毛皮のマリーズ、初武道館にして解散ライブをレポート!
毛皮のマリーズ | 2011.12.19
センチメンタ ルな夜だった。
エキセントリックな芸風で一気にフロントに躍り出た毛皮のマリーズは、この秋、ニューアルバム『THE END』のリリースと同時に解散を発表。衝撃がシーンを駆け巡った。当然、「なぜ今、解散するの?」という疑問が多く寄せられた。だが、答などない。なぜなら、毛マリとファンの関係は、“純愛”だから、純愛の終わりは言葉で説明できるわけがないのだ。
そんなことを毛マリとの最初で最後の武道館の客席でぼんやり考えていたら、いつもの開演前のBGM、エディット・ピアフの純愛ソング「愛の讃歌」が流れ出した。いよいよ毛皮のマリーズとの関係が終焉を迎えるのだ。
栗本ヒロコ(b)、越川和磨(g)、上半身裸の富士山富士夫(dr)がステージに入ってくる。富士山のドラムがバシーンと鳴ったところで、ボーカルの志磨遼平が登場。細身の黒いパンツと長髪は、いつもと変わらない。悲鳴を上げているのは客席だけだ。
滑り出しは硬かった。それは、バンドにとって最後のライブだからではなく、初めての武道館だったからだと思う。武道館を楽しもうとしながらも、この神聖な場所についに立つことができたメンバーたちは、己のあらん限りの力を発揮してこの怪物会場と格闘していた。志磨は足を蹴り上げ、栗本は足を踏ん張り、越川は足を折り曲げてひざまずく。富士山だけ、けっこう落ち着いている。
「こんばんは、武道館。毛皮のマリーズって言います。今日は最後まで楽しんで帰ってください」と志磨。客席へというより、それこそ武道館そのものに対して挨拶しているように聞こえて、メンバーの武道館に賭ける心意気が伝わってきて微笑んでしまった。
ようやく硬さが取れてきたのは、中盤に差し掛かる頃だった。「武道館、似合うかい?」と志磨が言って始まった「ダンデライオン」は、アコースティックなアレンジで、メンバー自身が一音一音を楽しんでいるのが分かる。続く「BABYDOLL」で は、オーディエンスからハンドクラップが起こる。“君を好きだから幸せ”という、志磨独特の見返りを考えない純愛リリックが炸裂する。さらには栗本がボーカルを取る「すてきなモリー」や、♪愛も平和も欲しくないよ だって君にしか興味ないもん♪と志磨が歌う「コミック・ジェネレイション」で、ペースは完全に毛皮のマリーズのものになった。マイクスタンドを放り投げる志磨を見て、ステージ脇に控えているローディーたちが笑い転げる。スタッフもこのバンドのファンの一員として、この解散ライブを楽しんでいる。
僕は正直、毛マリの音が、武道館2階席最後列まで届くのかと心配してここに来たのだが、ライブが始まってからバンドはみるみるうちに成長し、ライブの後半には毛マリは完全に“武道館クラス”のバンドになっていた。タイトルマッチに向かって体を作ってきたボクサーの才能が、試合中にみるみる開花していくようなものだ。それがこの日いちばん感動したことだった。解散ということより、憧れの武道館に立って、バンドにとって最も大切なものを得ることを第一に考える。これだけ潔い解散劇は、見たことがない。
セットリスト は次第に残り少なくなっていく。「ジャーニー」のイントロで、志磨はゆっくり客席全体を見回しながら「さらば青春!こんにちは、僕らの未来!」と叫ぶ。そして♪さようなら友よ♪と歌う。最後の「ビューティフル」は、僕が初めて毛皮のマリーズを取材した記念すべき曲で、そ れがラストナンバーに選ばれたことが胸に迫った。
アンコールは 何も言わずに、越川のギターのフィードバックから始まった。「YOUNG LOOSER」が終わると、毛マリの終わりのときを直感して、客席のあちこちから「くそったれー!」と声が上がる。純愛の果ての別れに、ふさわしいセリフだ。何も言わずにしばらくそれを放っておいて、越川がギターで静かにアルペジオを弾き始める。「THE END」は、まさにこのときのために書かれた歌なのか。オープニングBGMに使われてきたエディット・ピアフのように、志磨は思いを込めてたっぷりと歌う。愛を歌で伝える。その使命を負った4人は、見事にそれをやり遂げた。解散に関わる発言はなかった。が、彼らはパフォーマンスで解散にまつわるいろいろな感情を表わした。
そんな彼らのやり方を含めて愛してきたファンたちは、メンバーがステージを去ってしばらくしてから、大きな拍手をバンドに贈った。潔いバンドと、潔いファンの最後の一夜だからこそ、かえってセンチメンタルな気分になった。このライブのタイトルの“Who Killed Marie?”は、きっと“死ぬほど幸せ”という意味なのだ。
【 取材・文:平山雄一 】
【 撮影:有賀幹夫 】
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