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キューン20周年を祝うイベントにLAMAとCharaが登場!

LAMA,Chara | 2012.05.07

 4月7日から20日連続で開催された「キューン20イヤーズ&デイズ」。キューンレコード改め、キューンミュージック(以下:キューン)が誇るアーティストが揃い踏みするライヴイベントだ。12日目を迎えたこの夜のアクトはLAMAとChara(出演順)という異色の組み合わせ。とは言え、LAMAのナカコーとフルカワミキは、SUPERCAR時代の2000年に、ゼロ年代の音楽シーンの指針を示した名盤『Futurama』をキューンよりリリースしているが、もともとはエピックレコード(以下:エピック)出身。今年からキューンに移籍したCharaも、同じく1991年にエピックからデビューと、両者にはエピック育ちで、現所属はキューンという共通項がある。
 また90年代より、簡単にカテゴライズさせない個性を武器に第一線で活動を続けてきた両者は、しなやかでタフなポップネスを掲げて、メインカルチャーとサブカルチャーの架橋となったキューンの矜持にとても似つかわしい。そう。一見遠いところにいるようにみえる両者だが、実は似た者同士なのだ。

 まず登場したのは、昨年11月に1stアルバム『NEW!』をリリースしたLAMA。ナカコーとミキの名コンビに、田渕ひさ子(bloodthirsty butchers / toddle)、電気グルーヴ等のサウンドをサポートしてきた牛尾憲輔(agraph)という、オルタナとエレクトロの境界線にそびえるエッジに立つ強者が集ったニューカマーだ。
 キューン所属アーティストのお祝いコメントをカットアップした映像による和やかなムードは暗転により一変。夜明け前の砂嵐を想起させるイントロダクションが静かに鳴り渡り、ほの暗い群青色の明かりがメンバーのシルエットが浮かび上がらせる。一瞬にして緊張感がフロアを支配する。イントロは徐々にフェードアウト、飛び込んできたストロボを背に、『New!』のオープニングを飾った「Warning」をナカコ―が歌い始める。フロアは見聴きしたことのないものが現れそうな気配を察知し、みんな固唾を飲んで凝視している。
 2曲目はエレクトロなダンスチューンの「Night Telepathy」。ミキのロリータチックなボーカルに、ジャンク、オルタナ界隈で名を馳せてきた田渕のソリッドなギターが絡む。期待通りの展開に緊張がほぐれてきたのも束の間、3曲目の「Rockin’ Your Eyes」で一気にギアはシフトアップ。歪んだノイズがキラメキの音粒となり、風景画のような牛尾のサウンドトラックと渾然一体となってフロアに押し寄せ、観客を圧倒していく。この4人の組み合わせによる化学反応は、まさにファンタジック。予感は確信に変わる。この4人でしか生み出せないバンドマジックがここにあった。この曲を演奏している間、タテノリでリズムを取るミキの耳元で揺れていたイヤリングは、まるでファンタジーに誘う魔法のアイテムのようだった。

 会場が温まったところでMC。ミキが1997年にデビューしたSUPERCAR以来の付き合いとなるナカコーを見やりながら「私たちも10年選手だもんね」と感慨深そうに振り返る。この2人に限らずLAMAは、若そうにみえても、実は経験豊富なのだ。

 ここからはMCをほとんど挟まずに、次々と曲が叩き込まれていった。チャーミングながら、ファットなザラつきで迫ってくる「Cupid」、ナカコーと田渕によるギターの掛け合いが見事な「Spell」、シューゲイザー版ウォール・オブ・サウンドと呼びたくなる「White Out」では、クライマックスに大きな歓声が上がった。また、性急なミキのベースピッキングが煽る「one day」、時に両手でマイクを包みながらナカコーが歌う「Blind Mind」、嘆美な美意識の底から瑞々しさが溢れ出す「Fantasy」まで一気に6曲。そして、ライヴはフィナーレへと向かう。
 最終曲は「Dreamin’」。厳かながら浮遊感のあるイントロに「夢見る森の子ども」のようなミキの声が重なる。続いて大地、あるいは心臓の鼓動のようなリズムが、ギターのフィードバックを伴い加わってくる。眠っていた細胞がひとつずつざわざわと目覚め出し、新しい生命が今誕生しようとしているような音のヴィジョンが現れる。「明かり灯して」「夢を見ている」と繰り返すミキ。夢見心地に始まった曲は、やがて巨大な生命力となって押し寄せる。黙々と弾いていた田渕がグッとギターのヘッドを立てる。光と闇を作り出すライティングの中、他のメンバーの姿もおぼろげにしか見えない。膝をつきギターを掻きむしるナカコーのシルエットが強まっていく逆光に溶け、消えていく……。生命の誕生から爆発に立ち合っているような興奮がフロアを包む中、ミキはそっとステージを去る。
 「LAMAに集ったメンバーはひとつひとつの細胞で、それらが有機的に結合し合うことでマジックがかかり、新しい生命のサイクル=ファンタジーが生み出されるのだ」とメンバーがいなくなったステージは告げていた。これが4人がLAMAを結成してやりたかったことなのだと実感した。

 20分程のセットチェンジの後に会場が暗転。大きな拍手と歓声を受けてCharaがステージ上手より登場。オルガンの音色をバックに、フロアの一人一人に語りかけるようにやさしく「Tiny Tiny Tiny」を歌い始める。ステージの左右に置かれた鏡に映るのは、彼女を見上げる観客たちの上気した顔。教会に流れる賛美歌が思い浮かぶ。徐々にボルテージを上げていきこの曲を締めると、間髪入れずに客席とコール&レスポンス。一気に観客をヒートアップさせスウィートソウルナンバーの「Junior Sweet」に突入する。このギアチェンジの早さはさすがのライヴ巧者ぶり。クライマックスではCozyのギターソロと呼応するようにオフマイクでシャウトするなど、憎いばかりの盛り上げ方を見せ、たった2曲で早くも大歓声に会場が包まれる。

