完全個性派4バンドが、ぶっちぎりのパフォーマンス
スペシャ列伝 | 2011.02.14
日本のリスナーに旬のロック・アーティストを紹介し続けて早10年。すっかり定着したイベント“スペシャ列伝”の10周年を記念して行なわれたツアーには、いつにも増して個性的な4バンドが選ばれた。このところずっとチャートを席捲している、いわゆる“歌ものバンド”はひとつもない。4バンドともに、ビートや歌詞、パフォーマンスがユニークで、エンターテイメントとしてもこれまでのバンドとは異次元の魅力を持っている。
ます最初に登場したのは、モーモールルギャバン。ベーシストのT-マルガリータを中央に、右に女性キーボード&ボーカルのユコ・カティ、左側にはドラム&ボーカルのゲイリー・ビッチェが、それぞれ向き合うように陣取る。ユニークなのは、ゲイリー・ビッチェのコスチュームが、短パンにTシャツ。その格好でストレッチするところから、モーモールルギャバンのライブが始まっていると言っても過言ではない(笑)。満員のブリッツのフロアは、嬉しいような怖いような「キャーキャー」という悲鳴が上がっている。
そのビッチェが「アカサカー!」と雄叫びを上げて、演奏に突入。4つ打ちドラムに、乱数表のようなシンセのシーケンサーが重なる。つまりは、規則と不規則が重なって生まれるのが、彼らの音楽の特徴だ。確かなテクニックに裏打ちされた“変則”が面白い。代表曲の「ユキちゃん」では、クィーンの「ロック・ユー」の替え歌をイントロに、会場を大合唱に持っていくあたりが、このバンドの本領だ。
ラストの「サイケな恋人」ではビッチェが客席と“パンティ!”のコール&レスポンスをした後、短パンを脱いでパンツ一丁に(笑)。「こういうイベントではありません。この後、みんなが思ってるようなクールなバンドが出てきますから」と言い残して去っていった。インパクト充分のトップバッターだった。
まだザワザワしているブリッツに、次に登場したのはcinema staff。注目のレーベル“残響レコード”がプッシュする4人組バンドだ。モーモールルギャバンが“変則バンド”だとしたら、cinema staffは変則を軽々と超えて、違和感ではなく美しさを感じさせるのが持ち味だ。
たとえばオープニングの「AMK HOLLIC」は、辻 友貴のギターの爆音ノイズから始まり、そこにボーカル&ギターの飯田瑞規、ベースの三島想平、ドラムの久野洋平が加わる。強烈な変拍子を含むグルーブに乗って平然と歌う飯田が、異様な魅力を放つ。リズムを細かく取るのではなく、メロディの大きさを感じさせるボーカルが秀逸だ。一方でスピード感に命を賭ける辻、三島、久野が飯田と好対照を成す。だから♪ベースの音で安全確認♪という歌詞が、ユーモラスに耳に飛び込んでくる。
最高だったのは3曲目の「第12感」。6/8拍子を基準にして、自由自在に展開していく。4人が平等な立場で演奏を楽しもうという心意気が、オーディエンスの心も自由に解放していく。特にボーカルに対して、辻のギターが奏でる“カウンター・メロディ”が聴きモノだった。
「改めまして、cinema staffです。人が多いな。まるでゴミのような(笑)」と三島がしゃべり出す。「列伝、楽しんでますかあ? 1月12日に、『水平線は夜動く』というシングルを出しました。その中から」と言って始まったのは「Daybreak Syndrome」。前の3曲とは異なる、美メロ・バラードで、おとぼけMCをかました久野がしっかりとボーカル・ハーモニーを付けていることにも驚かされた。
実はこのバンド、昨年10月に本サイトが行なったイベント“EMTG MUSIC RISE”に出演してもらったのだが、そのときよりも遥かにいいライブを見せてくれた。まさに伸び盛りのステージだった。
3番手のplentyは、ボーカル&ギター江沼 郁弥、ベース新田 紀彰、ドラム吉岡 紘希の3人からなる、じっくり歌を聴かせるギタートリオだ。とはいえ今回の列伝参加バンドの例にもれず、1曲目「理由」では3拍子と4拍子を交互に繰り出す。が、それに乗って聴こえてくる日本語の言葉のタッチは、前の2バンドとは明らかに異なる。シンプルな演奏に合わせるように、シンプルな言葉で普段の生活の中で心にちくちく刺さる事象を描く。オーディエンスも、ここまででいちばん静かに聴き入っている。なので、とても面白いことを歌っていそうな「最近どうなの?」の歌詞が聞き取りにくかったのが、少し残念だった。
「すごいたくさんの人ですね。10周年の列伝に出られて、光栄です。このライブは後日、番組として放送されます・・・、あ、言っちゃいけなかったんだっけ。今、言ったことは忘れてください(笑)」と江沼。ちょっと天然なところのあるメンバーのMCも、plentyの音楽の世界観と通じている。
