tricot、「この景色が見たかった」――ソールドアウトの渋谷Quattroで本領発揮!
tricot | 2013.12.19
通例のスタイルとは若干異なりながらも、だからこその彼女たちの本質や、お互いに助け合い、補い合っていく、まさしく”バンドマン(ウーマン)のあるべき姿”を再度確認したかのような一夜であった。
この日は、tricotの1stフルアルバム『T H E』を引っ提げた全国ツアー「女心と秋のツアー」のセミファイナル。場所はちょうど半年前にワンマンが行われたのと同じ渋谷クラブクアトロだ。その際は残念ながら完売に今一歩及ばずだったが、今回は見事にソールドアウト。満場のフロアが4人の登場を待つ。
ご存知の方も多いと思うが、このツアーの後半、繰り返すアクティヴなライヴパフォーマンスがたたり、ギターのキダ・モティフォに頸椎の椎間板ヘルニアが発症。11月後半の公演は彼女不在にて残りのメンバーで乗り切ってきた。
この日はそんな復帰後2回目のライヴ。とは言え、そのキダへの“お帰りなさい”モードはあったものの、開演前の会場には、彼女の万全の状態であるかという不安要素は漂ってはいなかった。それどころか、たとえ、この日がどのようなライヴになっても全力で楽しむ。そんな気概が場内の至るところで感じられた。そして、満ちていたのは、やはり高い期待値。その期待は客電が落ち、1曲目の「pool side」が流れ出しステージ前の紗幕(しゃまく)に、まずはギターを弾くキダのシルエット、続いてスタンバイしている4人のシルエットが浮かび上がった瞬間に起爆した。すかさず次の「POOL」に飛び込んだ瞬間、紗幕が落ち、まばゆいバックライトを背に4人の勇姿が現れる。艶やかでセクシーな出だしに、ちょっとした意外さを覚えるも、これまでの彼女たちにはなかった立ち上がりに出会え、嬉しくなる。とは言え、この曲は決してしっとりとさせ続けるのみならず。サビのラテンポップが会場のバウンスを呼び込んでいく。
「いけるのか??クアトロ?!!」とボーカル&ギターの中嶋イッキュウが一煽り。続く「飛べ」に突入する。ベースのヒロミ・ヒロヒロを中心に、中嶋、ヒロミ、キダとフロントの3人が一列に並び、激しさと疾走感を呼び起こしていく。伸びやかなサビと女性3声による艶やかなハーモニーの美しさにハッとさせられつつも、続いて現れたサビ部では、「待ってました!!」とばかりにフロアも一緒に歌う。
「好きに踊れるか?渋谷?!!」と中嶋。“飛べ!”の次は“舞い上がれ!!”だ、と言わんばかりに「夢見がちな少女、舞い上がる、空へ」に入る。中嶋の真実を突きつけてくるポエトリーリーディングがこの日も胸にズバッと問いかけてくる。中盤ではキダとヒロミが向かい合い、ヘッドバンキングをしながらプレイ。おいおい、キダよ。首は大丈夫か(笑)!?
