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中田裕二、歌手として成熟された“SONG COMPOSITE SPECIAL”ツアーファイナル

中田裕二 | 2014.07.31

 「僕を育ててくれた数々の名曲をたっぷりと愛でながら歌っていこうと思うので、ゆっくりと楽しんでいってください」

 中田裕二は、そう告げてライブをスタートさせた。

 7月17日、横浜・赤レンガ倉庫1号館3Fホール。レンガに囲まれた趣きのある雰囲気の会場にて開催された「yuji nakada presents“SONG COMPOSITE SPECIAL”」。今年6月にリリースしたカバーアルバム『SONG COMPOSITE』を引っさげての全国ツアーのファイナル公演だ。彼の言葉通り、中田裕二にとってルーツとなる数々の歌謡曲を収録したこのアルバム。これまでも弾き語りやアコースティックなセットでのカバーライブにはトライしていたが、バンドセットで本格的に歌ったのは、このツアーが初めてだという。昭和の歌謡曲の精神を今に受け継ぐ彼独自の世界を存分に解き放つライブとなった。

 満場の歓声の中、濃赤色のスーツに身を包んだ中田裕二が登場。ライブは布施明の「シクラメンのかほり」からスタートする。続けては竹内まりや「シングル・アゲイン」から中森明菜「スローモーション」。女性シンガーソングライターやアイドルの楽曲も、彼が歌うことで新しいテイストが生まれる。どこか狂おしく、むせかえるような色気を持ったものに感じられる。

 続けては「このロケーションにぴったりなバラードを歌います」と披露した久保田利伸「Missing」から、原田知世「シンシア」や大橋純子「シルエット・ロマンス」と、ゆったりとした情緒を響かせる楽曲を披露。カバーだけでなく、「LOST GENERATION SOUL SINGER」などのオリジナル楽曲を挟んでいく構成だ。中盤からは、CHAGE & ASKAの「恋人はワイン色」や荒井由実「あの日にかえりたい」、井上陽水「いっそ セレナーデ」などを披露。しっとりとしたバラードだけでなく、オリジナル曲「UNDO」などでは、ソウルフルなグルーヴでお客さんを踊らせる。

 そして。この日のステージで特に印象的だったのは、サポートメンバーとの息のあった演奏だった。メンバーはバンマスの奥野真哉(Key/SOUL FLOWER UNION)を筆頭に、平泉光司(G/COUCH, benzo)、隅倉弘至(B/初恋の嵐)、小松シゲル(Dr/NONA REEVES)という面々。MCによると、この4人と中田裕二からなるツアーバンドは「ザ・ブルーネオンズ」という名前で、「キャバレーの箱バン」というコンセプトで全国を回ってきた、とのこと。

 中田裕二にとっても、奥野真哉と小松シゲルはこれまでのソロツアーでもステージを共にした相手だし、隅倉弘至はかつてのバンド・椿屋四重奏時代からの付き合い。平泉光司とは今回のツアーが初めてらしいが、誕生日だったという彼にメンバー紹介の時に「ハッピーバースデー」をサプライズで歌ったりと、和気あいあいなムードを見せる。それぞれのメンバーのMCでも「ツアーの中で演奏やアレンジがちょっとずつ変わっていくんですよ」と、当意即妙のプレイで呼吸を合わせるステージの楽しさを語っていた。そして、そういう、気のおけない面々ならではの、「音楽を楽しんでる」感覚が、演奏にもにじみ出ていた。

 終盤は、平泉光司とのアコースティック・ギター二本で歌い上げた森山直太朗「愛し君へ」から、奥野真哉のピアノに合わせて歌声を響かせた玉置浩二「ロマン」へ。静かに張り詰めたサウンドにのせて、彼の歌の伸びやかさが伝わってくる。そして再びバンド編成に戻り、本編ラストはUA「情熱」から、オリジナル曲「MIDNIGHT FLYER」。ソウルフルなディスコナンバーを熱のこもった演奏で披露し、お客さんを巻き込んだコーラスと共にエネルギッシュに締めくくった。