最新シングル「人との距離のはかりかた」もよかったが、この日のハイライトはラストの「枠」だった。♪どうして人は死んじゃうの?♪というストレートな問いかけも面白いが、♪枠の中で過ごす僕たちは 頭を使う♪というフレーズは、この日聴いた歌の中でいちばん僕の心に刺さった。また、この曲のサウンドは力強いロックだったが、今後のplentyの活躍は、隙間の多いサウンドの中でどれだけユニークな考えに基づいた言葉を音楽として定着させることができるかのかかっているだろう。“変則的な気持ち”を歌うバンドとして注目していきたい。
さて、この日のトリを務めるのは、[Champagne]。出演4バンドの中で、現時点でもっとも人気の高い4人バンドだ。それだけに、他のバンドと比べて、とても分かりやすいストレートなサウンドとパフォーマンスで1曲目「For Freedom」からオーディエンスをぐいぐい引っ張っていったのはさすがだった。フロアは最初からダイブの嵐になる。ある意味、ロックの公式にのっとったオールドスクールのアンサンブルではあるが、ライブで鍛えられたステージングは圧巻。ボーカルの川上 洋平は、自ら刻むギターに乗って歌いだす。ギブソン335を抱えた白井眞輝は、そこに強い色彩を与える。磯部寛之のベースは、タイトという言葉に尽きる。そしてドラム庄村聡泰は・・・ん?! パンツ一丁だ(笑)。一筋縄ではいかないバンドが集まった10周年イベントではあるが、正統派に見えた[Champagne]も例外ではなかったのだ。
「初めまして、[Champagne]です。ついに列伝ツアーが今日でファイナルを迎えました。10年間で今回がいちばんのツアーなんじゃないでしょうか。なにしろパンイチのバンドが二つもいますし(笑)」。確かにこのツアーは、記憶に残るツアーになりそうだ。パンチの効いた「Rocknrolla!」で会場はさらに盛り上がる。
「暴れ過ぎて、すいません。そんなみなさんに、ささやかな曲をプレゼントします。休憩時間です」と川上が言って始まった「Don,t Fuck With Yoohei Kawakami」は全然ささやかではなく、超ハードなナンバー。それこそ休憩なんてできない。
「8ヵ所、全力でやってきたけど、やっぱり今日が最高! 4バンドの人生は、始まったばかり。この素敵な夜に素敵な曲をプレゼントします」と言って始まった「city」は、前の曲よりさらにハードな曲。最後にドラムの庄村が立ち上がって、後ろ向きでポーズを決める。このエッジーなイベントをきっちり締めくくったのだった。
アンコールでは庄村、ゲイリー・ビッチェの二人に加えて、cinema staffの辻が“3人目のパンイチ男”として登場。出演バンドのメンバー全員でオアシスの「Don,t Look Back in Anger」をカバーして、このツアーの楽しさをステージ全部を使って表わしたのだった。
終わって感じたのは、先日紹介したNICO Touches the Wallsとflumpoolのスプリット・ツアーと同じく、オーディエンスがとても新鮮な感覚を持っていることだった。「応援するバンドを真剣に探している」、そんなオーディエンスが2011年の音楽シーンを楽しくて豊かなものにしていくのを目撃したいと思った。
【 取材・文:平山雄一 】
【Photo by Hisana Hiranuma】
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お知らせ
SPACE SHOWER TV
スペースシャワー列伝 JAPAN TOUR 2011
2/23(水)21:30~23:00(初回放送)
スペースシャワー列伝 HP
セットリスト
モーモールルギャパン
- 細胞9
- POP!烏龍ハイ!
- ユキちゃん
- ユキちゃんの遺伝子
- サイケな恋人
cinema staff
- AMK HOLLIC
- 想像力
- 第12感
- Daybreak Syndrome
- 優しくしないで
- KARAKURI in the skywalkers
- Poltergeist
plenty
- 理由
- 最近どうなの?
- 人との距離のはかりかた
- 拝啓。皆さま
- 枠
[Champagne]
- For Freedom
- Yeah Yeah Yeah
- Rocknrolla!
- Don't Fuck With Yoohei Kawakami
- city
- En-1. You're So Sweet & I Love You
セッション
- Don't Look Back in Anger ※OASISカバー