ここで、キダが復帰できた報告と、待っててくれたことへの感謝を口にする。“待ってました!!”と歓迎するレスポンスが凄い。
「まだ治療中ですけど、ライヴはやります。首は振らないけど最後までやるんでよろしく」とキダ。
ここからはニューアルバムから、ミディアムで聴かせる歌のゾーンへと入る。「初耳」「おちゃんせんすうす」「CGPP」と、歌やハーモニーを主に、そこにエフェクトや深いリバーブをかけることで“激バンドtricot”とは違った表情と、彼女たちのエアリーさや艶やかで女性的な部分が次々と浮き彫りにされていく。中でも「おちゃんせんすうす」では、ドラムのkomaki♂も間にシャッフルを交えて叩き、楽曲にまどろみを与えると同時に、CD音源をトレースするだけではないライブならではの”現場感”を強くアピールした。
中盤では、キダが参加できなかったライヴを、残りのメンバーだけでアコースティックスタイルで乗り切ったその成果が現れる。中嶋がアコギ一本で歌うというネイキッドな伝達方法も手伝い、「Laststep」ではより少女性がむき出だしになり、楽曲のなかに押し殺されていた愛しい人への想いがぐわっと解放され、「Swimmer」に於いては、「分かって欲しい!」「伝わって欲しい!」、そんな願いにも似た想いが、孤独感と共に広がっていく。また、小学生の頃に弾いて以来の猛特訓の末、再び人前で披露するに至ったヒロミの鍵盤と共に中嶋が歌った「タラッタラッタ」は、これまで以上に感情移入されていて、そこに優しく追いかけるように歌うヒロミのハーモニーも聴きどころとなった。
そして、幾度もの沸騰場面を生んだのはやはりライヴ後半ゾーンであった。
激しさと勢いが交差し、ラストに向けて会場と共に疾走にした「消える」、サビで会場を眺めの良い高みまで引き上げた「おもてなし」、そして「99.974℃」では、ストレートなサビに会場は沸騰。マイクスタンドをひったくるように掴んだ中嶋が「かかって来いよ?!渋谷?!!」と煽ると会場の熱量は更にぐっと上がる。
そんな中、やはりハイライトは「爆裂パニエさん」だった。集まった者たちのアンセムと化した同曲。その最も激しい部分に差しかかると無数のダイバーと阿鼻叫喚の景色がフロアに出現する。そしてラストは「おやすみ」が歌われ、6/8のリズムがダイナミックに広がり、会場に集まった人たちの胸に“明日も頑張ろう!!”的なバイタリティが漲っていく。以前、中嶋がインタビューで、「ようやくライヴのラストを飾る曲が出来た」と、この曲を称していたのが非常に頷ける場面であった。
アンコールは2曲。その前に、3月20日に赤坂ブリッツ、3月27日に大阪AKASO早くも次のワンマンライヴを演ることが告げられる。
アンコール1曲目は「スーパーサマー」。彼女たちも参加した12月18日に発売のコンピレーションアルバム『And Your Birds Can Sing』の収録曲でもあり、みんなで楽しめ、一緒に歌え、騒げる、季節はずれなサマーチューンがフロアを強襲する。そしてラストは「MATSURI」。激しい曲が多いtricotの楽曲の中でも、群を抜いた激しさを持った曲が最後のひと暴れをフロアに促す。そして、まるで吹き荒れる嵐のようなステージを繰り広げた4人は各楽器を置いてフロアに向け、ひと挨拶。ステージを去った。
いつもの力技でグイグイ押しまくるスタイルとも若干違った分、より“歌と演奏”が際立ったこの日。やはり優れたメロディメイクや歌が根幹にあり、その装飾として緩急や激しさや目まぐるしさがあるからこそ、tricotの楽曲は記憶にも印象にも深く残るものだということを改めて知ることが出来た一夜であった。
【取材・文 池田スカオ和宏】
【撮影:Ohagi】
リリース情報
セットリスト
tricot「女心と秋のツアー」
2013.12.8@渋谷クラブクアトロ
- pool side
- POOL
- 飛べ
- 夢見がちな少女、舞い上がる、空へ
- 初耳
- おちゃんせんすうす
- CGPP
- slow line
- Laststep
- Swimmer
- タラッタラッタ
- G.N.S
- 消える
- おもてなし
- 99.974℃
- 爆裂パニエさん
- おやすみ
- スーパーサマー
- MATSURI
お知らせ
New Audiogram ver.7.2
2013/12/27(金)渋谷O-EAST
FM802 ROCK FESTIVAL 2013 RADIO CRAZY
2013/12/28(土)インテックス大阪
COUNT DOWN JAPAN 13/14
2013/12/30(月)幕張メッセ国際展示場1〜8ホール、イベントホール
Telepathy/ Overdrive
2014/01/10(金)恵比寿LIQUIDROOM
Jun Gray Records Presents And Your Birds Can Sing In Kyoto
2014/1/19(日)京都MUSE
DEAD POP FESTiVAL 2014
2014/01/26(日)東京・新木場STUDIO COAST
Jun Gray Records Presents And Your Birds Can Sing In Tokyo
2014/02/02(日)渋谷クラブクアトロ
帰ってきたトリコさん
2014/3/20(木)赤坂BLITZ ワンマン
2014/3/27(木)梅田AKASO ワンマン
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。