唄い手と聴き手が、お互いの必要性を実感した、菅原紗由理のワンマンライブ
菅原紗由理 | 2011.03.22
菅原紗由理を近い距離で感じてもらいたい--。自身2度目となる全国ツアーは、6つの冬のラブストーリーを詰め込んだミニアルバム『Close To You』のタイトルに込められた、彼女の想いを具現化したようなライブとなっていた。
ファイナルの地である赤坂BLITZに詰めかけた満員の観客が彼女を身近に感じることが出来た理由。それは、彼女が素の自分をさらけ出し、聴き手と一対一で向き合っていたからだろう。白のタンクトップとレース地のジレに、デニムのショートパンツという、素に近いシンプルなスタイルで登場した彼女は、「みんなに会えることを楽しみにしていて、昨日の夜は、興奮して眠れませんでした。秋田の田舎娘のために集まってくれて、本当にありがとうございます」と、秋田弁で、素直に感謝の気持ちを伝えた。文字にすると当たり前の言葉に感じるかもしれないが、胸の内にある感情を目の前の人に向かって、ストレートに言葉にすることは、そんなに簡単なことではない。この日のオープニングを飾ったエレクトロ調のナンバー「So Long My Love」や、ドラマ挿入歌としてヒットした「素直になれなくて」、好きという言葉の大切さを歌った「『好き』という言葉」は、心から素直になりたいと願う女の子が主人公である。素直になりたいのに素直になれないと感じている人が多いからこそ、同世代の女性を中心に高い支持を得てきたのだ。彼女自身も普段から「つい強がってしまって、素直になれない」と言っているが、彼女は歌であれば、普段はなかなか照れくさくて言えない言葉も素直に、ストレートに伝えられるのだろう。特に、高校生の頃にすれ違ってしまった幼なじみへの想いを込めた新曲「風」、自分のノートに綴ってきたが大切な想いを並べた「Close To You」、地元の高校の裏にある桜の道を舞台にした「桜のみち」といった、本人作詞によるバラードからは、聴き手の日常生活にすっと入り込んでくる等身大の息吹と、共感を超えた親しみのようなものを感じることができた。
彼女のシンプルでナチュラルな “素の魅力”は、歌声にも顕著に現われていたように思う。昨年、開催した初のワンマンツアーで披露して以来、イベントや学祭で大事に歌ってきたバラード「サヨナラまた...。」を始め、菅原紗由理=ピアノを基調としたバラードという印象が強いが、この日のセットリストは、R&Bをはじめ、ロックやハウス、スペーシーなダンスロックやゴスペルなど、様々な曲調で構成されていた。ジャンルとしては多岐にわたっていたが、その根底に流れているのは、シンプルでストレートでポジティヴな感情に満ちた、彼女以上でも彼女以下でもない、自然体の歌声である。パワフルな前向きさと静かで凛とした気配を内包した歌声は、やさしくて、せつなくて、まるでちょうどよい温度に調節されたお風呂のように、じわじわと心を内側から温めて、リラックスさせてくれる。
聴き手が、ふと気づけばそばにいてくれる、つつましやかで、だけど強い芯をもつ、友達のような存在感を感じる一方で、唄い手である彼女もまた、自身が歌に込めた言葉や感情を受け止めて欲しいと願っていることも伝わってくるステージであった。唄い手と聴き手が等しく、「お互いを必要としている」と実感できるライブは、案外少ないのではないだろうか。この柔らかくも確かな関係は、彼女の音楽にも影響を与えていることは間違いないだろう。「課題を1つずつクリアーして、成長する自分を見せたい。いい歌を届けられるように、もっと努力して、日々、がんばっていきます」と、観客ひとりひとりの顔を見ながら、力強く約束した彼女のさらなる成長がいまから楽しみでならない。
【 取材・文:永堀アツオ 】
リリース情報
セットリスト
- So long my love
- It’s My Life
- I Wanna Cry
- 恋
- alone
- Eternal Love
- 君がいるから
- 風(新曲)
- Close To You
- I still love you
- Fly(新曲)
- Is This Love?
- サヨナラまた...。
- 『好き』という言葉
- 素直になれなくて
- キミに贈る歌
- WINTER STORY Encore
- ALWAYS
- 桜のみち