豪華な面々と共に特別な一夜となった森版「音霊」
OTODAMA FOREST STUDIO 2010 | 2010.12.10
『OTODAMA FOREST STUDIO 2010』 2010.10.17(SUN) @湘南国際村めぐりの森
“SAVE THE ZUSHI BEACH”地元愛とアーティストたちの愛のつまった森フェス
猛暑の名残が続いていた10月17日(日)、葉山と横須賀の間に位置する湘南国際村めぐりの森で、“OTODAMA FOREST STUDIO 2010”が開催された。キマグレンが逗子で運営する“音霊 OTODAMA SEA STUDIO”のいわば森版。“SAVE THE ZUSHI BEACH”と名づけて、年々なくなりかけてる逗子の浜を再生する活動を行なっている彼らが、この5月にめぐりの森の植樹祭に参加したのが、このイベント立ち上げのきっかけとなった。
めぐりの森は、無計画な開発が頓挫したまま放置されていた広大な土地。そこに森を復活させ、昔ながらの環境循環を取り戻すことで、ひいては湘南の海岸線も元通りになるはず。そんな壮大な願いに向けての第一歩が、この日の“森フェス”となったのである。
クローバーの野原が1万人のピクニックシートで埋まると、ホスト役のキマグレンがオープニングに登場した。イベントの趣旨を語り「コツコツ小さいことからやっていきたい」と意欲を示す二人。なんと、この日のステージは、逗子海岸の“音霊 OTODAMA SEA STUDIO”をそのまま運んできて組み直したものだという。地元に拠点を置き、音楽という創作を通じてつながりを持ち、こうやって楽しみながら今できることをする。そんな彼らの地元への愛で、会場はほっこりとしたムードになった。
トップバッターはスターダスト・レビュー。「小田さんの次に最年長の僕らが務めさせていただきます」と笑いを誘いつつ、いきなり「Amazing Grace」のアカペラで観客を酔わせたのはさすが。そう、“音霊”といえば、やっぱりアコースティック・セット。ということで、今回はどのアーティストもそれに準じた編成で臨む。つまり、いつもよりヒューマンかつ意外なサウンド感で楽しめるというのも、このイベントの素晴らしさだ。酔わす、アゲる、笑わせるの3拍子揃った達人バンド、スタレビのアンサンブルは、先頭を切るに相応しい気合いの入ったものだった。
鮮かなエスニックカラーのワンピースでCharaが現われると空気は一変。女子たちの憧れの眼差しがステージに集中する。ウィスパーからシャウトまで、変幻自在に変わるその声のダイナミクスに圧倒された。ヘンに浮かれない大人の盛り上げ方もじつに粋で、「やっぱりCharaはカッコいい」という声があちこちから聞こえていた。
黄昏近くのひんやりした風に乗り、澄み渡ったのは小田和正の声。待ち焦がれていた人々の心を一気に潤していく。アコギを抱えてステージの真ん中に座り、「どうも!」とこぼす笑顔に歓声が上がる。そして、「若い人たちと交わる機会を持てるのは幸せなことだなと思ってます」と呼び込んだキマグレンと、なんと「約束の丘」をコラボ。小田をコーラスに従えて、力いっぱい歌う二人の表情は感動に満ちている。パートもよく考えられた素晴らしい音。強い絆が息づいていた。「最近一緒にやることが多い」というスタレビとも、毒舌トークをまじえながらの楽しいセッションを披露。ラストナンバー「今日もどこかで」の「いちどきりの短いこの人生どれだけの人たちと出会えるんだろう」という歌詞が、この日のイベントのすべてを物語っているようだった。小田の目が少しうるんでいるように見えたのは私だけだろうか。
出てくるなりハーモニカを吹き鳴らしたのはTHE BOOMの宮沢だ。夕暮れ時のその音がやけに郷愁をそそる。ウォーッという野郎声が上がり、手拍子が起こった。「去年で20周年。それがどうした!っていう大先輩と一緒にできてうれしい」と、その“大先輩”の頑張りに負けないステージを展開。三線を持ち、能の謡いのような独特の発声法をまじえた「島唄」の宮沢の声と、年季の入ったバンドのグルーヴは圧巻だった。
感極まった表情。この一瞬を忘れない。
とっぷりと日が暮れた頃、ザザーッと波の音が響き、森はちょっとタイムスリップして夏の海に変身。いよいよキマグレンが登場の登場だ。まずは、手をとりあってひとつになろうねと歌う「トコシエ」の優しいウェイブが観客に伝わる。星は見えずともみんなの心に星を灯した「星空モード」。このイベントにピッタリの「僕の住む街」では、多くの人が自分の故郷を思ったことだろう。地元を大切にする二人を見て、自分も何かできることがないだろうかと思いを馳せた人も多いはず。キマグレンだからこそ、こういう気負いのない啓蒙ができるんだなとあらためて思う。
半そで半パンでかなり寒そうな二人だったが、「海岸中央通り」、「愛NEED」と続くアップナンバーで頬は紅潮。情熱をぶつけるような歌に観客がグイグイ引き込まれていく。真夏が戻ってきたような「LIFE」では定番のタオル回し。「もっともっと、その声海まで届けようぜ」と煽る二人とともに上がった「ハーイヤイェイェイェ」の歌声は、秋の夜の帳を破るかの勢いだった。
「今日で30歳になりました」とISEKI。「今日また夢が叶いました。本当にありがとうございます」とKUREI。二人とも顔を見合わせて、感極まった表情。きっと脳裏には、出会いからここまでの道のりが走馬灯のように駆け巡っていたことだろう。この一瞬を忘れない。ラストの「リメンバー」はそんなリアルな思いがこめられていた。
アンコール、走って出てきた二人は、敬意をこめて出演者全員を呼び込んだ。するとスタレビ根本がISEKIに「今日誕生日だって聞いたんだけど」と。「そのネタは大丈夫です」と遠慮するISEKI。でも根本は「歌くらい歌わせてくれよ」と。全員がそれに賛同して、豪華メンバーでの「ハッピーバースデー」が響き渡った。泣きながら「恐縮です!」と言うISEKI。もらい泣きしそうなほど温かい光景だった。
オーラスは全員でキマグレンのデビュー曲「あえないウタ」。みんなで歌える曲を相談して選んだのだと小田。最後の最後まで本当に心の通った臨み方をみんながしていたんだなと、あらためて伝わってくる場面だった。夜の森にこだまする素敵なハーモニーを聴きながら、このイベントが、2回、3回と長く続いていくことを心から願った。
【Photo by coto】
【取材・文:藤井美保】
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