前へ

次へ

salyu × salyu“話したいあなたと”イベント開催!!

salyu × salyu | 2011.11.15

「今日は“話したいあなたと”という、このようなイベントができて感謝の気持ちでいっぱいです」

 この日、イベントのトリを務めたsalyu_×_salyu。自身のライヴの後半、Salyuはこのイベントへの想いを言葉にした。
「今春、salyu × salyuでデビューして、アルバムを出し、ツアーをしました。これまでにない、様々な評価をいただいて、すごく励みになったし、salyu × salyuでもっと活動していきたいと思うようになりました。salyu × salyuとして、もっと様々なたくさんの感性に触れて、成長していきたい……そんな私の気持ちと、好奇心から始まったのが、今日のイベントです。みんな、ありがとう」

 Salyuの新しいプロジェクトとして、今春スタートしたsalyu ×salyu。自らが指名した小山田圭吾をプロデューサーに迎えて制作されたファーストアルバム『s(o)un(d)beams 』は、それまでの作品とはまったくアプローチの異なる内容だった。この作品で浮き彫りになったのが、Salyuのミュージシャンとしての才能とプロデュース能力ではあるまいか。そのクオリティの高さ、目指す世界観の高さは、各方面、特にそれまであまり縁がなかった新たな媒体から絶賛された。傍から見ていてその様子は、以前からアーティストとして評価の高かったSalyuに、新しく大きく見事な音楽の枝が生えたような、そんな幅を感じさせる動向だったように思う。

 この新たな枝につぼみを見出し、育み、大木とはまた別の花を咲かせてみよう、咲かせたい、咲かせてみせるーーそんな彼女の想いがひとつの形になったのが、今回のイベント「salyu × salyu ―話したいあなたとー」だったのではなかろうか。

 会場がゆっくり暗転する。オープニングアクトとして登場したのは、青葉市子。クラシックギターの弾き語り。淡々とした中にも、豊かな表情のある5曲を披露し「最高の夜にありがとうございました」と、しっかりと己のオリジナリティーを観客に印象付け、ステージを後にした。

 続いてEGO-WRAPPIN’ AND THE GOSSIP OF JAXX。真っ赤に染まるステージの中、全員黒の衣装で「RED SHADOW」。ボーカルのよっちゃん(中納良恵)は、黒い羽根をつけ、拡声器でしょっぱなから観客を煽る。エモーショナル&スリリング。メンバー達のパッションとスキルが、最高の状態で、Zepp Tokyoを走りぬけて行く。「今日はこんな素敵なイベントに呼んでいただきまして、Salyuちゃん、ありがとうございます! 最期まで一緒に楽しみましょう」と挨拶。インプロヴィゼーションのようなアグレッシブなナンバーから、ディープなミディアムチューン、包容力ある優しいバラード、アッパーで派手なアップナンバー、ジャズ、ロック、スカ、ブルース、サイケディリック、そして昭和歌謡と、そのルーツを思いっ切り乱舞させるような、エネルギッシュなステージを展開した。ルーツの乱舞。しかもその様子は、誰が観てもわくわくするほどスリリングで、派手で、思わず踊りだすほどに楽しい。それがEGO-WRAPPIN’ AND THE GOSSIP OF JAXXのライヴの、いちばんの醍醐味なのではと思うのだが、いかがだろうか?

 そして、salyu × salyu。まずは、本人を含んだsalyu × salyu sistersの4人が登場し「overture」。木霊する天使の歌声。リズム、ロングトーン、ファルセット……様々な歌声の要素が交差し、跳ね返る。ハーモニーという表現方法を斬新にとらえたアグレッシヴな1曲だ。バンドメンバーがステージに現れ「ただのともだち」へ。今回のライヴは、開催以前からバンドメンバーにも注目が集まっていた。ツアーメンバーでもあった高井康生(Gt)・ASA-CHANG(Dr)に加え、アルバム『s(o)un(d)beams』のプロデューサー、Cornelius=小山田圭吾、Buffalo Daughterの大野由美子が参加。この豪華メンバーによるアルバム楽曲の再現性は、当イベントのひとつの聴きどころ(体感どころ)だったのではあるまいか。その感想は……じつに乱暴にひとことで言ってしまえば、重力から解放されているのに、しっかりと質量が感じられる、濃密なサウンドになっていたように感じられた。

 中盤。軽快で洗練されたメロディーが光る歌モノ「レインブーツで踊りましょう」で、Salyuの歌声をストレートに楽しんだ後は、アルバムタイトルにもなっている「s(o)un(d)beams」へ。メトロノームのリズムに合わせて、バックライトが順番に光り、目の前で時を刻んで行く。今春行われた中野サンプラザのライヴでも同様の手法が観られたが、今回は音と光のタイミングがより精査された印象で、まさにサウンドとビームが、微塵の隙間もなくリンクしていると思った。光が刻む時。その時の間を、天使の声が駆け抜ける。流れ出す空間の時空。その流れに、バンドのグル―ヴが、少しずつぴったりと重なって行く。音と、声と、光……今、ステージ上にあるものすべてを使い、紡がれ、何かが描き出されていく。それはきっと、鼓動とモノトーンの光る血流。その向こう、イマジネーションの先に見えてくるのは、生命体のバイオリズム。そのど真ん中をSalyuの声が、自在に行ったり来たりする。それはまるで、生まれたばかりの最高の空間をとことん楽しむ、新たな命のようだった。「この曲が、今日のテーマソングになるよね」と、iidaのスマートフォン「INFOBAR A01」のCMでオンエアされていた「話したいあなたと」も含め、全11曲を披露。大きな拍手とともに、salyu × salyuのステージは幕を閉じた。

 アンコール。「ありがとう。とても嬉しいです」と、ファンキーでコケティッシュな「Mirror Neurotic」、EGO-WRAPPIN’のメンバー2人、青葉市子を呼び込み「Calling」へ。この日、出演した女性ボーカル3人が、声&アドリヴでセッションするという、イベントならではのシーンも。大いに盛り上がった客席に向け、最後の曲紹介。Salyuはこんな言葉を紡いだ。
「声の可能性を追求するsalyu × salyu……。最後に、みんな、いい気分で帰られるようにこの曲を送ります」

 この言葉を受け歌われたのが、Lenon Sistersのカバー曲「May You Always」。salyu × salyu sistersの4人が、ステージ中央に集まり、寄りそうように、優しく、ハーモニーを響かせた。  それは彼女から観客へ向けた、極上のブランケットのような、素敵なプレゼントだった。

 

「声の可能性を追求する」と、彼女は、はっきり言った。さあ、次はどんな音と出逢い、どんな刺激を吸収し、どんな表現方法で、どんな声を聴かせてくれるのか。
 彼女の次の声が、今、本当に楽しみでならない。なぜなら、このライヴのことを思い出しただけで、今でも、心の底から、わくわくしてしまうのだから。

【 取材・文:伊藤亜希 】

【 撮影:Taku Fujii 】

tag一覧 ライブ 女性ボーカル Salyu

リリース情報

s(o)un(d)beams

s(o)un(d)beams

2011年04月13日

トイズファクトリー

1. ただのともだち
2. muse’ic
3. Sailing Days
4. 心
5. 歌いましょう
6. 奴隷
7. レインブーツで踊りましょう
8. s(o)un(d)beams
9. Mirror Neurotic
10. Hostile To Me
11. 続きを

このアルバムを購入

トップに戻る