 「ドキドキしてる」という言葉で始まったMCは、声援を飛ばす会場に居た5歳の子供との微笑ましい掛け合いを挟み、昨年末から移籍したキューンでのエピック時代に見知ったスタッフとの再会話に及ぶ。レーベルは違えどもホームグラウンドに帰ってきたような懐かしさにすっかりリフレッシュしているようだ。

 和みに満ちたMCが終わり、その後は怒濤の展開。ピースフルに身体を揺らす観客とサビのフレーズを合唱した「しましまのバンビ」、艶かしくも可愛らしい「ゆらしたがる」、「恋人と来たの?チューとかしていいんだよ?幸せはうつるものだからうつしてね?」と語りかけながら始まった「あたしなんで抱きしめたいんだろう?」、愛に喜び、愛に泣く全ての者に捧げるラヴバラード「breaking hearts」を繰り出し、ステージとフロアは完全に一体化。“愛の伝道師”としてCharaがもたらす情けと業の深さが、みんなの心に満ちていった。

 そしてキューン移籍第1弾シングルとして6月6日にリリースされる、ラウドなポップンロック「オルタナ・ガールフレンド」を披露。Laika Came Backとしての活動でも知られるギターのCozy、Curly Giraffeと白根賢一からなるリズム隊を始めとした腕利きのバックメンバー達がこのタイプの曲は、お手の物とばかりに盛り立てる。デビュー時と比べてまったく薄まらない“恋する怪獣”のようなエキセントリックさが、キャリアを積んだ者の実力により増幅されている。Charaのリスタート・ナンバーが「ちょっとおかしいけど、一生懸命に恋する女の子」を全肯定する歌だったことから、彼女のコンディションの良さが伝わってくる。
 この後、ちょっとしたサプライズが。アコースティック・ギターを抱えたLAMAの田淵ひさ子をステージに呼び、2人で譜面台を眺めながら「昨日作った」という出来たての新曲「甘えてよ」を披露。「タイトルは今、決めた」とのこと(笑)。
 ライヴは終盤へ。「怖じ気づかずに人は生きていいのよ」というメッセージを添えた「才能の杖」、リヴァーヴ&ディレイの利いたボーカルとCozyの泣きのギターソロが音源以上の迫力を生んだ「Swallowtail Butterfly~あいのうた~」を経て、マーチングリズムに”何があっても前に進むんだ!!”と強い決意を秘めたかのような最終曲の「月と甘い涙」へと。身をよじり、天を見上げ、両手を掲げるなど、情感たっぷりに熱唱を響かせながら本編はフィナーレを迎えた。

 アンコールはラヴ・アンセムとしてお馴染みの「やさしい気持ち」。お約束のハンドクラップが鳴り、サビのフレーズはフロア中の観客が両手を掲げてCharaと共に「手をつなごう」と歌いあげる。フロアを明るく照らす光。ひざまずいてシャウトするChara。高揚感はどんどん高まり、切なくも幸せな愛のグルーヴが会場中に満ちていく。多幸感。そんな言葉が頭をよぎる。興奮がピークに達したところでCharaは右手に握ったマイクで投げキッスしながらステージを後にした。
 トゥーマッチに愛を突き詰め続けてきた彼女が与える感動。そこには「風変わりなヤツと呼ばれる自分を認めてあげて、勇気を持って愛に生きることから全てが始まる」と、みんなを勇気づける力が底流している。エキセントリックだけど、愛を貫く真っ当な姿勢はデビューから変わっていない。

 他に見当たらない個性をもってシーンを生き抜いてきた底力と、今なお衰えぬクリエイティビティを見せつけた両者のステージは、同時にそういうアーティストと共に歩んできたキューンの懐の深さも再認識させてくれた。

【取材・文:山本貴政】

tag一覧 ライブ LAMA Chara キューン20イヤーズ&デイズ

リリース情報

LAMA『New!』(初回生産限定盤)

LAMA『New!』(初回生産限定盤)

2011年11月30日

KRE

1. Warning
2. Night Telepathy
3. Rockin’ Your Eyes
4. Spell (Alternative ver)
5. Tune On,Tune In,Surf Out
6. Cupid (So Far...ver)
7. Blind Mind
8. doudou
9. Soul Diving
10. Silver Spring
11. Fantasy (The Room ver)
12. Don’t Go Back
13. Ane Mone
14. Dreamin’

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リリース情報

Chara「オルタナ・ガールフレンド」

Chara「オルタナ・ガールフレンド」

2012年06月06日

キューンミュージック

1. オルタナ・ガールフレンド
2. 大切をきずくもの (2012年2月17日 東京文化会館 小ホール)

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セットリスト

LAMA

  1. Warning
  2. Night Telepathy
  3. Rockin’Your Eyes
  4. Cupid
  5. Spell
  6. White Out
  7. one day
  8. Blind Mind
  9. Fantasy
  10. Dreamin’

Chara

  1. Tiny Tiny Tiny
  2. Junior Sweet
  3. しましまのバンビ
  4. ゆらしたがる
  5. あたしなんで抱きしめたいんだろう?
  6. breaking hearts
  7. オルタナ・ガールフレンド(新曲)
  8. 甘えてよ(新曲)
  9. 才能の杖
  10. Swallowtail Butterfly ~あいのうた~
  11. 月と甘い涙
ENCORE
  1. やさしい気持ち

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