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中田裕二、苦みも甘さも含んでなお、極上のひとときで満たしたツアーファイナル

中田裕二 | 2015.04.10

 酔いしれるとはまさにこの日の感覚を言うのだろう。芬々と匂い立つエロティシズムと、のっぴきならない大人の純情。2014年11月にリリースされた中田裕二のソロ4作目となる最新オリジナル・アルバム『BACK TO MELLOW』、中田流AORの結晶とも言うべき今作を持って全国を回った〈TOUR ’15“BITTER SWEET〉の追加公演にしてついに迎えた3月28日、スーパーファイナルの赤坂BLITZ公演だ。それぞれタイトルに冠された“MELLOW”“BITTER SWEET”の言葉通り、会場となった赤坂BLITZは苦みも甘さも合わせ含んでなおまろやかな極上のひとときに満たされた。

 開演予定時刻のほぼきっかりに場内がゆっくり暗転するや、映画『ブルース・ブラザーズ』でもお馴染みの「ピーター・ガンのテーマ」が鳴り渡った。ゴージャスかつハードボイルドな渋い幕開けにスタンディングフロアは当然のこと、2階の椅子席もすぐさま総立ち状態に。大歓声に包まれながら、中田は慣れた仕草でギターを掛けると「ようこそ!」とひと言、それを合図に屈強なアンサンブルが堰を切る。オープニングを飾ったのはニューアルバムからの1曲、「世界は手のうちに」。乾いたアーバンな情感と小気味よく疾駆するサウンドがオーディエンスをぐいぐいと引っ張り、畳み掛けるように「未成熟」へとなだれ込む。

 「ただいま東京、帰ってまいりました! 〈TOUR ’15“BITTER SWEET”〉追加公演スーパーファイナル赤坂BLITZ、みなさん、ようこそお越し下さいました」

 一息に言い切ったつもりがサポートでバンマスの奥野真哉(SOUL FLOWER UNION / key.)「ちょっと噛みましたね」と即座に突っ込まれる中田。先ほどまでの、リアルな恋の駆け引きのごとくスリル溢れるムードから一転、いきなり場内がほっこり和む。最終日とあってこの日は何台ものムービーカメラが入っており、そのためいつもよりステージと客席が離れていることにも触れ、けれども距離など感じさせないステージングを見せると誓い、さらには「今日はホント天気がよくて春爛漫という感じなんですけど、こっちもさらに春めいていきたいなと思ってます!」と意気込む。そんな飾り気のない素の人懐っこさと、ひとたび演奏と歌に突入するなり立ちのぼる馥郁たる色気とのギャップもまた、この人の魅力に違いない。

 それにしてもなんと中毒性の高い音楽だろう。セットリストの軸はもちろん『BACK TO MELLOW』が担うが、随所に盛り込まれた過去曲がまとったその折々の空気感も絶妙に相俟って、今の彼のモードと目指す世界観がより立体的に迫ってくる。曲によって豊かに表情を変える歌声も然り。前述の奥野を筆頭に小松シゲル(NONA REEVES / Dr.)、カトウタロウ(ex.BEAT CRUSADERS / G.)、真船勝博(FLOWER FLOWER、EGO-WRAPPIN’、AND THE GOSSIP OF JAXX、etc./ B.)という無敵の顔ぶれをサポートに迎えての盤石かつ分厚いバンド・サウンドもさることながら、やはり群を抜いて歌が強い。ロックを幹としつつもブラックミュージックや幼少の頃、多大な影響を受けたという昭和の時代の歌謡曲およびニューミュージックなど、彼の中に根ざすたしかなルーツが育んだ比類なき歌心。ギターをアコースティックに持ち替えて「スイングしようぜ、東京」と文字通りスタイリッシュに誘いかける「誘惑」の艶やかなビブラートも実に蠱惑的ならば、「デイジー」のストレートな切なさに胸をえぐられてハッとしたりもする。「モーション」に帯びる憂い、「PURPLE」の荒寥感。椿屋四重奏時代の楽曲「LOVER」の歌に宿るやるせないまでの激情は裏腹の静けさをもはらんで聴く者を圧倒した。

