個性的なアーティストを擁するスピードスターレコーズの設立20周年記念イベントが、１月18?20日の３日間に渡りZepp DiverCity TOKYOで行なわれた。ロックなイメージが強いスピードスターだが、２日目の19日は実力派シンガーソングライターたちが、それぞれの歌の力を見せつけた。

　オープニング・アクトを務めた黒沼英之は、満杯のオーディエンスと先輩たちの前で緊張しながら、心を込めて３曲を披露。まだ線は細いが心にしみる歌で会場を暖めた。

　それに続き、「たくさんの人が出るから楽しんで」と軽やかなＭＣで空気をほぐしたハナレグミは、東京スカパラダイス・オーケストラのキーボード奏者である沖祐市、昨年の「オアシス・ツアー」に参加した真船勝博のアップライト・ベースと共に登場。「沖さんがいるから」とスカパラにゲスト・ヴォーカルで参加した「追憶のライラック」をシットリ歌い、また沖が鍵盤に飛び乗る熱演を見せた「オアシス」では「病気で来れなかったけど、みんなで源ちゃんにパワー送ってくれよ！」と療養のため出演が叶わなかった星野源への思いを即興で織り込んだ。後半は本人が言った通り「３人でもダンスできるぜ」と自慢するグルーヴィな演奏で楽しく身体を揺らせ、外の寒さをすっかり忘れさせてくれた。

　２番手はウクレレつながりで関口和之とつじあやのが登場。関口が昨年発表したアルバム『UKULELE CARAVAN』を基調にした５人編成で、ウクレレ版インストになった「YaYa（あの時代（とき）を忘れない）」を幕開けに、関口と共演作もある口笛の世界チャンピオン分山貴美子の見事な技に舌を巻いた「口笛吹きと子馬」、つじが歌う「風になる」など、ペダルスティールの小倉博和にベースのヤナギマンと共に大人な味わいの華やかな演奏を聴かせた。

　ここで幕間に星野源の映像が流れ、退院して療養中だが今日は楽しんで、とコメントすると暖かい拍手が起こった。

　星野へのオーディエンスの思いを汲んで、「こういう時は必要以上の拍手と声援を」と呼びかけた浜崎貴司は、キックを踏みながらギターを掻き鳴らして盛り上げた「JOY!」から彼がFLYING KIDSでデビューした時から歌い継いでいる「幸せであるように」まで６曲を熱演。間もなくリリースされる『ガチダチ』で、奥田民生と共演した曲を「ひとりでやります」と「君と僕」を独演。ひとりではやりづらいのかイントロをやり直したりしたが歌い出せば、じわじわと歌い上げて行く説得力は独演ならでは。二人なら違う表情の曲になるのだろうと想像するのも楽しいひとときだった。そして次も『ガチダチ』の曲だが、ここで斉藤和義が登場し共作した「デタラメ」を演奏。シンプルな曲に絶妙な歌詞が乗り、一度聞いたら一緒に歌い出しそうだ。そんな歌をサラリと作って歌ってみせる、二人の骨っぽさに思わずニヤリとしてしまった。

　最後は斉藤和義。「ずっと好きだった」を皮切りに７曲を独演。昨年末にやった弾き語りツアーの延長にあるとも言える演奏だが、更にシンプルにギターだけでラフに歌いながら情感豊かに曲を進めて行く。ぶっきらぼうな表情の中に陰影が織り込まれた「本当のことは歌の中にある」と歌う「歌うたいのバラッド」は、まさにこの日にふさわしい曲だった。最後の「月光」を歌い終えて斉藤が退場しても拍手は止まず、即座にアンコールへ。関口、つじ、斉藤、ハナレグミ、浜崎が並び、ハナレグミが「この後、一杯？」などと話しかけ、「ウイスキーが、お好きでしょ」を歌い出すと歓声が起こり、順番に歌を回して行く。途中から「スピードスターはお好きでしょ？」とアドリブが入ってグズグズになったシーンもあったが、こんなアットホームなところがスピードスターレコーズ。アーティストの率直な表情と歌に心の底から暖まった夜だった。

【取材・文：今井智子】