BRADBERRY ORCHESTRA、スペシャル・ライブ!
BRADBERRY ORCHESTRA | 2013.11.22
BRADBERRY ORCHESTRA(ブラッドベリイ オーケストラ)が始動したのは、約4年前。元々は、小林武史と、大沢伸一のユニットであったが今年から新たにバンドとして再始動。前者は、Mr.Childrenなどを中心に、数多くのヒット曲を生み出してきた日本屈指のプロデューサー。後者は、海外でも有名なDJであり、以前はMondo Grossoというバンドの中心人物としても活躍。両者とも、ハイクオリティーな作品をこの世に送り続けてきたわけだが、他にも共通項があると思う。それは、2人とも音楽に対する表現欲求に幅があること。そしてその欲求の中で、常に“フジィカルさ”を忘れないということ。つまり、体感的。2人とも超ベテランなのに、音楽という表現手段に対して、とてもフレキシブル。だからこそBRADBERRY ORCHESTRAが、成立しているのだろう。
10月29日。明治神宮外苑絵画館前・円形ドームで行われたライヴは、新たにバンドとして始動したBRADBERRY ORCHESTRAだった。メンバーは、小林と大沢に加え、ヴォーカリストとしてはアメリカ人と日本人のハーフでモデルやDJもこなすダイアナ、田中義人(G/EX:Mondo Grosso)、屋敷豪太(Dr)の5人。
「TOKYO DESIGNERS WEEK 2013」(毎年秋に東京・青山を舞台にしたクリエイティブの祭典。その2013年版)の一環として企画された今回のライヴ。会場となったのはドーム型のテント。直径20?30メートル弱くらいだっただろうか。中に入ると、その壁面や天井すべてに「TOKYO DESSIGNERS WEEK 2013」のロゴが映されていて、まるで小さなプラネタリウムのようだった。7?8個のプロジェクターと半球を使ったアートに、来場者の期待も高まっていく。入場と同時に、きょろきょろとドーム内を見まわす観客が何人もいた。
ライヴ前に「TOKYO DESIGNERS WEEK 2013」の主催者がステージに出てきて挨拶。今回のこのイベントのテーマが“アート&ミュージック”であったこと、さらに、2011年の震災で小林氏と知り合い、様々な支援活動を共に行ってきたことが縁で、BRADBERRY ORCHESTRAにイベントのテーマ曲を依頼したことやこの日のライヴが実現したことをアナウンス。そして最後はこう締めくくった。
「とても贅沢な空間です。お楽しみください」
プシュ! この言葉に缶ビールを開ける音が重なった。
暗転。ステージにメンバーが登場する。ライヴが始まる。観客が声をあげる。サウンドが放たれる。オープニングを飾ったのは、CMタイアップ曲にもなった「LOVE CHECK」。ドメスティックなサビメロが印象に残るロック・チューン。曲に合わせて、半球のドームで、アートが展開される。リズミカルに変わっていく映像。サビは日本語の歌詞ながら、ビジュアルでは英語のワードが並んでいく。聴覚は日本語、視覚は英語。が、頭の中ではイメージが時間差なくリンクしていく。プロジェクターの角度や切り替えのタイミングまで計算されているのだろう。トリップ感が、半端ない。半球体、全体を使ったサウンド・ビジュアル・アートが、すぐ目の前で次々開いていく。
この日披露されたのは全部で9曲。オープニングから数曲は、70年代後半から80年代のニューウェイヴを彷彿させるビートが中心。中盤から後半にかけては、クラヴ経由のレイヴに直結するような、4つ打ちのスケール感を生かしたダンスミュージック。曲と曲を“つないだ”ミックス的な方法も、前半とのメリハリが明確で面白かったし、低音が体に当たる感じも気持ち良かった。
この日のセットリストは、ちょっと乱暴に例えるなら、ビートのタイムマシーン。ロックのビートからニューウェイヴ、そしてハウスやテクノへと、70年代後半から、現在までのビートの変遷を、今の耳触り(=音質)で体感できるものだった。
ライヴは全部で約45分。この短い時間でビートの歴史を感じさせるあたりは、BRADBERRY ORCHESTRAの大いなる魅力であると思うが、それよりも強く印象に残ったことがあった。
メロディーと普遍性である。
ダブ、ハウス、エレクトロニカ、ジャズなど、多彩なアプローチもあったりと、聴けば聴くほど発見がある非常に濃密な曲ばかりだったが、どの曲も歌とメロディーがキャッチー&タイトで、とてもポップ性の高いものだった。すべての曲がBRADBERRY ORCHESTRAの音楽としてアイコン化されているように思ったし、そこには、これまでのダンスミュージックとは異なったアプローチでの普遍性が感じられた。
だって、ダンスミュージック特有の“ため”とか無いといっていいくらい曲も演奏もタイトなのに、しっかりリズムを体感させてくれましたし、誰でも共有できる解放感がありましたから。
ライヴ終盤。「a new world」の映像では、ライヴ前半の映像で使われたモチーフがザッピングのように入ってきて、サブリミナル感、満載。トライバルなイントロで始まったアップ―チューンも、様々な時代のリズムをザッピングするように入れてくる。このワードとビートの相乗効果によるタイムトリップは、このバンド、映像、円形ドームという“特別なシチュエーション”が揃っていなければ、体験できなかった瞬間だったのではなかろうか。少なくとも、あの“果てが見えない”空間とサウンドは、私にとっては初体験だった。
最後は「TOKYO DESIGNERS WEEK 2013」のテーマ曲にもなっている「L.P.D」を披露。サイケデリックな映像が展開する中、そのど真ん中に“耳”のイラストが現れた。右手を振り上げる観客。ステップを踏む人。頭を左右に振りながらリズムをとる人。小さく飛び跳ねる人。それぞれが、それぞれの好きなビートをとらえて、踊っていた。「TOKYO DESIGNERS WEEK 2013」のテーマ、そしてBRADBERRY ORCHESTRAのメッセージは、十分に伝わったと思う――メッセージは、説明されて理解するものじゃない。自分の中に何かを取り入れ、そこから見い出すものだ、と。
【取材・文:伊藤亜希】
お知らせ
rockin’on presents COUNTDOWN JAPAN 13/14 supported by Windows
2013/12/30(月)幕張メッセ国際展示場1〜8ホール、イベントホール
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。