新鮮なバンド・ミュージックと新鮮なオーディエンスが真正面から激突
flumpool/NICO Touches the Walls | 2011.02.07
ここまで熱い期待に満ちた開演前の雰囲気も珍しい。それもそのはず、NICO Touches the Wallsとflumpoolという同世代の人気2バンドが、Zepp Tokyoでガチの対バン=スプリット・ライブを行なうのだ。
スプリットの面白さは、じっくり二つのバンドを味わえること。イベントのように次々とたくさんのバンドが出てくるのもカラフルで楽しい が、スプリットでは一つのバンドがある程度長い時間演奏するので、そのバンドのさまざまな表情に出会うことができる。一方で、スプリット の怖さといえば、同じステージで同じオーディエンスの前で演奏するので、二つのバンドの力とカラーが正面から激突することになる。言い訳なし、本当の意味での“ガチ”勝負なのだ。
3本のツアーの最終日、最初にステージに上がったのは、flumpoolだった。山村隆太 (Vo.)、阪井一生(Gt.)、尼川元気(B.)、小倉誠司(Dr.)の4人が、大歓声の中、観客を煽りつつ、ゆっくりと登場。
「こんばんは、flumpoolです。最後まで楽しんでいってください」と山村は一言だけ言って、すぐに演奏が始まった。最新アルバム『Fantasia of Life Stripe』収録の「reboot~あきらめない詩~」だ。山村が自分のギターでリズムを刻みながら、とてもスムーズに歌い出す。この異様な熱気に包まれても、あくまでマイペースを貫く。この"ガチ"ツアーを含めて、flumpoolがライブを通して着実に自信を付けている証だ。 ベースの尼川はステージの前に出て、観客の様子をしっかりと味わうように、フロアを眺めながら弾いている。その余裕も好感が持てる。1曲歌い終わった山村は、ギターを置いてハンドマイクに持ち替え、「東京、行くぜー!」と叫ぶ。続いての「Hello」は、デビュー・ミニアルバム『Unreal』に収録のアッパー・チューンだ。おなじみの曲に、フロアは大きな歓声を上げる。新旧織り交ぜたセットリストが、効果的に機能している。ドラムス小倉がコントロールするリズムに合わせて、オーディエンスがハンドクラップを始めた。そんな中。阪井ががっちりギター・ソロを決める。「Calling」で、さらに盛り上げる。見事なスタート・ダッシュだ。
「来てくれてありがとう。しかも今日はファイナル。スプリット・ツアーは初めてなんですけど、NICO Touches the Wallsはいちばん大好きなロックバンドなので、一緒に回れてうれしいです。僕らを初めて観る人もきっとたくさんいると思います。全力で球を放っていきますので、よろしく。このツアーのためにいろいろ準備してきたことを、今日は全部ここに置いていきますよ」と宣言。この後も、新旧の曲をうまくミックスしてライブを運んでいく。
4月にライブDVDがリリースされることをステージで初めて発表したり、未発表曲の「ハイドレンジア」を演奏したり。後半では、ダンサブルな「labo」が光った。山村が再びハンドマイクで客席をリードする。メンバーが、この"ガチンコ勝負"を 心から楽しんでいる様子がとてもすがすがしい。この曲の終わりで山村は「愛してるぜ!」と初めて叫んだのだった。1時間を少し越える内容は、現時点でのflumpoolの実力を余すところなく見せつけてくれた。
少しのインターバルをおいて、温まりきったステージに4人が登場。「楽しんでるぅ? 俺たち、NICO Touches the Wallsです。東京、容赦しねーぜ。行くぞー!」と光村龍哉 (Vo.&Gt.)。軽くセッションで音を出した後、4人の一発目の音の揃い方がすごかった。誰がどのタイミングで音を出すか、メンバー同士が把握しているからこその音圧だ。まさに“音の圧力”、Zeppの空気が、ぶるんと揺れる。
前半では2曲目「友情讃歌」がよかった。何ということのないシンプルな曲なのだが、シンプルだからこそバンドの特性が表われる。対馬祥太郎のドラムの力強さ、光村の歌や古村大介のギターの個性、サウンド全体を結び合わせる坂倉心悟のベースプレイが、曲の"余白"をパワフルに彩っていく。
「改めて、こんばんは。NICO Touches the Wallsです。みなさん、まだ生きてますか(笑)? flumpoolとは2年前、大阪のイベントで一緒になってから交流があります。年令もバンド編成も同じで、公私ともども仲良くしてます。俺らを初めて観る人も多いと思いますので、いろんな曲をやります。中でお気に入りがあったら、持って帰ってください」という光村のMCどおり、中盤はダークで疾走感のある「夜の果て」やダンサブルな「image training」などを立て続けに演奏。オーディエンスもただ黙って聴いてはいない。それこそ初めて観る人も、NICO Touches the Wallsの音に熱く反応する。
「ヤバイですね。東京、最高! 3本のツアー、あっという間でした。2年前、出会ったときから、flumpoolとは違うステージで切磋琢磨してきました。こうしてまた一緒にやれるよう、その日まで力を蓄えていきたいと思います。4月にはフルアルバムを出しますので、よろしく」。
ライブの後半では、なんと言っても最新シングル「Diver」 が凄かった。歌詞の深さと、それを包むサウンドのスピード感が抜群だ。すでに名曲と噂されるこの歌の詞とメロディを、メンバーそれぞれが心底理解してのパフォーマンスは、新しい時代のロックの誕生が間近いことを告げていた。ラストは彼らの名をシーンに知らしめたスマッシュ・ヒット「ホログラム」で締めくくった。
アンコールは2バンドのメンバー全員が揃って、ビートルズのカバー「Revolution」。みんなニコニコ、本当に楽しそうに演奏。終わって、光村が「秋にまたやるぞー!」と叫ぶと、山村が「マジでー?!」。「みんなの声が集まれば、やれる」と光村が笑いながら断言。するとオーディエンスからそれに賛成する大きな拍手と歓声が上がった。こんな楽しいスプリットなら、みんなもっと観たくなるのは当然だ。
そしてこの日、いちばんかっこよかったのは、オーディエンスだった。初めて観るバンドに、なんの先入観もなく接し、メンバーたちに惜しげもなくエネルギーを与える。このスプリット・ツアーは今後のバンド・シーンに、大きな影響を及ぼすことになるだろう。新鮮なバンド・ミュージックと、新鮮なオーディエンスが真正面から出会った、衝撃的な一夜だった。
【 取材・文:平山雄一 】
【Photo by Hisana Hiranuma】