルーツ(新曲)
ディスク:2
1. あしたのおと(新曲)
2. 線路の上
3. 手紙
4. ヒカリ
5. ココロノウタ
6. あなたは生きている
7. 声(DVD『秒針』ボーナストラック)
8. はじまり
9. 旅立ち前夜
10. 最後の一球
11. 26
12. 合い言葉
13. 希望
14. ハローイエロー
15. 陽だまり
16. バードコール(新曲)
17. ぼくらの声の帰る場所(新曲)

このアルバムを購入

トップに戻る