「ここからどんどん時代を逆行していきます。降りてこい、カーティス・メイフィールド!」

 そう叫ぶなりハンドマイク一本になってステージの前方まで歩み出ては右に左にとエネルギッシュに動き回り、「FUTEKI」「髪を指で巻く女」を立て続けにお見舞い。なんとも扇情的な歌詞といい、これぞ正しきソウル&ファンク。ステージにひざまずいては指で銃の形を作り、踊り揺れる客席をズキュンと打ち抜くポーズも切れ良くキメる。「ここからはアダルトな時間を」とアコースティックスタイルでしっとりと聴かせた中盤戦、「そのぬくもりの中で」ではうっかり歌をとちってしまう場面も。照れ隠しか、クルッと後ろを向いて水をひと口含む中田。BGM代わりに奥野が弾いた「メリー・クリスマス ミスターローレンス」もアットホームな笑いを呼ぶ。これもライヴならではの醍醐味、ファンにはうれしいハプニングだろう。仕切り直した「そのぬくもりの中で」はそれまで以上に集中力も高く、いっそうやさしく心に染み込む気がした。

「僕たちは非常に強い絆で結ばれていると思いますけども、今日はもっともっと仲良くなりたい! そのためにちょっとコミュニケーションを取りたいなと。いわゆるコール&レスポンスってやつを今からやってもいいですか?」

 僕のお客さんだったら大丈夫! とファンキーなコール&レスポンスでぐんぐんハードルを上げていく中田だがオーディエンスも負けてはいない。中田が自在に操る声のあとを果敢に追いかけてはクリアする大合唱に「すごい、よくついてきた。うれしい! こんなお願いにもちゃんとついてきてくれる僕のお客さんはやさしい!」と相好を崩す。最高潮に高まった昂揚の中、炸裂するは「MY LITTLE IMPERIAL」。粘っこく濃厚なグルーヴが容赦なくフロアの腰を揺らした。

「今回は本当にいいツアーで。ここで得たものを楽曲なりライヴなりにフィードバックさせて、次のためのガソリンにしたいと思っています。みなさんにとっても始まりの季節だと思いますし、僕もまた、この春から気持ちも新たにいろいろなことを始めていこうかなと。お互いに頑張っていきましょう!」

 朗らかに歌い上げる「サブウェイを乗り継いで」で互いの未来に力強くエールを送ってスーパーファイナルは幕を閉じた、かに思えた。響き渡ってとめどないアンコールに応えて再び明るくなるステージ。しかし、やはりまだ終われないらしく、まずはここで4曲を演奏。うち1曲はツアー本編ラストとなった札幌公演の後、今日を迎えるまでの間に作ったという新曲だった。このアンコールでも改めて今ツアーの充実ぶりと手応えを語った中田だが、それが早速、楽曲という形に結実しているのが頼もしく、そのうえで繰り出された、これまた椿屋四重奏時代の曲「ランブル」の疾走感がうれしい。

 客席も一緒に記念撮影を行ない、両手をメガホンにした中田がマイクを通さない生の声で「ありがとうございました!」と感謝を告げて去ったあとも拍手は鳴り止まず、いつしかまたアンコールを求める手拍子に変わる。すると「もう1曲、やらせるのか! やろう!!」と真っ先に中田が、続いてメンバーが、満面の笑顔をたたえて戻ってきた。ほとばしるエモーション、ドラマチックで妖艶な「灰の夢」。前々作『MY LITTLE IMPERIAL』のリードトラックであり中田裕二の真骨頂とも呼びたいこの曲がオーラスを飾った。全23曲、2時間半超にも及ぶ圧巻のスーパーファイナル。今度こそからっぽになったステージ、けれど余韻は耳の奥に刻まれて消えそうになかった。

【取材・文:本間夕子】
【撮影:河本悠貴】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル 中田裕二

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リリース情報

BACK TO MELLOW

BACK TO MELLOW

2014年11月19日

Imperial Records

01.愛の摂理
02.誘惑 -album mix-
03.世界は手のうちに
04.そのぬくもりの中で
05.未成熟
06.髪を指で巻く女
07.PURPLE
08.ドア
09.薄紅 -album mix-
10.サブウェイを乗り継いで
11.LOVERS SECRET

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お知らせ

■ライブ情報

yuji nakada presents "spring has come!"
2015/04/16(木) ビルボードライブ大阪
2015/04/17(金) ビルボードライブ東京

ヤイリギター 80周年 Anniversary Concert
2015/04/25(土)岐阜県:可児市文化創造センター ala 主劇場

つばき15th Anniversary 正夢になったフェス
2015/06/06(土) 東京:LIQUID ROOM

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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