 アンコールに登場した中田裕二は、今回のアルバム『SONG COMPOSITE』とそのツアーを「やったことはシンプルだけど、自分にとって意味のあるターニングポイントになった」と語っていた。今までソロの作品では自分がアレンジやサウンドも含めてセルフプロデュース的に制作してきたが、今回は「歌うことに専念した」アルバムだったという。「これまで以上に、歌っていて楽しいと感じるようになった」のだと言う。

 MCではAOR(=アダルト・オリエンテッド・ロック)についての思いも語っていた。「“恋わずらい”は寺尾聰の“ルビーの指輪”を意識して作った」というエピソードを明かしたりしながら、「大人っぽさがあれば何でもありなジャンル」というAORへの思い、カバーアルバムはそれを意識したアレンジをしてもらったことで自分の歌が思った以上にフィットした、という。

 そして、奥野真哉のピアノと共に「僕のAOR人生のスタートになった曲を歌います」と今作にもセルフカバーとして収録されている「紫陽花」を披露。途中では演奏を止めてしまうハプニングに、急遽、尾崎豊「I LOVE YOU」のカバーを即興で披露して喝采を浴びる場面も。そして、メンバー全員とツアーを振り返るMCから、最後はギラギラとしたメロディとゴージャスな演奏にあわせて、オーディエンス全員が手拍子で一つになった「恋わずらい」。さらにはラテンの情熱的なリズム「DANCE IN FLAMES」で興奮のクライマックスを作り出し、5人はステージを降りた。

 この日のMCによると、カバーアルバムでの経験を経て、次なるオリジナル作品への構想も進んでいるようだ。きっと歌手としてのさらなる成熟が形になったものになるのではないだろうか。ソロアーティストとしての中田裕二の向かう先を予感させるような一夜だった。

【取材・文:柴 那典】
【撮影:河本悠貴】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル 中田裕二

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リリース情報

SONG COMPOSITE(初回限定盤) [CD+DVD]

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2014年06月18日

Imperial Records

01. スローモーション ( 作詞:来生えつこ / 作曲:来生たかお)
02. シクラメンのかほり ( 作詞・作曲:小椋佳)
03. あの日にかえりたい ( 作詞・作曲:荒井由実)
04. Missing ( 作詞・作曲:久保田利伸)
05. いっそ セレナーデ (作詞・作曲:井上陽水)
06. ロマン ( 作詞:須藤晃 / 作曲:玉置浩二)
07. シングル・アゲイン ( 作詞・作曲:竹内まりや)
08. シンシア ( 作詞:原田知世 / 作曲:Ulf Turesson, Johnny Dennis)
09. 愛し君へ ( 作詞:森山直太朗、御徒町凧 / 作曲:森山直太朗)
10. シルエット・ロマンス ( 作詞:来生えつこ / 作曲:来生たかお)
11. 情熱 ( 作詞:UA / 作曲:朝本浩文)
12. 恋人はワイン色 ( 作詞・作曲:飛鳥涼)
13. 紫陽花 ~bonus track~ ( 作詞・作曲:中田裕二)

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セットリスト

"SONG COMPOSITE SPECIAL"
2014.7.17@横浜 赤レンガ倉庫1号館3Fホール

  1. シクラメンのかほり
  2. シングル・アゲイン
  3. スローモーション
  4. *新曲
  5. Missing
  6. シンシア
  7. シルエット・ロマンス
  8. LOST GENERATION SOUL SINGER
  9. 恋人はワイン色
  10. あの日にかえりたい
  11. いっそ セレナーデ
  12. UNDO
  13. 愛し君へ
  14. ロマン
  15. *新曲
  16. 彼女のレインブーツ
  17. 情熱
  18. MIDNIGHT FLYER
ENCORE
  1. 紫陽花
  2. 恋わずらい
  3. DANCE IN FLAMES

お知らせ

■ライブ情報

中田裕二の謡うロマン街道
2014/09/06(土) 松山 MONK
2014/09/07(日) 高松 SPEAK LOW

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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