多幸で甘美、エターナルな時間が終始流れていた、毛皮のマリーズのホールライブ
毛皮のマリーズ | 2011.05.10
この日の毛皮のマリーズのライブ中、僕は何度も永遠を感じ、そして、"この幸せな時間よ、どうかもう少し長く続いてくれ…"と願った。
そんなにも多幸で甘美、そしてエターナルな時間が、この日の渋谷C.C.Lemonホールには終始流れていた。
「TOUR 2011 "MARIES MANIA"」と銘打ち、全国各地でワンマンツアーを行ってきた彼らだが、今回のこのC.C.Lemonホールはエクストラ。今年頭に発売された毛皮のマリーズのニューーアルバム『ティン・パン・アレイ』の完全再現が成されたものであった。
ご存知の方も多いとは思うが、このアルバムは、ロックバンド、毛皮のマリーズ名義ではありながらも、これまでのバンドで再現できる範囲内のアプローチとは真逆。ボーカルであり、ソングライターの志磨の頭の中に鳴っていたであろう音を、そのままの形で表現するため、各曲の必要楽器をあえて擁し、具現/作品化したものであった。当然、通常の彼らのバンド構成以外の楽器もふんだんに起用。必然的に今のバンドスタイルでは、再現が不可能なものが多い。とは言え、この日は、それを完全再現すると事前公言。そして満員の会場の中、高らかに披露されたそれらは、けっして楽曲の再現だけに留まらず、きちんと作品以上のものを我々にもたらしてくれた。
まずはステージの幕が上がり、その編成に驚いた。てっきりマリーズ+最近のサポートメンバーである鍵盤奥野を基本セットに、その都度必要楽器や要素が加わっていくスタイルかと思っていたが、基本セットからして7人編成。ドラム、パーカッションが加わっている。うーん、この再現ライブはかなり本気だぞ。普通同期類は、<ライブ時にはシンプルになってもしかたがない>の姿勢で臨まれることが多い。しかし、そこは志磨。“足りないものは、キチンと補う”の精神が、この再現ライブへの徹底的なこだわりと映った。しかも、ドラムにしろ、パーカッションにしろ、躍動感や土着性を引き出していたのも興味深い。
ボーナストラックも含め、その曲順通りに進行されたこの日のライブは、ざっとこんな感じだった。
上述の7人による、まるで朝日がゆっくりと眩しく昇っていくような「序曲 (冬の朝)」で幕を開けたこの日。ピンスポットの当たったセンターには、志磨とベースの栗本が。途中まではその2人によるツインボーカルで歌いながらも、同曲の中盤以降は栗本もベースである自分のポジションへ。
「ようこそ『ティン・パン・アレイ』完全再現ライブに。今宵はごゆるりとお楽しみください」と志磨。続いては、志磨もアコギを持ち、ギターの越川もアコギに持ち替え、BLACK BOTTOM BRASS BANDからトランペット、テナーサックス、トロンボーンの3管を交えて再現された「恋するロデオ」をプレイ。作品以上にポップさやドリーミーさ、ゴージャスさが増した同曲。ドラムの藤山とサポートドラマーによるツインドラムが、会場にウネリをもたらす。そして、より哀愁を際立たせたクラリネットとアコーディオンをゲストに迎えた「さよならベイビー・ブルー」では、志磨も立ち上がり、ムーディーでダンディなアクションを交え歌う。サーカスライクでどこか物憂げな同曲が、会場をしっとりと包む。続く「おっさん On The Corner」では、ペダルスティールも持ち込まれ、いきなり会場をニューオリンズでセカンドラインの世界へ。そして、よりフレンチポップ度が増した「Mary Lou」では、会場からの手拍子も出現。これまでになかった共有感が生まれる。この曲では、栗本の甘いコーラスも加わり、場内がスイートさでいっぱいだ。そして、ラウドなモータウンが、会場に中央線への乗車を促した「C列車でいこう」、再び3管が呼び込まれ、爽やかな雰囲気の中、歌われた「おおハレルヤ」、聴き入る会場にバイオリンの悲しさと優雅さが広がっていった「星の王子さま (バイオリンのための)」、弦カルテットが呼び込まれ、博愛でハッピーな気持ちで会場をいっぱいにした「愛のテーマ」。同曲では天井から紙吹雪も舞い、子供のコーラス隊も現れ、この上ない幸せと大団円感が場内に満ちる。続く「欲望」でも子供コーラスとホーンが会場に愛をあふれさせていた。そして、「再び東京に朝がくるように…」との祈りと共に歌われた本編ラスト「弦楽四重奏曲第9番ホ長調「東京」では、荘厳さと永遠性が会場中に広がり、多くの人がそこに夜明けや朝日を思い浮かべたことだろう。
そして、アンコールでは、南洋でトロピカルな世界へと会場を誘った「彼女を起こす10の方法」をプレイ。彼らはステージを下りた。
今振り返ると、『ティン・パン・アレイ』は非常に鑑賞性の強い作品だったと思う。そして、この日は終始、あの作品内容を再現しながらも、それ以上のものをしっかりと体現していた。まさに体で歌や感動を感受する、そんなライブであった。
望み通り、頭の中で鳴っていた作品を再現し尽くした志磨。しかし、彼はまた次の興味を示していくことだろう。次にマリーズは、どこに向かい、我々を驚かせるつもりなのだろう? 気が早いが、今からそれがとても楽しみだ。
【Photo by 古渓 一道】
【取材・文 池田スカオ和宏】
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リリース情報
セットリスト
- 序曲 (冬の朝)
- 恋するロデオ
- さよならベイビー・ブルー
- おっさん On The Corner
- Mary Lou
- C列車でいこう
- おおハレルヤ
- 星の王子さま (バイオリンのための)
- 愛のテーマ
- 欲望
- 弦楽四重奏曲第9番ホ長調「東京」 Encore
- 彼女を起こす10の方法