ソロ活動スタートにふさわしい中田裕二のオリジナリティ溢れるライブをレポート!
中田裕二 | 2011.12.28
バンド・サウンドに歌謡曲テイストをうまく取り込んだ人気バンド“椿屋四重奏”を解散して、ソロに転じた中田裕二の初のツアーだ。この11月にリリースしたアルバム『?cole de romantisme』では、ジャンルから解き放たれた中田が期待どおりソウルやファンク、得意の歌謡曲などの音楽性を横断する多彩な楽曲を披露。"tour de romantisme“に注目が集まっていた。
舞台が暗転になって、バンドメンバー4人が現われる。古いレンガの街並を模したステージセットだ。ピアノがゆっくりとしたリズムを刻む中、スリーピースのスーツをまとった中田が登場してアコースティック・ギターを持つ。ピアノがブルージーなリフに変わると、中田がアドリブで歌い始めた。
まず、その声質がいい。またアダルト・オリエンテッドな柔らかい雰囲気がいい。ソロの中田に寄せる期待に応えるオープニングだ。「ようこそ、トーキョー!」と中田が言って、ライブの幕が切って落とされた。
前半は明るくポップなムードで進む。ギターを置いてスタンドマイクで歌う「LOST GENERATION SOUL SINGER」などのパフォーマンスも、バンド時代の中田を知る者にとっては新鮮だ。また、以前の彼を知らない者にも、充分エンターテイナーの資質が伝わっていく。さすがにまだバックバンドの演奏はこなれてはいないが、中田の志向するサウンドの輪郭はよく分かる。大人も楽しめる良質なJ?POPは、今、あまりないから、中田の秘める可能性は大きい。
「改めまして、中田裕二です。ソロになって初の東京でのライブになります。僕にとっての東京のイメージは、銀座か日本橋。僕の音楽性にピッタリだと思います」。そう、この東京・日本橋三井ホールはオフィス街とショップ街のど真ん中の華やかな場所にある。「ではこの街並に似合う曲を」と、中田は歌い出す。ソロのスタートに当たって、彼は意識的に渋谷や下北沢とはまったく異なるこのホールを選んだのだろう。そこにたくさんのオーディエンスが集まってくれたことが、とても嬉しそうだ。
そんな中田の意図がハマッたのは、「白日」。本人のアコギのアルペジオ(爪弾き)で始まるミディアム・テンポのバラードは、切ない恋心をグッと抑えて♪できれば そばにいて♪と歌う。それは今、中田の歌いたい歌であり、彼にしか歌えない歌でもあった。
また、中田はこのライブで新曲4曲を披露。どれも個性的なポップで、ソロでの創作がいよいよ軌道に乗ってきたことを示していて楽しみになった。
後半は盛り上がる楽曲が続く。しかし、それはある意味、バンド時代の名残りのようにも聴こえ、今後は「白日」のテイストで新しい“中田のライブの盛り上がり”を作っていくのだろうという予感を持った。ツアーはまだ始まったばかり。きっと中田はライブを通してどんどん脱皮していくことだろう。
特別だったのは、「ひかりのまち」だった。東日本大震災の直後に発表されたこのチャリティソングは、中田が悲しみに耐えながら搾り出した音楽のエッセンスで、本当に特別だった。ニューアルバムはもちろん、新曲や「ひかりのまち」を届けるこのツアーは、ソロの中田の素晴らしい第一歩になるに違いない。
【 取材・文:平山雄一 】
【 撮影:河本悠貴 】